巻数多すぎな「まんがで読破」の中でも特におすすめできる良タイトル10選

マンガ

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はじめに

こんにちはdaimaです。
突然ですが皆さんは
名作小説や思想書を漫画化する
『まんがで読破』シリーズをご存知でしょうか?

書店やkindleのセールコーナーで
見かけることも多い本シリーズですが、
セールの時は一冊10円で読めることもあり、
私もちょくちょく読んでいます。

しかしながら複数の漫画化が
分業している本シリーズは
タイトルによってクオリティに大きく差があり、
時にはこれはちょっと…
というものに当たってしまうこともあります。

例えば『孫子の兵法』などは
・孫子が現代風にイケメン化、
・時代考証滅茶苦茶、
・漫画化なのに無駄に文量が多い、
・薄っぺらいオリジナルストーリー、
・孫子が君主になぜかタメ口
と完全に擁護不能の内容でしたし、
『ファウスト』など結末が
原作から改変されてしまって
いるものもありました。

そこで本日は同シリーズを
読む際の一助として、私がこれまで読んだ中で
『本気で面白かったまんがで読破シリーズの
おすすめタイトルベスト10』
をご紹介させて頂きます。

主な評価基準は
・漫画として面白かったか
・感動はあったか
・絵が原作にマッチしていたか
・読んでためになったか
の四点です。

それではどうぞ!

10.解体新書(原作 : 杉田玄白 194P)


(『まんがで読破 解体新書』イースト・プレス より引用)

面白さ    ★★★☆☆
感動     ★★★★☆
画風     ★★★☆☆
ためになる度 ★★★★☆

杉田玄白と前野良沢を中心とする
江戸時代の蘭学者たちが
オランダ語の医学書ターヘル・アナトミアの
翻訳に挑戦し、出版に至るまでの
軌跡を漫画化した一冊です。

この本の最大の見所は、
外国の情報が極端に乏しい
鎖国体制の江戸日本において
オランダ語の書物の翻訳に挑戦する
玄白らの苦労と情熱です。

玄白らが丸一日かけたのに
たった一行も訳せずに憤る場面や
思い込みで誤訳をしてしまったことを
悔やむシーンなどは
私も仕事柄英文を訳して読む機会が多いので
深く共感しながら読むことができました。
(比べちゃダメかもしれませんが笑)

終盤に玄白の口から語られる
『何かを学ぶときは
むやみに信じたり疑うのではなく
実践的かつあらゆる可能性を
考える態度をもちたいものである』
というメッセージにも重みがあり、
読む前の期待以上に
読んでよかったと思わされた一冊です。

9.夜間飛行(原作:サン=テグジュペリ 195P)


(バラエティアートワークス『まんがで読破 夜間飛行』イースト・プレス より引用)

面白さ    ★★★★☆
感動     ★★★☆☆
画風     ★★★★☆
ためになる度 ★★★☆☆

原作は星の王子様で有名な
サン=テグジュペリによる航空小説。

航空機のパイロットでもあった
テグジュペリ自身の体験を基に、
危険極まる開拓記の郵便飛行事業に従事する
パイロットや整備士、そして
彼らを監督する支配人リヴィエールの
生き様や労働哲学が描かれます。

中でも注目すべきは
支配人として職務に誇りを持ち、
時に非情な決断をもくだす
リヴィエールの存在でしょう。

絵になりやすいパイロットの武勇伝だけでなく、
見落とされがちな管理職の苦悩や
格好よさをしっかり描いている点は、
自身も航空郵便事業に携わった経歴のある
テグジュペリならではの視点です。

またコミカライズとしての
クオリティも十分に高く、
暴風に巻き込まれた飛行士と
通信でやり取りする地上側の緊迫感や
航空機が雲海を突き抜けて
月明かりの中を飛行するシーンの美しさなども
よく表現されていたと思います。

総じて『なんのために働くのか?』
という誰もが一度は考えたことのある
疑問について改めて考えさせてくれる一冊であり、
原作既読者にとっても
新たな発見のある内容でした。

8.クリスマス・キャロル(原作:ディケンズ 194P)


(バラエティアートワークス『まんがで読破 クリスマス・キャロル』イースト・プレス より引用)

面白さ    ★★★☆☆
感動     ★★★★☆
画風     ★★★★☆
ためになる度 ★★★☆☆

ヴィクトリア朝イギリスを代表する作家、
ディケンズの同名小説を原作とする一冊。

金儲けにしか興味のないエゴイストで
クリスマスが大嫌いな老人スクルージが
クリスマスの夜に過去、現在、未来を司る
3人の精霊と出会い、金儲けだけに
生きることの虚しさと人のつながりの
大切さを教えられて改心するお話です。

このようにストーリーは至極単純で
今の時代から見るとちょっと
ストレートすぎるかなと思わないでもないですが、
20代も後半になり金銭管理や人間関係に
頭を悩ます機会の多くなった
私のような年齢の人間からすると、
このシンプルさがむしろ強く心を打つ部分もあります。

また絵がついたことで小説よりも
スクルージの心理的な成長に
読者が共感しやすくなっているのも良いところ。
絵柄も作品の世界観を壊すことがなく、
最後まで安定して読み進めることができました。

まんがで読破シリーズの中でも
読後感の爽やかさはピカイチなこの『クリスマス・キャロル』。
ある程度年齢を重ねた方にこそ読んでほしい、
心温まる大人のための童話ですね。

7.戦争論(原作:クラウゼヴィッツ 194P)

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(バラエティアートワークス『まんがで読破 戦争論』イースト・プレス より引用)

面白さ    ★★★☆☆
感動     ★★☆☆☆
画風     ★★★☆☆
ためになる度 ★★★★☆

どうすれば戦争が無くなるか?

その永遠の難問を、
プロイセンドイツ時代に生きた軍人
クラウゼヴィッツの著書
『戦争論』の内容を紐解きながら
問いかける漫画作品です。

内容はキャラクター化された
クラウゼヴィッツが
自身の来歴を交えながら
『戦争論』の内容について
滔々と話を進めるスタイルですが、
絵による表現や言葉選びに工夫があり、
普通にやると退屈になりそうな内容を
上手に興味深く読ませてくれます。

『ナポレオン軍はなぜ強かったのか?』
『戦争にはどんな種類があるのか?』
『攻撃よりも防御の方が強い戦闘形式である』
などの興味を引きやすいテーマに絞って
論理的に解説を進めているのも面白いポイント。

また終盤からは
クラウゼヴィッツの時代を超えて
冷戦時代や核兵器が存在する現代にまで
考察の手を広げています。

現代の日本では
かつてのような白兵戦こそないものの
人間同士の戦いがなくなったわけでなく、
本書の示す人間行動や社会に対する洞察は
ビジネスや他者との交渉ごとなど
様々な局面で応用が効くものだと思います。

百年以上昔の戦術書という
難しいテーマを扱いながら、
ここまで面白く、ためになる内容に
仕上げた手腕は実に見事。
戦争にあまり興味のないという方にも
ぜひ読んでもらいたいと思える秀作でした。

6.1984年(原作:ジョージ・オーウェル 194P)


(『まんがで読破 1984年』イースト・プレス より引用)

面白さ    ★★★★☆
感動     ★★★☆☆
画風     ★★★☆☆
ためになる度 ★★★☆☆

原作はイギリスの作家
ジョージ・オーウェルの同名小説。
村上春樹の『1Q84』や
映画『未来世紀ブラジル』の
下敷きになったことでも有名ですね。

舞台はビッグ・ブラザー率いる
巨大な全体主義国家に支配された
1984年の架空のイギリス。

人々の思想や言葉が支配され
政府に逆らうものは存在ごと抹消される
究極のディストピア社会を描いた原作は
今に至るまで名作小説の名をほしいままにし、
社会や人間の本質について
私たちに大きな問いを投げかけ続けています。

そしてこの漫画版ではその1984の物語を
原作の雰囲気を壊さず上手にコミカライズしています。

ページ数の都合で原作から
端折られた部分も少なくありませんが、
それでも原作の持つ重苦しい独特の空気感や
全体主義への警鐘という最も
重要なメッセージはしっかり伝わってきます。

現代のあらゆるディストピアものの
源流を抑えるという意味でも、
監視社会に抵抗する人間の姿を描く
スリルのある漫画作品としても
十二分に楽しめるおすすめの一冊です。

5.エミール(原作:ジャン=ジャック・ルソー 194P)


(バラエティ・アートワークス『まんがで読破 エミール』イースト・プレス より引用)

面白さ    ★★★☆☆
感動     ★★☆☆☆
画風     ★★★☆☆
ためになる度 ★★★★★

原作は社会契約論で知られる
思想家ジャン=ジャック・ルソーによる
こどもの教育をテーマにした小説作品。

内容はルソーが架空の赤ん坊(エミール)
の教師となって、エミールが独り立ちするまで
ルソーの考える最も理想的な教育を
施すという一種の思想実験です。

原作が成立したのは
今から250年以上も昔ですが
作中でルソーが繰り返し説くのは
自然の中で子供をのびのび育てて
感受性を育てることの重要さであり、
その主張は現代の私たちから見ても
自然に納得できるものばかり。

『不幸はものをもたないことではなく
それを感じさせる欲望の中にある』

『子供は人から言われたことはすぐ忘れるが
自分がしたり人が自分のために
してくれたことはなかなか忘れない』

『子供にふさわしい
道徳上の唯一の教訓は
誰にも害を与えないことである』

『私たちは2回この世に生まれる、
1回目は存在するために、
そして2回目は生きるために』
などの名言も盛りだくさんで、
とにかく得るものの多い一冊でした。

これから子育てを控えている方もちろん、
教育者を目指す方にもおすすめですね。

4.雇用・利子および貨幣の一般理論(原作 : ジョン・メイナード・ケインズ 386P)


(Teamバンミカス『まんがで読破 雇用・利子および貨幣の一般理論』イースト・プレス より引用)

面白さ    ★★★★☆
感動     ★★★☆☆
画風     ★★★☆☆
ためになる度 ★★★★★

世界恐慌の時代に活躍し、
アダム・スミス以来の古典経済学に変わって
新たな『ケインズ経済学』を打ち立てた
経済学者ジョン・メイナード・ケインズの
代表的著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』を
漫画で解説することに挑んだ意欲的な一冊。

経済学というと
どうしても小難しい理論や数式が思い浮かびますが、
この本では読者の視点をケインズ夫人が代弁し、
難しい経済用語については

『"資本の限界効率"="新たな機会が生み出す稼ぎ"』、
『"限界消費性向"="もっとお金を使いたい!"』

といった具合にわかりやすい言葉に置き換えて
説明してくれているので、
経済学の前知識がなくても
スラスラ内容が理解できるようになっています。

シンプルで可愛らしい絵柄や
適度に笑えるケインズ夫婦のやりとりが
経済学のとっつきにくさをうまく和らげており、
約360ページという大ボリュームながら
1日かけずに読み切ってしまいました。

流石にこれ一冊でケインズ経済学の
全てを理解できるとは言い切れませんが、
その大枠を掴むことや
これから経済学に触れてみようという方の
第一歩目としては大変おすすめできる優れた一冊です。

3.破戒(原作 : 島崎藤村 195P)


(バラエティアートワークス『まんがで読破 破戒』イースト・プレス より引用)

面白さ    ★★★★☆
感動     ★★★★☆
画風     ★★★★☆
ためになる度 ★★★☆☆

明治時代の身分差別を扱い、
様々な議論を呼んだ島崎藤村の小説
『破戒』のコミカライズ作品。

被差別階級の穢多出身であることを
隠して生活している青年教師の瀬川が、
「自分は穢多である」と公言する思想家
猪子蓮太郎と出会い、自身の生き方に
葛藤する様子が描かれます。

中でも私の琴線に触れたのは
瀬川が猪子に自分は穢多ではないと
突き放した場面の猪子の表情の描き方と
ラストの瀬川による子供達への
演説シーンのふたつ。

絵柄やギャグのセンスに少々クセはあるものの、
全体的に綺麗に物語がまとまっており、
人間が存在する限り決してなくならない
差別の残酷さを改めて考えさせられました。

2.君主論(原作:ニッコロ・マキャベリ 195P)


(『まんがで読破 君主論』イースト・プレス より引用)

面白さ    ★★★★☆
感動     ★★★☆☆
画風     ★★★☆☆
ためになる度 ★★★★★

マキャベリと君主論には古くから
マキャベリストやマキャベリズム
といった言葉から連想されるような
手段のためならどんな非情な手段も厭わない
一種の反道徳的なイメージがつきまとってきました。

しかしながら本書はそんなマキャベリを
常に周囲の強国に脅かされ続ける
情けない故郷フィレンツェを
何とか自立させたいと奮闘する
愛国心溢れる青年として描いています。

野心家のフランス王をはじめとする
諸外国との駆け引きや
マキャベリ自身が編成した
自国軍によるピサ奪還作戦の過程などは
非常にスリリングで読み応え十分。

そして本書において
マキャベリと同じくらい重要なのが
マキャベリと同時代に生き、
マキャベリが君主論の中で
最も優れたリーダーの手本とした
チェーザレ・ボルジアの存在です。

ローマ教皇の子として生まれたチェーザレは
軍人、政治家として優れた手腕を発揮し、
その一貫した冷徹さと的確な判断力で
次々に領地を拡大していきます。

マキャベリはそんなチェーザレと交流を持ち、
その活躍を肌で感じながら、
『理想的な君主(リーダー)』についての
思索を深めていくことになるのです。

このように本書は
ストーリー漫画として楽しめるだけでなく
ルネサンス期ヨーロッパの
複雑な政治関係の概要を掴む上でも
有益な一冊に仕上がっています。

そして何より、本書で示される
君主論の内容は人間心理の本質に迫るもので
文化や時代を問わず応用可能な普遍性があります。

『君主論』の大枠を掴みたい方はもちろん、
ルネサンス期のヨーロッパ史に興味のある方や
伝記物が好きな方にはこの
『君主論』を強くお勧めします。

1.蟹工船(原作:小林多喜二 195P)


(バラエティアートワークス『まんがで読破 蟹工船』イースト・プレス より引用)

面白さ    ★★★★☆
感動     ★★★★☆
画風     ★★★★★
ためになる度 ★★★★☆

プロレタリア文学を代表する
小林多喜二の小説『蟹工船』を
少年マガジン辺りに載っていそうな
劇画チックな絵柄で漫画化したこの作品。

『船』ではないから航海法が適用されず、
『工場』でもないため工場法も適用されない
という無法地帯の蟹工船を舞台として、
権力を盾に横暴の限りを尽くす主任監督の浅川と
熱血漢の主人公、森本をはじめとする
労働者たちとの対立が描かれます。

作中で描かれる労働者たちの生活は
まさにこの世の地獄。

周囲を360°海に囲まれ、
どこにも逃げ場のない船の上で
毎日夜中の2時に起きて午後6時まで
合計16時間もの肉体労働を休日なしで強いられて
病気になっても診断書すら書いてもらえない。

さらにノルマが厳しくなると
成績の悪い班には
焼きごてのペナルティが課され、
労働から逃げようと逃亡を図れば
賞金がかけられて見つかれば
半殺しになるまでリンチされる。

もし自分がこんな世界に放り込まれたら
きっと3日も耐えることができないだろうと
読んでいて底冷えするような恐怖を感じました。
(ちなみに蟹工船は完全な作り話ではなく、
当時漁船『博愛丸』で実際に起きた
虐待事件をベースとしています)

そして有給や労働法など、
昔と比べればはるかに充実した
ぼくらの今の労働環境が
こうした昔の人々の苦しみの上に
成り立っていることを強く痛感させられました。

また単に一つの漫画作品としてみても面白く、
資本家の代表である浅川を悪、
それに立ち向かう主人公たちを善と
はっきり分けて書いていることで
読者がカタルシスを得やすい構図になっており、
構図や台詞回しにも迫力があって
最後まで飽きずに読ませるパワーがあります。

逆に惜しかったなと思う点はラストの駆け足感。
そして(時代的に仕方のないことですが)
共産主義を過度に美化しているきらいがあるところです。

しかしながら総合的に見ればこの『蟹工船』は
シリーズの中でも一番面白く、
最後までワクワクして読めた作品でした。

全ての人に関係ある労働という問題を
扱った名作として、すでに大人になった
ぼくら以上にこれから社会に出て行く
学生の方にこそ読んでもらいたい一冊です。

おわりに

まんがで読破シリーズの
おすすめタイトルベスト10、
いかがでしたでしょうか。

これらの漫画を気に入ったら、
より理解を深めるためにぜひとも
原著にあたってみることをおすすめします。
(蟹工船や破戒などは青空文庫で読むことも可能)

それでは!

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