私が死ぬまで側に置いておきたい1冊。『ハッカーと画家』のススメ

ハッカーと画家読書

私の人生に多大な影響を及ぼした一冊

死ぬまで捨てずに
手元に置いておきたい本
というのは意外と少ない。

『ハッカーと画家』は私にとって
その条件に当てはまる数少ない1冊だ。

著者はYahoo! storeの前身となった
Webシステムを開発したプログラマーであり
現在は米国のスタートアップ支援企業、
Y Combinator(Yコンビネーター)の創業者としても知られる
Paul Graham(ポール・グレアム)氏。

内容としては独立したエッセイ集であり、
目次を開くとそこには「どうしてオタクはもてないか」
「口にできないこと」「富の作り方」などといった
なんとも興味をそそられる副題が並んでいる。

ハッカーと画家の目次

そして、肝心の内容もまた
そのタイトルに負けないくらい面白く刺激的だ。

良いデザインとは何か?
競争に勝つ集団の特徴とは何か?
富の本質とは何か?
といった重要だけど答えの出しにくいテーマについて
軽快なユーモアをふんだんに交えつつ
歯に衣着せぬ態度で鋭く切り込んでいる。

その鋭さは、
正直読んでいるこちらが思わず
「そこまでぶっちゃけていいの?」
と心配になるほどだ。

とはいえ良く読めばその主張はどれも筋が通っており、
なおかつ時代を超えて通用する普遍性がある。

実際にこの本が世に出たのは
今からもう20年ほど昔になるにも関わらず、
2023年の今読み返してもなお
数多くの新鮮な驚きを与えてくれる。

本日はその中でも特に
非プログラマーの方でも興味を持ちやすく、
なおかつ私が深い感銘を受けた部分を抜粋して紹介することで、
一人でも多くの方に『ハッカーと画家』という本の存在を
知って頂く機会としたい。

ベンチャーが競争に勝ち抜く方法

ベンチャー企業が競争を勝ち抜く方法について、
グレアム氏は自身の経営経験を踏まえて次のような意見を述べている。

あなたが新しいアイディアを思いついて
ベンチャーキャピタルに投資をもちかけたとしたら、
最初に尋ねられるのはそれを他の誰かが作るのは
どれだけ困難な領域が確保してあるか、だ。

そして、あなたはその技術を他で作るのが
どれだけ困難かという、説得力のある説明を用意しておかなければならない。
でなければ、大会社はそのアイディアを見た途端に
自分で同じものを作り、大会社のブランド名、資本、販売チャネルを使って、
あなたの市場を一夜にして奪ってしまうだろう。
まさに、正規軍に平原の真ん中で捕まるゲリラみたいなものだ。

(オーム社 Paul Graham 著/川合史郎 監訳『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』第6章 富の創りかた より)

競争相手が真似するのが難し過ぎるような技術を作りさえすれば、
他の防御に頼る必要はない。
難しい問題を選ぶことから始め、決断が必要な場面では常に難しいほうを選べばよい。

(オーム社 Paul Graham 著/川合史郎 監訳『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』第6章 富の創りかた より)

特に最後の、「難しい問題を選ぶことから始め、決断が必要な場面では常に難しいほうを選べばよい。」
というアイディアには私自身、業務上の難しい問題にぶつかった時に、
安易な道に逃げ出さずに挑む勇気を分け与えてもらっている。

困難な問題に取り組む事は苦しいことかもしれないがその分学びも大きい。
これを乗り越えれば他の連中の一歩先に行けると考えることは、
実際モチベーション維持に驚くほど効果的だった。
(※ただし世の中にはただ苦しいだけで学びの無い状況もわりかしあるので、そうい問題に対しては全力で逃げることをお勧めする)

ちなみに少々専門的な話にはなるので恐縮なのだが
グレアム氏の場合、Common Lispという強力だが文法が特殊で
習熟の難しいプログラミング言語を開発言語に採用することで
同業他社に差をつけて一歩上を行くことができたと本書で語っている。

「良いデザイン」ってなんだろう?

本書のタイトルを最初に目にした時
貴方はこう疑問に思ったかもしれない。

ハッカーと"画家"?
この2つに何の関係があるんだろうか、と。

その答えはシンプルに、著者のグレアム氏が
この2つについて強い興味と関心を持っていたからだ。

ハッカーの方については説明不要として、
画家の方についてはフィレンツェの美術学校で
絵画を学んだ経歴があることが
著者プロフィールに記載されている。

そしてその背景ゆえか、
グレアム氏はデザインについても
丸々1章分を割いて非常に興味深い主張をしている。

  • 良いデザインは単純である。
  • 良いデザインは永遠である。
  • 良いデザインは正しい問題を解決する。
  • 良いデザインは想像力を喚起する。
  • 良いデザインはしばしばちょっと滑稽だ。
  • 良いデザインをするのは難しい。
  • 良いデザインは簡単に見える。
  • 良いデザインは対称性を使う。
  • 良いデザインは自然に似る。
  • 良いデザインは再デザインだ。
  • 良いデザインは模倣する。
  • 良いデザインはしばしば奇妙だ。
  • 良いデザインは集団で生起する。
  • 良いデザインはしばしば大胆だ。

書籍内では各主張の詳細が補足されているが、
その中でもとりわけ私の心に響いたのが以下の内容だった。

バウハウスのデザイナーがサリヴァンの「形態は機能に従う」という方針を採用したとき、
彼らが意図したのは「形態は機能に従うはずだ」ということだった。
そして機能が難しいものであるなら、形態もそれに従わざるを得ない。
誤りを犯す余地はないからだ。野生の動物が美しいのは、彼らが困難な生を生きているからだ。

(オーム社 Paul Graham 著/川合史郎 監訳『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』第9章 ものつくりのセンス より)

私は日本語訳されたものしか読んでいないけれど、
初めてこの一文を読んだ時、なんて美しい喩えだと感心したものだった。

確かにその通りだ。
動物も、虫も、植物も、全て理由があってあのような形をしている。

無駄がないものは美しいし、
それは数式やプログラミングにも共通する不変の真理だ。

仕事を捨てるのには自信が必要だ。
「ここまでできたのなら、もっとできるはずだ」、
こう考えることができなくちゃならない。
例えば絵を描き始めたばかりの人は、
うまく描けなかった部分をやり直したがらない。
ここまでできたのはラッキーだった、
これ以上何かやったら悪くしてしまうかもしれない、
そう思ってしまうのだ。
やり直す代わりに、そんなに悪くないじゃないか、きっとこう描くのが良かったんだと、人は自分を納得させてしまう。

危険な領域だ。
むしろ、不満足な点を突き詰めなければ。
ダ・ヴィンチの絵画には、しばしば5回も6回も線を正そうとした跡が見て取れる。
ポルシェ911の特徴的な背面は、ださいし作品があって初めて生まれた。
ライトのグッゲンハイム美術館の初期の計画では、
右半分はジグラット形式になるはずであった。
彼は後にそれを現在の形へと改めた。

間違うのは自然なことだ。
間違うのを大失敗のように考えるのではなく、
簡単に見つけて簡単に治せるようにしておくことだ。
ダ・ヴィンチは絵画においてより多くの可能性を試すことができるように
スケッチを発明したと言っても、当たらずとも遠からずであろう。

(オーム社 Paul Graham 著/川合史郎 監訳『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』第9章 ものつくりのセンス より)

この主張にも唸らされた。

私も下手の横好きで絵を描くからわかるのだが、
絵を描くときは常に失敗を重ねることが前提になる。

どんなに練習を重ねても
一発で理想的の線が引けることなどまずないし、
大抵の場合は最初に書いた大まかなアタリを
何度も修正しながら少しづつ頭の中にある
理想的な描写へと近づけていくことになる。

そして特に重要な事は
これが絵に限らずあらゆるものつくりに適用できる
原理原則であるということだ。

山ほどのダメな試作品の山を積み重ねなければ
良いものは生まれない。

そこが変えられないとしたら、
あとは失敗と試行のサイクルを
どれだけ早く回せるかという点に
尽きるのではないだろうか。

良いハッカーの条件とは?

最後に、グラハム氏が提示する
良いハッカーの条件に付いて触れておこうと思う。

何かをうまくやるためには、それを愛していなければならない。
ハッキングがあなたがやりたくてたまらないことである限りは、
それがうまくできるようになる可能性が高いだろう。
14歳の頃に感じた、プログラミングに対するセンス•オブ•ワンダーを忘れないようにしよう。

今の仕事で脳味噌が腐っていってるんじゃないかと心配しているとしたら、多分腐っているよ。

(オーム社 Paul Graham 著/川合史郎 監訳『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』第16章 素晴らしきハッカー より)

最高のハッカーはもちろん賢いけれど、
それはほかのいろいろな分野でも同じだ。
ハッカーについてだけ特有な資質はあるだろうか。
何人かの友人に尋ねてみた。最初にあがってくる答えは、好奇心だった。
賢い人はみな、好奇心が強いと私は思っている。

(オーム社 Paul Graham 著/川合史郎 監訳『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』第16章 素晴らしきハッカー より)

自分を素晴らしいハッカーにすることができるとしたら、
その方法とは、自分自身に対して次の契約を結ぶことだ。
以降、退屈なプロジェクトの仕事は一切しなくてよい(家族が餓死しそうでない限りは)、
その代わりに絶対に中途半端な仕事はしない。

(オーム社 Paul Graham 著/川合史郎 監訳『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』第16章 素晴らしきハッカー より)

私が本書を最初に手に取った頃は丁度
自分の業務内容が固定化して
新鮮味がなくなってきたことに悩んでいた頃だったから
最初の脳味噌についてのフレーズは特にガツンと響いた。

今思えば確かにあの頃の
私の脳みそは腐りかけていたのかもしれない(笑)

私は今でこそ転職を経て
新しい領域にチャレンジできる環境を得られているけれど、
その決断が出来た理由としては
この本を読んだことで発破を掛けられたというのも大きかったと思う。

そしてもうひとつ、
ここで大事なのが好奇心という言葉。
これは本当に大切なものだ。

どんなことでもつまらないと思ってみればつまらなくなるし、
逆に面白い分があると思ってみれば本当に面白い部分が見えてくる。

そういう「何かやってやろう」という
前向きな感情を呼び起こしてくれることこそが
もしかするとこの『ハッカーと画家』と言う本のもつ
最高の価値なのかもしれない。

おわりに

今回取り上げた内容は
本書に含まれるごくごく一部に過ぎないし、
他の人が読めば、他の章で
もっと心動かされる言葉に出会えるかもしれない。

2000円ちょっとと決してお安い本ではないけれど
それだけの価値があることは私が保証するので
興味が湧いたらぜひご自身でも手に取って読んでみてほしい。

きっと世界の見え方が少し変わるはずだ。

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