【兵は詭道なり】現代人にも役立つ孫子の名言12選【原文・解説付き】

哲学

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はじめに

孫子とは何か。なぜ今も読まれるのか

孫子とは中国の春秋~戦国末期に
思想家の孫武によって成立したとされる、
戦における心構えや、勝利を得るための
指針を示した兵法書です。

その実用性は歴史が証明しており、
例えば三国志の英雄曹操孟徳
「吾れ兵書、戦策を観ること多きも、
孫武の著す所は深し」
孫子を絶賛し、
独自の注釈書(魏武帝孫子)まで残しています。

日本には八世紀ころに、遣唐使
吉備真備によって孫子が輸入され、
後世の武人の必読書となりました。

中でも、戦国最強とも名高い
甲斐の武田信玄孫子の愛読者であり、
の四語を孫子の一節から
とったとする逸話は有名ですよね。

近現代に目を移せば、
中国共産党創始者毛沢東
孫子の思想を応用した持久戦略、
遊撃戦略を実践していますし、
1990年の湾岸戦争では、
米軍のノーマン・シュワルツコフ
中央軍司令官

孫子の兵王を取り入れた作戦で
イラク軍に対し短期決戦を成功させています。
(参考:湾岸戦争 孫子の兵法で戦った、砂漠の嵐作戦)

現代のビジネスシーンでも通用する思想

ここまで挙げた例を見てわかるように、
孫子はあくまでも、命のやり取りをする
戦場を想定して書かれた書物ですが、
その分析の深さは、
現代のビジネスシーンにも
十分に通用する部分があります。

例として、ソフトバンクの創業者
孫正義やマイクロフトの創業者
ビル・ゲイツ孫子を愛読し、自らの
経営に取り入れたことは広く知られています。

洋の東西、時代の今昔を問わず、
孫子の思想が広く活用されるのは、
その内容が、一定の普遍性を持ち、
かつ、戦いという行為の
核心を突いているからこそでしょう。

本記事では、数多ある孫子本の中でも
特に評価の高い、講談社学術文庫
浅野祐一氏による訳本「孫子」を元に、
私が特に感銘を受けた名言を
書き下し文、原文、意訳、解説の
4点セットでご紹介します。

それではどうぞ!

第一章 計篇

兵は詭道なり

原文

兵者詭道也

通訳

戦争とは、敵をだます行為である。

解説

ビジネス書などで特に
引用される機会の多いこちらの名言。

孫子は本文中にて、
以下のように具体例をあげています。

  1. 敵が利益を欲しがっているときは、その利益を餌に敵軍を誘き出す。
  2. 敵が混乱しているときは、その隙をついて攻撃し敵の戦力を奪い取る。
  3. 敵の戦力が充実しているときは、敵の攻撃に対して防御を固める。
  4. 敵の戦力が強大なときは、敵軍との接触を回避する。
  5. 敵が怒りはやっているときは、わざと挑発して敵の態勢をかき乱す。
  6. 敵が自軍の攻撃に備えていない地点に出撃する。
  7. 敵が謙虚なときはそれを驕りたかぶらせる。
  8. 敵が安楽であるときはそれを疲労させる。
  9. 敵が親しみあっているときはそれを分裂させる。

命をかけた戦争において、
だまし討ちは正当な手段のひとつ。

史実におけるだまし討ち(奇襲)の
例を挙げると、
ハンニバルのアルプス越えや
源義経の坂落としが好例でしょうか。

勢とは、
利に因りて権を制するなり。

原文

勢者、因利而制權也

通訳

勢いというのは、
その時々の有利な状況を見抜いて、
臨機応変に対応する事である。

解説

数の上では有利な状況であっても、
その状況を上手く活かすことができなければ
勝利を掴むことは出来ない、という教え。

大が小に破れた戦いと言えば、
8万のローマ軍が1万のカルタゴ軍に敗れた
カンネーの戦いや、スペインの無敵艦隊
戦力で劣るイングランド軍に
地形の利で敗れた、16世紀の
アルマダの海戦が思い浮かびます。

いずれも、地形や戦術によって
勢いを得た軍が勝利しており、
孫子は、国家運営による
体制の充実と並んで、この
「勢」の存在を重要視しています。

第二章 作戦篇

兵は拙速を聞くも、
未だ巧(たくみ)の久(ひさ)しきを
賭(み)ざるなり

原文

兵聞拙速、未賭巧久也

通訳

戦争には、多少まずい点があっても
早々に切り上げるという例は聞いても、
巧妙な作戦を立てて
長引かせるという例は聞いたことがない。

解説

戦争とは、武器、兵糧、諸外国との交渉など、
時刻に膨大な費用を強いるものだから
なるべく速やかに終結すべきであるという教え。

目先の結果だけに囚われず、
長期的コストを常に念頭に置き、
欲張らず引き際を見極めることの
大切さを学ばせてくれる名言です。

智将は務(つと)めて
敵に食(は)む

原文

智將務食於敵

通訳

優れた将軍は、
できる限り敵地から
食糧を調達するように務めるものだ

解説

孫子は引き続き兵站の重要性を説いた上で
最も賢い戦い方は、敵から食糧(などの資源)
を調達することで、自軍の出費を抑える
戦い方であると語ります。

戦いに勝ち、相手を叩きのめすだけで
満足しているようではまだまだ二流。
将棋のように、敵の持ち駒すら
自分のものとして組み入れてこそ
本当に賢い勝ち方ということでしょう。

第三章 謀攻篇

戦わずして人の兵を屈するは、
善の善なる者なり。

原文

不戰而屈人之兵、善之善者也

通訳

戦わずして相手に勝つというのが、
最善の方策である。

解説

孫子は、戦争の本質は相手の思惑を退け
自分たちの利益を確保することにあり、
実際に戦場で干戈を交えること、
つまり戦闘行為は、そのための
一手段に過ぎないのだと喝破します。

一度武力に訴えてしまえば、
たとえ勝っても無傷では済みませんし、
なにより大きな禍根が残ります。

世の中には避けられない争いも多々ありますが、
それでもできることならば
話し合いに持ち込んだり、
時には自分の力を見せつけるなどして、
衝突を避けることが、
双方にとって最上の策なのでしょう。

彼(か)れを知り己を知らば、
百戦して殆うからず。

原文

知彼知己、百戰不殆

通訳

相手の実情を理解し、
自分の実情も正しく理解していれば、
百回戦っても危険には陥らない。

解説

こちらも大変よく知られた名言です。
ビジネスに置き換えてみると、彼れを知るとは
競争相手の資金力や技術力の実情を知ること、
逆に己を知るとは、自分の強みと弱み、
置かれた状況などを客観的に理解することです。

特に、「己を知る」という教えは身に沁みます。
自分のことは自分が一番
わかっていると思いがちですが、
人から指摘されて初めて気付く
長所や欠点は意外に多いものです。

自分に何ができて、何ができないのか。
人が自分のどんな所を評価するのか。
それらを的確に認識できている人こそ
安定して最大の実力を
発揮できるのではないでしょうか。

第四章 形篇

善く戦う者は、
先(ま)ず勝つ可(べ)からざるを為して、
以って敵の勝つ可きを待つ。

原文

善戰者、先為不可勝、以待敵之可勝

通訳

戦いの上手い者は、
まず自軍の守りを固めて、
敵が勝つ可能性を無くした上で、
敵が弱点を見せる機会を待つ。

解説

孫子は攻めることよりも、
まず自分の足元を固めて
容易に負けない体制を作り上げること、
そして相手が隙を見せるのを待って、
そこを素早く突くことが勝利にとって
大切なことであると説きます。

なぜ守備を優先すべきかについて孫子は、
守備を固めることは自分の
努力の範囲内で達成できることだが
攻撃が成功するか否かは、
敵の状況に大きく左右され、
大いに不確実性を含むからだ
と本章で説明しています。

また、守備の体制を取れば自軍に余裕ができ、
逆に攻撃の体制を取れば兵力が不足する
ことも理由として挙げられています。

ビジネスやゲームでもそうですが、
長期的な視野を持ち、我慢が効き、
ここぞという機会を見逃さない人こそが
最も強力なプレイヤーと言うことでしょう。

勝兵は先ず勝ちて而(しか)る後に戦い、
敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む。

原文

勝兵先勝而後戰、敗兵先戰而後求勝

通訳

勝利する軍は勝利が確定してから戦い、
敗北する軍は戦い始めてから勝利を追い求める。

解説

勝敗を分ける要因は、戦闘の最中ではなく、
戦闘開始前の準備段階にあるという点を指摘する言葉。

漫画や小説などの創作物では、
圧倒的不利な状況から、個人的ひらめきや奇策で
強大な敵に逆転勝利する展開が好まれますが、
孫子は、事前の準備によって
勝って当たり前の状況を作り出し、
全く危なげなく勝つものこそが
もっとも戦上手であると説きます。

第五章 勢篇

凡(およ)そ戦いは、
正を以て合い、
奇を以って勝つ

原文

凡戰者、以正合、以奇勝

通訳

およそ戦闘というのは、
正法で敵と対峙し、
奇法で勝利を得るものだ。

解説

ここでいう「奇法」とは
一般的に三国志演義諸葛亮孔明が行うような
奇想天外な作戦という意味で捉えられがちですが、
著者浅野祐一氏によると、本来はそれと
異なる意味で用いられているそうです。

まず、「正法」とは、ある敵勢に対し、
こちらも同等の質をもった戦力をぶつけること。
一方、「奇法」の場合は逆に、
敵にない有利さ(数や練度、装備の質など)
をもった戦力をぶつける事を指し、
戦において勝機が生まれるのは
その「奇法」で敵に向かった場合だと
説いているのです。

戦とは複雑なものですが、
勝敗を分かつ合理的な原因が
必ずどこかにあるものです。
ここにも、孫子の現実的な
思想の一端が垣間見えますね。

善く戦う者は、
之(こ)れを勢に求め

原文

故善戦者、求之於勢

通訳

巧みに戦う者は、
兵士の個々の資質ではなく、
戦闘に突入する際の
勢いによって勝利を得ようとする。

解説

孫子が書かれた時代の軍隊は、
その大部分が農村から徴兵された
民兵であり、士気も練度も
全くバラバラでした。

そんな状況で兵を上手く動かす際に
孫氏が最も重要と説くのが勢(勢い)。
自軍が有利で勢いがあると分かれば
たとえ臆病な兵士でも、
その勢いに助けられて
怯むことなく敵に向かって行くことができます。

これは現代の職場や
スポーツチームにも当てはまることで、
メンバーが最大限の力を発揮するためには、
優秀なリーダーによる、
チームの士気の鼓舞が欠かせません。

人を動かす立場にある人にとって、
常に胸に留めて置きたい名言ですね。

第六章 虚実篇

善く戦う者は、
人を致すも人に致されず

原文

善戰者、致人而不致於人

通訳

巧みに戦う者は、
敵軍を思うがままに動かして、
決して自分が敵の思うままに
動かされたりはしない

解説

戦いに勝つためには、相手を
自分のペースに従わせることが
重要であるという教え。

孫子では具体例として、
敵をおびき寄せたい場合には
あえて餌となる利益を見せびらかし、
逆に敵に来てほしくない場合には、
敵の進行を諦めさせるような
害悪(不利益)を見せつけよと
説いています。

個人的に、勝負事に強い
過去の知り合いを思い返してみれば、
ボードゲーム、スポーツ、
コンピューターゲームなどジャンル問わず、
それと気付かぬうちに相手の行動を
コントロールすることに長けていた人
ばかりだったように思います。

兵を形(あらわ)すの極みは、
无(む)形に到る

原文

形兵之極、至於无形。

通訳

最も優れた軍勢の形とは、
無形であることだ。

解説

私的、声に出して読みたい
孫子の名言No1がこちら。

孫子は、最も強力な軍の形とは、
形を持たない無形であり、
無形であればこそ、
敵は自軍の態勢を推し量ることができず、
反対に自軍は、どんな状況にも
柔軟に対応できるのだと説きます。

現実世界は川の流れのように
刻一刻と変化し続けるものであり、
一度はうまく行った方法でも、
二度目もうまくいくとは限りませんよね。

過去の成功に囚われず、常に自問自答し、
変化を恐れない人物や企業こそ、
時代の流れに取り残されることなく、
いつまでも生き残っていけるのでしょう。

おわりに

孫子の名言、いかがでしたでしょうか。

今から2500年も昔の時代に、
戦争そのものの原理を追求し、
現代にまで通用する理論を打ち建てた
孫武の慧眼には驚きを隠せません。

ITの進歩によって一気にグローバル化が進み、
日本がより世界的な競争に晒されつつある今、
群雄割拠の時代を生き抜いた孫子の思想は、
日増しにその重要性を増していくことでしょう。

参考図書

孫子 (講談社学術文庫)

孫子 (講談社学術文庫)

東北大学名誉教授であり、
中国哲学研究者でもある
浅野裕一氏による孫子の解説書。

原文、書き下し文、意訳、解説が
セットになっていて大変読みやすく、
またその知識量の広範さに驚かされます。

西洋の軍事書である
クラウゼヴィッツの「戦争論」との
対比もあり、孫子を知る上では
第一におすすめしたい良書です。

本稿でご紹介できたのは、
孫子全体のほんの一部分にすぎません。
本稿を読んで、孫子
もっと深く知りたいと思われた方は
ぜひ本書を手に取ってみてください。

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