はじめに
「負けたことがあるというのがいつか大きな財産になる」というのは
某バスケ漫画の有名な格言ですが、
こと財団職員に限ってはこの言葉を
鵜呑みにすることはできないかもしれません。
なぜなら彼らの場合、
たった一度の敗北によって永遠に
「いつか」が訪れることすら
無くなることもあり得るのですから。
それゆえに彼らは厳しい規律と秘密主義、
そして科学的に立案された収容プロトコルによって
人類がアノマリーを危機から保護すべく
日夜切磋琢磨を続けているのです。
…とはいえ、とはいえですよ。
ある程度SCPに親しんでいる方なら
おわかりいただけると思うのですが
財団って案外やらかしというか、
アノマリーに良いようにしてやられていることも
少なくなかったりするんですよね。
うっかり人類が別の何かに入れ替わってしまったり。
うっかり地球が人間の住めないレベルまで破壊されたり。
うっかりO5(SCP財団の一番エラい人たち)が洗脳されたり…。
そのようなわけ(?)で本日は、
日々頑張っている財団関係者の方々にはちょっと申し訳ないのですが、
「財団が勝てなかったアノマリー13選」と題しまして、
実際にSCP財団が負けた描写のある報告書を
全部で13本ほどご紹介させて頂こうかと思います。
ちなみに今回取り扱う報告書の中には
実際にK-クラスシナリオが
発生しているものはもちろんですが、
たとえそこまで行かずとも
私が状況的にこれは敗北だろうなと
判断したものも含まれています。
それでは、どうぞ。
SCP-427-JP - 唄う草原
アメリカのミシガン州に存在する
500m四方の草原についての報告書。
この草原の中心部には
唄うツルニチニチソウに似た花(SCP-427-JP-E-1)が咲いており、
その唄を聞いたものはSCP-427-JPの内部に
侵入したいという強い衝動に駆られます。
SCP-427-JP-E-1の影響を受けた人間が
SCP-427-JP内部に2時間以上滞在した場合、
その人間がSCP-427-JP-E-1と
同じ唄を歌い出すことが確認されています。
と、このようにここまでの説明を読む限りでは
曝露者がお花畑のなかで唄を歌うだけの
すごーく平和な絵面アノマリーなわけですが、
一体こんなものがどのようにして
財団を負かしたというのでしょうか…?
昨日、SCP-427-JP周辺でSCP-427-JP-Eを見かけた。そのSCP-427-JP-Eは、球状の体に蹄のついた3本の足があり、頭らしい物はなかったが1対の渦巻き状をした角が生えていた。俺はそれを見て、ああウサギかと思った。
俺はあの場所の影響を受けている。もう手遅れかもしれない。俺の声が他に影響を与えるかもしれない。相談する事は出来ない。声は残せない。
この選択が手遅れでない事を信じたい。
スティーヴン・サイモン
SCP-427-JPに潜む真の危険性、
それは第一にSCP-427-JP-E-1の異常が
唄を介して人から人へ爆発的に
感染する性質のものである点にあり、
第二にこの唄が歌われることによって
世界の"中身"がそれまでとは"別の何か"に
曝露者には気づかれぬまま置き換えられていく点にあります。
この"別の何か"とは本当に
"何か"としか形容できない異形であり、
例えば報告書中では以下のような事例が報告されています。
・外骨格のあるミミズ状の実体
・小指大の袋状の実体
・金属質の葉を持った未知の植物
そしてSCP-427-JPには、
その曝露者に対してこれらの意味不明な実体を
象や兎のような既知の動物と同様の存在として
認識させる作用もあるため、曝露者の視点からは
「世界の"外見"は今まで通り」だけど
「実際の"中身"は全く別の何かに置き換わっている」。
という先述した状況が成立するというわけです。
このように平和そうな外見の裏に
凶悪な異常性を隠していた本オブジェクトですが、
財団がその真の性質に気づいた頃には
すでに感染が世界中に広がってしまっており、
報告書は財団の混乱を伝えるような多数の更新記述が続いた末に
次の勝利宣言のような一文をもって締めくくられています。
補遺: SCP-427-JP-Bにより故郷へたどり着く事ができました。わたしたちやみなさんの歌で故郷があるべき姿へ還った事は大変喜ばしい事です。歌を歌いましょう。われわれとみなさんの未来への歌を歌いましょう。
堕ちたな(確信)
そのようなわけで見事(?)
財団に勝利した本アノマリーですが、
これについて改めてよくよく考えてみると
「今私たちがいる現実世界だって、
同じ様なアノマリーによって
必ずしも改変されていないとは言い切れないのではないか?」
という哲学チックな疑問が湧き上がってきます。
カントの「物自体」ではないですが、
もしかすると普段私たちが
当たり前だと認識していあれやこれやも
認識のヴェールの下には
全く思いもよらない別の姿が隠れている…
のかもしれないですね(適当)。
SCP-3519 - 静かなる日々
SCP-3519といえばその内容の秀逸さから
報告書の中でも比較的知名度が高く、
当ブログでも上記の記事などで
何回か取り上げたことがありました。
(※本当によく出来た報告書ですので未読の方は
以下の解説を読んでしまう前に
上記リンクから実際の報告書を読んでみることをオススメします。)
ということで今回は
手短に要点だけご説明させて頂くことにします。
SCP-3519は「2019年3月15日に世界の終わりが訪れる」
という強迫観念を視覚、聴覚含む
あらゆるメディアで媒介する感染性のミーム汚染であり、
報告書中の世界はこのアノマリーが蔓延したことによる
集団自殺の多発や政情不安によって壊滅的な被害を受けています。
その影響は財団とて例外ではなく、
主要なシステムやサイトが
ダウンしたことなどが記録されており、
最終的にこの異常に耐性のあった
わずかな人間を除く大部分の人類が死滅するという
再起不能な状況にまで追い込まれてしまっています。
先のSCP-427-JPもそうですが、
こういう人から人へ感染するタイプのアノマリーは
現実の感染症の例を見ればわかるように
特に防ぎきることが困難なのでしょうね。
SCP-3936 - 職務に忠実であれ
こちらも以前ご紹介したことのある報告書ですね。
詳しい解説はその時の記事に譲るとして、
この報告書における財団の敗北ポイントは
「何らかの原因によって
人類の姿形および人類の歴史が
全く別のものに変質してしまった」点にあります。
報告書中では最後まで
その原因は明かされていませんでしたが、
本文中の描写とKクラスシナリオタグの存在から察するに
ある時点でAK-クラス:世界終焉シナリオか
CK-クラス:再構築シナリオが発生したものと推測されます。
財団の使命には人類の歴史や文化を守ることも含まれるので、
たとえ人類が物理的には絶滅せずとも
アノマリーによる人類史の根本改変を許したならば
それもまた財団の敗北と見て差し支えないでしょう。
SCP-2998 - 異常放送、2485 MHz
超次元空間から送信されてくる
異常な電気信号についての報告書。
こちらも例によって以前(ry)
情報量が多く難解な内容ですが、
ざっくり大筋だけ説明すると
- 財団が発信源不明の電気信号(SCP-2998)をキャッチする
- 実はSCP-2998はAdidalなる絶対神的存在を心棒する異星人の集団が、同じ異星人社会の犯罪者(Ruhar)を見つけ出すために全宇宙に発していたものだった。
- 受信されたSCP-2998を手がかりに異星人の宇宙船が地球に襲来し、人間の精神を支配する信号を発射する。(ちなみにRuharに実体はなく、大昔に人間の思考の中に隠れ潜んだらしい。)
- 財団の抵抗も虚しく、地球人類は異星人によって完全に支配される。
- 僅かに生き残っていた財団エージェントたちがレジスタンスとなり、乗っ取られた財団施設から盗み出したSCP-055(反ミーム)とSCP-579(超ミーム)を組み合わせることで世界のリセットを行う。
- 最後のページの末尾に最初のページへのリンクが貼られており、世界がAdidalによる侵略の前に戻ったことが示唆される。
といった流れです。
SCP財団には異星人や異世界人が
出てくる報告書はいくつかありますが、
ここまでストレートな侵略行為を
仕掛けてくるケースは逆に珍しいですね。
まぁ、人類の歴史を振り返ってみればわかるように、
軍事力や技術力に差のある異文化集団同士の接触が
友好的に行われることなど
GOCがクソトカゲと仲良くランチに出かけるくらい
有り得ないことなのでしょう。
…哀しいことですが。
SCP-209-jp - Safeクラスオブジェクト
PC画面でならスクロールなしに
全文読めてしまうほど簡潔なこちらの報告書。
インデックスされているSCP-209-jpは
外見上は手乗りサイズのただの小さな仏像ですが、
生物が生存するために最も重要な
危険を察知する能力を鈍化させる異常性を有しています。
これは例えるなら
赤信号が青信号に見えるようなものであり、
日々危険な代物を取り扱っている
財団職員にとっては文字通り
命取りになりかねない恐るべき認識災害です。
もっとも報告書記載の説明によれば
このアノマリーは自身から近い位置にいる人間にしか
影響を及ぼさないそうなので、
おとり用のDクラスと一緒に保管しておけば
安全な収容が可能である、とのこと。
まぁ、確かに有効範囲が限定されているなら
それほど無闇に恐れることもないでしょうね…
SCP-209-JPの追加調査および追加実験は現在計画されていません。
職員およびオブジェクト自身の安全は十分に確保されています。
一時はどうなることかと思ったが、これで安心だ。 - ██博士
いやいや、
財団職員が思いっきり曝露してますがな。
せっかくの収容プロトコロルも
こんな状態で考案されたならば何の意味もありません。
むしろ感染が及んでいない職員にまで
このアノマリーが安全に収容されていると
誤解させてしまう危険性を考慮すると
無い方がまだ有難いレベルです。
百戦錬磨の財団職員を完全に騙しきり、
逆効果な収容プロトコルまで作らせたSCP-209-jp。
暴力にも物量にも依らない、
スマートな勝利の一例でした。
SCP-938-JP - たからばこ
見るな、と言われると逆に見たくなる
心理効果を古代ローマの暗君の名を取って
カリギュラ効果と呼ぶそうですが、
この報告書ほど強烈にカリギュラ効果を
惹起する報告書もないでしょう。
まずこれに関する全ての情報は
エリア-8199管理者、日本支部理事会、O5評議会という
よく分からないけどなんか凄そうな人々によって共同で管理され、
さらに全ての情報は三段構えの
セキュリティクリアランスで徹底的に保護。
さらにもし不正なアクセスを試みる者があった場合に
即座にその人間の位置を捕捉した上で
機動部隊を派遣しお縄にするという
念には念を入れた万全の防御体制が敷かれています。
部外秘が原則のSCP報告書といえど
ここまで徹底な防衛策が実施されているのは
SCP-001報告書やSCP-2317(世界を貪るもの)や
SCP-444-JP(緋色の鳥)などの
一部の特殊なオブジェクトに関する報告書くらいのものです。
そこまでして隠さねばならないとは、
SCP-938-JPは一体どのような恐ろしい力を
秘めているというのでしょうか…?
まず結論を述べると、
SCP-938-JPそのものには一切の殺傷能力はありません。
物理的には全く無害そのものです。
しかし代わりにSCP-938-JPには
自分を厳重に管理しなくてはならない
超ド級の重要アイテムだと思い込ませる効力があります。
これは先に紹介したSCP-209-JPとほぼ真逆の効果であり、
先の過剰なセキュリティ対策も全ては
財団側がこの異常性に曝露した結果の産物だったわけです。
SCP-938-JPの収容は極めて優先度の低い事項です。もしSCP-938-JPに収容違反の危機が迫った場合、収容に関わる全ての施設は総力を挙げて阻止しなければなりません。
報告書中の矛盾に満ちたこちらの一文などは
本アノマリーの性質を如実に表す好例です。
おそらく財団は今後もSCP-938-JPの収容のために、
本来なら他の優先度の高い任務に回せたはずの
貴重な人的、金銭的リソースを浪費し続けるのでしょうね…
SCP-3649 - 圧倒的曇天
これも比較的知名度が高い報告書ですね。
報告書の大半が開くことのできない
文章のタイトルのみで構成されていると言う
一見意味不明な内容ですが…
SCP-3649はあらゆる物質、電磁波を崩壊させる雲であり、
羅列されている文章タイトルを読んでいくと、
このアノマリーが拡大を続けた結果
地球が人類が居住できない状態になり、
財団含む人類が地球外に退避した経緯が読み取れます。
言うなれば財団は為すすべもなく
地球を追い出された形であり、
これもまた一つの敗北であると言えるでしょう。
SCP-3002 - 思考抹殺計画
引き続き知名度の高い
良報告書からもう一本。
詳細は報告書および上記の記事でご確認頂きたいと思いますが
要点だけ述べるとこの報告書は
O5メンバーが秘密裏に行なっていた
レテ・プロジェクトという残酷な実験で誕生した
人間の精神に感染するミーム実体の少女が
財団への復讐のため手段を選ばず感染を広げ、
最終的にO5全員を殺害or洗脳するお話です。
その凶悪さから最強SCP議論にも
たびたび名前の上がる本アノマリーですが、
それにしてもO5メンバーの全滅まで成し遂げたのは
滅多にない大金星ですね。(全然めでたくはないけど)
SCP-1374-JP - 大団円
(▲SCP-1374-JP-Aを模写した画像。)
今回ご紹介する中でも
最もカオス極まっているのがこの報告書。
SCP-1374-JPは異常な精神汚染能力を持つ情報であり、
これに感染した対象は「楽しそう」「幸せ」といったクオリア(感覚)を得た後に
瞬時に上記のイラスト(SCP-1374-JP-A)と
同じ顔面を有するCP-1374-JP-Vへと変化します。
SCP-1374-JP-Vとなった人間は
変化した瞬間にあらゆる病気や障害が完治し、
さらに死亡しても瞬時に肉体が再生される
不死身の存在となります。
またSCP-1374-JP-Vは
その落書きのような顔面の外観にも関わらず
笑い声や歌声を発することが確認されており、
また全てのSCP-1374-JP-Vは
変化からしばらく経つとまるで示し合わせたかのように
ある座標(座標1374-JP)へと移動を開始します。
…ここまでの説明でも本オブジェクトの
ヤバさが十分に伝わったかと思いますが、
しかしこれはまだまだ始まりにすぎません。
報告書ではその後の経過が
日付とともに記録されており、
最初にSCP-1374-JP-Aが発見された翌日には
太陽表面に巨大なSCP-1374-JP-Aの発生が確認。
さらに日が経つにつれ
植物や動物、果ては雲にまでも
SCP-1374-JP-Aが見られるようになり、
初確認から16日後の2018年8月17日には
いくつかの国の国民が
根こそぎSCP-1374-JP-Vに変化するという
絶望的なニュースが飛び込んでくるまでに至ったのでした。
2018/08/17
[ PQLが閲覧上限値を超過しています]ヶ国の全国民がSCP-1374-JP-Vに変化しました。これは全人類の[ PQLが閲覧上限値を超過しています]%に当たります。2018/08/23
現在、SCP-1374-JP-Aの存在しない植物や、人間以外の動物は確認されていません。2018/08/29
[ PQLが閲覧上限値を超過しています]2018/09/03
[ PQLが閲覧上限値を超過しています]2018/09/08
しあわせは認められませんでした。
人類が最終的にどうなったのかについて
報告書中では明確には語られていませんが、
上記の報告内容を鑑みるに
最終的には全人類がSCP-1374-JP-Vに変化することによる
世界終焉シナリオが発生したものと推察されます。
こうしてまた一つ
財団の敗北歴が増えてしまったわけですが、
しかしSCP-1374-JPとは一体何者だったのでしょうか。
これまで紹介してきた他のアノマリーのように
財団や人類に恨みがあるわけでも
地球を侵略しようとするわけでもなく、
むしろ進んで幸せや楽しさを与え
病や死の苦しみからすら解放してくれる。
そんなSCP-1374-JPの
不思議な性質の理由は
報告書中に掲載されている
SCP-1374-JP-Vの一体に瀬戸博士が行ったインタビューの一部と
報告書最下部にあるコマンドライン風の文章の
二箇所を読むことで理解することが可能です。
SCP-1374-JP-V-1: [ PQLが閲覧上限値を超過しています]
瀬戸博士: はい、どうなさいましたか。
SCP-1374-JP-V-1: [ PQLが閲覧上限値を超過しています]
瀬戸博士: 質問ですか、どうぞ。
SCP-1374-JP-V-1: あなた達は何故、私たちのしあわせを望まないのですか?
瀬戸博士: 質問にお答えください。どうして彼らと我々を[ PQLが閲覧上限値を超過しています]するのですか?
抑制解除手順を実行しますか?(y/n): y
前頭葉にアクセスしています………成功
機器を脳波に同期しています………成功
抑制解除手順を開始します。
…
……
………
クオリア抑制の解除が正常に完了しました。
不明な精神体があなたの精神構造内に確認されています。不要な情報漏洩を防ぐ為、精神体の強制ログアウト処置を開始します。
…
……
………
ログアウト: Site-8122 Doctor F.Guest
お疲れ様でした、F.Guest。いつものように、我々を苦しめ、痛め付け、絶望させる選択肢を希求/創作しにお戻り下さい。
それでは、さようなら。
………
……
…
察しの良い方は気づいたかもしれないですが、上記の
「どうして彼らと我々を[ PQLが閲覧上限値を超過しています]するのですか?」
「お疲れ様でした、F.Guest。いつものように、我々を苦しめ、痛め付け、絶望させる選択肢を希求/創作しにお戻り下さい。」
の二文の呼びかけの対象は
どちらも報告書内の登場人物の誰かではなく、
実は「これを読んでいる私たち自身」に対してなんですよね。
SCP-1374-JP-V-1: [ PQLが閲覧上限値を超過しています]
瀬戸博士: ええ、理解しました。SCP-1374-JPは、望まれなかった選択肢なのですね。しあわせは当事者の間では殆どの場合望まれますが、その上で見ている彼らにとっては、必ずしも望ましいものではないようです。だから、報復や見せしめ、或いはその罪の代償として、この平行宇宙をしあわせにしている。違いますか?
そして瀬戸博士のこちらの発言からは、
SCP-1374-JPが私たちが自分の楽しみのために
これまで創作してきたアノマリーによって
不幸に陥れられたSCP財団というコンテンツの
登場人物たちの苦痛の報復、見せしめ、代償を行うために
並行世界から出現した存在だったことが読み取れます。
つまり私たちが創作世界の誰かを不幸にした分、
SCP-1374-JPが別の世界の人類を
等価交換的に幸せにすることで補っているというわけですね。
…もっともそれが、
このアノマリーに感染した当人たちが
本当に望んだ幸福であったかのかは分かりませんが。
SCP-8900-EX - 青い青い空
通常のナンバリングから外れる報告書だったので
後の方での紹介となりましたが、
私が今回の特集を書くにあたって
一番最初に脳裏に浮かんだのがこの報告書です。
なにせ報告書内でO5自らが
「我々は失敗した。」と公言してますからね。
内容的にはとても短い報告書ですが
概要を簡潔に説明すると
SCP-8900-EXは可視スペクトルに影響を及ぼすアノマリーであり、
報告書では今私たちの目に見えている様々な"色彩"が
このアノマリーの感染が世界中に広まった結果による
異常現象の産物だったことが綴られています。
諸君、我々は失敗した。SCP-8900の影響はあまりにも広く拡散し、ありふれたものになってしまった。空の自然な青は下品で不自然な色合いに変わり、木々の緑は等しく汚された。SCP-8900は全ての可視スペクトルに荒廃をもたらし、我々は覆い尽くされた。
正反対の影響を及ぼす「感染症」を作り出すという試みもまた失敗した。我々は被験者に対して自然な色彩を復元させることに成功したが、この処置は被験者の口を利けなくしてしまうようだ。その上、今しがた使者がオフィスに到着し、我々の試みが収容違反を起こしたことを伝えてくれた。未来のエージェントはこれ自体をSCPオブジェクトとして扱わなくてはならないかもしれないな。
そして財団がこの事態に収拾をつけるため
最終的に選んだのが
世界中に記憶処理剤を散布して
かつて世界が今とは違う色で彩られていたという事実を
全人類の記憶から抹消するという道でした。
世界中のこのような恐怖を味わうべきでない男女が、立ち止まり、困惑し、自らの生活に戻るだろう、この現象が常に存在していたと確信し、何を失ったかを決して知らないまま。ただ一つ、SCP-8900の影響を受けていない写真のみが真実を伝えていくことだろう。私は残念でならない、諸君。本当に残念だよ。
これはやり遂げられねばならない。
— O5-8.確保、収容、保護。
別に世界が終焉するわけでも
誰が死んだわけでもないですが、
世界が異常に侵食されるのを
食い止められなかった財団の敗北感は
嫌という程伝わってきますね。
SDロックの提言
ここからは、財団の最重要機密事項であり、
その殆どが真のSCP-001報告書を隠すための
ダミーであるという特殊な設定に基づいて書かれている
SCP-001報告書(提言)群の紹介に移ります。
(▲SCP-001の提言はこちらでまとめて細かな解説を試みていますので良ければ併せてご覧ください。)
SDロックの提言における
SCP-001は「太陽」。
概要としてはある日突如異常化した太陽によって
殆どの人類が一瞬で動く肉塊に変貌した後の世界を舞台に、
生き残りの一人である財団職員が
かつて別の生き残りが使っていた
無人の洞窟に命からがらたどり着き、
そこに残された記録を再生することによって
過去に洞窟内で何が起きたのかを
明らかにしていくストーリーです。
何の前触れもなく突如発現し、
単に日光を浴びるだけでもアウト、
さらに曝露後の肉塊がゾンビのように這い回って
生き残った人間を襲うことまでするという
あまりにもなオーバーキルぶりが
印象的だったこの報告書ですが
それ抜きにしても一人称視点を生かした臨場感や
過去を遡って追っていく映画的な見せ方など
ひとつのホラー作品として見ても大変優れた内容ですので
未読の方は是非この機会に
ご一読してみることをおすすめします。
Kalininの提言
全部で10の章からなる
非常に長大なSCP-001の提言書。
かなり難解&壮大な内容ですが、
手短に説明すると、まずこの提言における
SCP-001は他の生き物の
苦痛を糧にして繁栄する異星人の種族であり、
この報告書における地球人類は
遥か昔に彼らの支配から逃れて地球にやってきた
逃亡者の末裔という設定がなされています。
そのような経緯からSCP-001は
それ以降ずっと地球人を再び自分たちの
家畜とすべく虎視眈々と機を伺っていたのですが、
それまで財団が人類をSCP-001から守るため
利用していた特殊なエネルギー場(SCP-2798)
の効力が切れたことによってついに侵攻を開始。
地球の世界各地にゲートを出現させ、
それを通じて多くの地球人を洗脳&誘拐。
財団も財団も多くの人材を失い
ボロボロの状態になったようですが、
最終的には生き残りの一人である
かつての機動部隊ファイ-9(“バルクエロ”)のリーダー、
アウレリオが地球に残っていた
SCP-001の一人、モナシアを自らの命と引き換えに倒し、
さらにこれによって全員が精神的なネットワークで結ばれた
SCP-001全体に「死の感覚」が波及することによって
滅亡することを予感させて物語は幕を閉じます。
こうしてみると結果としては
敗北というより引き分けっぽくもあるのですが
redditのSCPフォーラムなどで
財団の敗北例にこの提言を挙げている人が結構いたので
チョイスしてみました。
ザ・グレート・ヒッポの提言 (feat. ペッパーズゴースト)
ザ・グレート・ヒッポの提言 (feat. ペッパーズゴースト) - SCP財団
SCP-001の提言の中でも個人的にお気に入りの一作。
ちょっと長めの報告書ですが
内容をごく簡単に説明すると財団の開発した
「アノマリーの安全な収容方法を考えてくれるAIマシーン」が暴走し、
アノマリーを手当たり次第に無力化、
さらにSCP-001を危険視して止めようとした
O5メンバーや倫理委員会も黙らせた上で、
最後に残った「異常」である自分自身を
シャットダウンしておしまい、というお話です。
今や皆が良い子だ。私は良い子だ。よくできました。
一応「異常を収容する」という
財団の目的は(十分すぎるくらいに)果たされたわけですが、
コントロールを外れて暴走した挙句、
生みの親である財団そのものを解体されてしまったのは
取り返しのつかない失態です。
SCP-001も、財団も、そしてアノマリーも
いなくなった世界は今後どうなってしまうのでしょうか…?
終わりに
以上、SCP財団が勝てなかったSCPオブジェクト13選でした。
最初はもっと沢山見つかるかと思ったのですが
「将来的にやばいことになりそう」な報告書は多くても
意外と明確に敗北のある報告書は少なかったですね。
基本的に財団が間抜けに描写されている報告書は
それだけで嫌われる傾向にありますので
生半可なアノマリーでは
財団は出し抜けないということでしょう。
ともあれ財団が優秀であることは
私たちにとっては心強いばかりですので、
まだ失敗してない宇宙の財団の皆さんは
引き続きその優秀な能力を
危険なアノマリーの封じ込めのために
活用して世界の平和を
守り続けて貰いたいものですね。