有能なはずの財団がまさかの大ポカ!?
科学分析から幽霊退時まで
様々な分野のプロフェッショナルが集うSCP財団ですが
彼らもまた人間。時にはミスをしてしまうこともあります。
しかし今回ご紹介する
SCP-4823「The Whole World Has Gone Bananas!」(その世界はバナナと化した!)で
財団が犯したミスは、ある人々にとってあまりにも致命的なものであり、
その結末は思わず目を覆いたくなるほど悲惨なものでした。
一体財団は何を「やらかして」しまったのか。
その真相を順を追って見ていきましょう。
※この記事はまだ公式の翻訳が投下されていなかったため、本記事中には私が独自に行った翻訳文を掲載しています。そのため、内容には不正確な部分が含まれている可能性があることをご了承ください。
特別収容プロトコルと概要
まずはお決まりの特別収容プロトコルと概要です。
特別収容プロトコル
SCP-4823はサイト-77の標準的な収容チャンバーに保管されます。
U-3567からの侵入に備えて、部屋には常に武装した警備員が配置されます。外交関係を維持するために、財団の外交官が月に一度U-3567を訪問します。
放射線の人体への影響を考慮し、財団職員はU-3567に滞在している間、
ヨウ化カリウムを含む錠剤を毎日摂取することになっており、
U-3567から帰還した職員は少なくとも
3カ月が経過するまでは再びU-3567に入ることは出来ません。2019.12.20時点での編集:国交が停止しました。
U-3567へのコンタクトは行わないでください。
U-3567からの連絡が試みられた場合には
それに応答することが認められる可能性があります。
特別収容プロトコルから分かることは、
U-3567に指定されているのが
一種のパラレルワールドのようなものであり、
また財団世界と国交があったとされていることから、
そこには意思疎通が可能な
知的生命体が存在しているという事実です。
ただし、2019.12.20時点での編集内容に依れば
両者の交流はその時点を以て完全に停止しているとのこと。
一体何が起きたというのでしょうか?
説明SCP-4823は一般にキャベンディッシュ・バナナとして知られるMusa acuminataの完熟した標本です。SCP-4823は破壊不能であり、通常のように腐敗することもありません。かなりの年代を経たものと見られ、熱ルミネッセンス年代測定により少なくとも2万年より以前から存在しているものと推定されています。
SCP-4823の主な異常は、果肉の代わりに局所的な超次元的双方向ゲートウェイをその内部に留めている点です。バナナの皮を剥くとゲートウェイが露出しますが、この行為は途中までしか行うことができません。ゲートウェイが露出した場合、皮をむいた対象は内部に引き込まれ、さらに強い非均質な重力場によるヌードル効果にさらされることで通過することが可能な状態となります。対象の転移後、SCP-4823は自発的に皮が向かれる前の状態に戻ります。
ゲートウェイを抜けた先にはU-3567に指定されたオブジェクトが存在しています。
そこはU-3567版のSCP財団の管理下にあり、彼らの世界におけるフランス・パリのButte-Montmartre地区に位置していました。
U-3567にはあらゆる動物が存在せず、代わりに移動可能な知覚力を持つ植物が生息しています。
その中でも特に注目すべきは、ここではSCP-4823-1と総称される、自らをバナナ(Musa sapiens)と呼称する知的な人型実体です。
SCP-4823-1の外部形態は、皮膚の代わりにバナナの皮と同様の物質で覆われていること、体毛がないこと、おおむねバナナの形に似た拡張された頭蓋骨を有していることを除けば、人間に非常に似ています。
SCP-4823-1は、人間に見られるすべての内臓を持たず、その肉質はバナナのそれと同一です。彼らの内部支持構造は骨よりも木に近く、関節や腱は植物繊維でできており、食道は食虫植物の罠に似た酸の入った桶につながっています。動物および動物から得られる副産物が存在していないこと、異なる進化の道筋をたどった結果としていくつかの基本的な植物が存在していないことから、U-3567の社会の文化的・経済的側面の多くは、宗教、貿易、地理などを含め基底現実とは大きく乖離していますが、それにもかかわらずお互いの社会構造にはそれほど大きな相違はみられません。
SCP-4823の収容後、U-3567の情報共有と研究を目的として、U-3567版SCP財団との外交関係が結ばれました。しかし、事件4823-39の影響により、U-3567とその住民の状態は、もはや外交関係を継続することが不可能な状態となっています。
詳細は補遺4823.1を参照してください。SCP-4823の起源や、U-3567がSCP-4823を通じて基底世界と接続されている原因は不明です。
大量の新情報が出てきましたが
要約するとSCP-4823は
「皮をむくことでバナナ人間が棲む異世界(U-3567)
と行き来することができるバナナ形の異次元ポータル」といったところでしょうか。
しかしなんといってもここで一番に
読み手の興味を惹くのはU-3567に暮らしているという
バナナ人間達の存在ではないでしょうか。
皮膚はバナナの皮で骨は樹。
さらに胃袋が食虫植物という
子供の考えた冗談みたいな設定を持つ彼らですが、
それでいて社会構造は基底世界の私たちと
ほとんど変わらないというのだから何とも興味が尽きません。
また、少なくとも一時は
基底世界の財団と交流があったことから
互いに住む世界は違えど、
どこぞの誰かの様に問答無用で
侵略行為を仕掛けてくるような
メンタルの持ち主ではないことも分かります。
(※ 実際に侵略行為やら迷惑行為を仕掛けてきた
異世界人の例を知りたければSCP-2998やSCP-2700を読むことをおすすめします。)
そんなU-3567と何故国交が断たれてしまったのか、
続いてはいよいよその核心へと迫る
2つのインシデントレポートを見ていきます。
インシデントレポート4823-39
インシデントレポート4823-39:2019年05月12日、基底世界側の財団の5人の大使が通常通りSCP-4823に入国しました。
彼らはU-3567に1週間滞在する予定でした。
2日目、U-3567側の財団の代表者の一人が予定されていた会議に現れませんでした。
滞在期間を延長して捜索を行ったところ、3日後に倉庫からミバエの幼虫に覆われた代表者の死体が発見されました。
この幼虫は我々の大使が偶然持ち込んだ卵から孵ったものと見られ、U-3567には本来存在していない種でした。
U-3567ではミバエは自然界に存在しないため、この幼虫は大使と一緒に来たミバエが偶然産んだ卵から孵化したものと思われる。
代表者の代表者の遺体はすぐに焼却されましたが、最初のつがいを発見することは出来ませんでした。
その1週間後、倉庫にミバエが発生していることが判明しました。
現場は封鎖され、殺虫剤や火炎放射器を使った駆除作業が行われましたが最終的には失敗に終わり、拡散を阻止することは不可能となりました。
U-3567財団は代表者の退去を要求し、彼らが基底世界に戻ってからは、U-3567からの連絡は一切ありません。
おお、もう・・・
たかが蠅されど蠅。
実際に相手側に犠牲が出た上に
自分たちのミスの尻ぬぐいすら
満足にできなかったというのだから
U-3567側が激怒するのも無理はないですね。
とはいえ、先に述べたように
レポートはこれで終わりではありません。
また、もう一つのレポートが残されているのです。
この時点で既に嫌な予感しかしませんが、
一体話はどのような方向に向かうのでしょうか…
インシデントレポート4823-40
インシデントレポート4823-40。
2020年3月6日、SCP-4823は自発的に皮を剥ぎ内部から1冊の日記を排出しました。
表紙には「Valery's Journal(ヴァレリーの日記)」という文字が手書きされています。
以下は、その日記の一部のページをフランス語から翻訳してデジタル化したものです。
何の前ぶれもなく、突如として
SCP-4823から一冊の日記が飛び出してきました。
気になるその内容とは…
2019/12/18
親愛なる日記さん。
今日はもうヘトヘトに疲れきってしまって、このペンを持つのもやっと。
でも、楽しいことがたくさんあったから、今はとても幸せな気分。
まず、朝に母からラトゥンダンおばさんがポルトガルから休暇で帰ってくる話を聞いた。
おばさんは蜜の胃袋達※1の世話で忙しかったから、私たちは何年も会えてなかった。
それと学校で、またウィリアムズの隣の席になった。
彼の肌って信じられないくらい完璧。
そのせいで今日は授業に全く集中できなかったけど。LMSO3※2。
放課後はエレエレと一緒にストライダー※3の厩舎に行って、私の可愛いファルジュに乗ったわ。それに何といっても、新しい保健の先生が来たこと!
前の保健の先生は残念だけど数週間前に冠腐病で亡くなっちゃった。
この病気って指を失くすものだって聞いていたんだけど、本当に悲しい事ね。
まぁとにかく、ようやく代わりの人が決まったってわけ。
彼女の名前はジャワで出身は北アジア。
クラスの男の子の中には、彼女を失礼なあだ名で呼ぶ奴もいたけれど、
私は彼女の青い肌がとても綺麗だって思ったわ。あと、学校の近くにあるオフィスビルの前にいる2人の警備員に、
私の作ったミトンの手袋をプレゼントしてあげたこと。
私は毎日、学校への行き帰りにそのビルの前を通るんだけど、
あの人たちってどんなお天気の日でもお構いなしに、いっつもそこに立ってるの。
それで、この時期って特に寒いし、だから私は
あの人たちに何か寒さを和らげるようなものをあげようって思ったわけ。
彼らはとても嬉しそうに驚いて、すぐにそれを身に着けてくれたわ。
きっと私は彼らの一日を素晴らしいものに出来たと思う 🙂※1 体の下側にある大きな袋に蜜を集める習性のある、知覚力を有する大型の四足歩行の植物。SCP-4823-1はこれらの生物を使って流通や消費のための花蜜を生産しています。
※2 "Laughing my stem off "という楽しい気持ちを表現するスラング。
※3 SCP-4823-1がその敏捷性を活かして輸送手段として使用している知覚力を有した六角形の植物。基底世界における竹に似た植物から進化したようです。
日記の内容を見るに、これを書いたのは恐らく
U-3567に住む一般的な女子学生であると思われ、
その内容も一部の単語を置き換えれば
地球に住む普通の女の子の日記だと言われても
違和感がないくらいに平凡なものです。
親戚と久しぶりに再会することにワクワクして、
学校では気になる異性の隣の席になって喜び、
放課後は友だちと遊んで、家ではそのことを日記にしたためる。
傍から見るとなんとも微笑ましい平和な日常の風景ですが、
しかしなんでまたU-3567はこのタイミングで
こんなありふれた日記をこちら側に放り投げてきたのでしょうか?
個人的にはこの心優しいヴァレリーに
一切の不幸が訪れないことを願いたいものですが、
これまでの前置きが前置きなだけでに
どうしても悪い予感ばかりが募ってしまいますね。
ちなみにここでは「ラトゥンダン」や「エレエレ」「ジャヴァ」など
特徴的な人名がいくつか登場してきていますが、
これらは全て現実に存在するバナナの品種から取られています。
(例えばジャヴァ先生の元ネタのBlue Java bananaは
その名の通り熟す前の果実が青い色をしており、
その特徴はジャヴァ先生の青い肌に反映されています。)
また前の保健の先生の死因となっている冠腐病 (Crown rot)は
てん菜などの根部に発生する病害の一種だったりするなど
注意深く読むと様々なところでネタを拾う事が出来ます。

もしバナナ知識に自信があれば
他にも仕込まれたバナナネタが見つけられるかもしれないですね。
2019/12/19
私の親愛なる日記さん。
私はあなたが一日中何かエキサイティングなことが起きるのを待っていなかったことを願っている。
だって今日はごく普通の一日だったから。
アワクさんが私たちに宿題を出した。
もうすぐクリスマスだって言うのに、なんだか馬鹿馬鹿しくって頭にくるけれど、まあいいわ。
私はそれをすぐに片付けようと思って、学校からまっすぐ家に帰ってきた。
進化についてのエッセイを作ることになっていて、私たちの大昔の祖先は巨大な花から成長した奇妙な三日月形の果物だったことがわかった。
進化って不思議なものね。それとこれも書いておかなくちゃ。
ビルの前の警備員が今日はいなかった。
毎日あそこに立っていたのに。
あそこで何か重要なことが行われてるのだと思うけれど、
入口を無人にしておくなんて絶対変だわ。あぁ、そういえばうっかり忘れかけてたけれど
パーティーに招待されていたんだった。
フェイの両親が週末は留守だから、
彼女が大きなパーティーを開いてくれるの。ウィリアムズも来るみたいだし、めっちゃ楽しそう!
友だちのパーティーに招待されたヴァレリー。
意中の男の子も参加するとのことで、
愉しみな気持ちが良く伝わってきます。
ただ、ひとつ怖いのが
先のページにも出てきていたビルの
警備員の不在が描写されていることです。
カンの良い方は大方察しがついてきたかもですが、
だんだんと不穏な影が忍び寄ってきている気配ですね。
2019/12/20
何を書けばいいのかわからない。
何を考えればいいのか、本当にわからない。
こんなこと、今は無意味だってわかってるけれど、
なぜかペンを持ってしまっている。
習慣かな。ウィリアムズが死んだ。
今日の朝、彼が彼の友だちに「あまり気分が良くない」ってぼやいてるのを聞いた。
私はその時の自分がまだ彼がパーティーに来てくれるって期待していたことが信じられない。
彼が来てくれたとき、私はとても嬉しかった。
彼と二人きりになって、話し始めて、すごく楽しかったんだけど......
そうしていたら突然彼の目玉が落ちて、
そこから小さな白い生き物がスルスル出てきた。彼は何か言おうとしたけれど、そのまま倒れてしまった。
彼は死んでいた、私にはわかっていた、表情が無くなっていて、
彼の...目は大きく開いていたけれど、彼は痙攣し続けていた。ああ、神様、痙攣とざわめき、そして彼から湧き出してきた暗雲。
私はひたすら走った。
叫び声が聞こえたけれど、私はひたすら走って、わき目もふらなかった。
1時間くらい走ってから家とは違う方向に向かっていたことに気づいて、
電車で帰ることになって、ああ、神様。
両親には何も言えず、ひたすら部屋に閉じこもっていた。
[鉛筆で何度も線を引いたために ページがわずかに破れて読めなくなっていた]一体あれはなんだったの?
とうとう恐れていたことが現実となりました。
ウィリアムズの死の原因は
ほぼ間違いなく財団が持ち込んだ
蠅に身体を侵食されたことによるものでしょう。
ヴァレリーは辛うじてその場から逃げ出すことができましたが
彼女が家に閉じこもっている間にも
事態は刻一刻と進行していきます。
ヴァレリーとU-3567の命運やいかに…?
2019/12/21
ニュースではあの怪物のことが話題になっている。
誰もそれが何なのか、どこから来たのかを知らないみたいだけど、あれは広がり続けている。
9区全体が占拠されてしまったから、避難所に行く準備をしてる。
ヘリコプターが一日中家の上を飛んでる。
悪い夢でも見ているみたい。
2019/12/22
避難所からこれを書いています。
ここには数十人の人間がいる。
食料と水は6ヶ月分あるけれど、
天井のソーラーランプは永久に持つらしいから、
光合成を利用して、必要があれば1年に伸ばすこともできるみたい。ここにはテレビがある。
軍隊が生物を駆除しようとしている様子が映っていて、
他の人たちはこれを「彫刻家※1」と呼び始めた。
でも、あまり上手くいっていないように見える...。でも少なくとも、両親とエレエレは私と一緒にここにいるし、
学校の新しい保健の先生もいる。
一緒に乗り越えてみせる、きっと。※1 原文では(carvers)。寄生した蠅がバナナ人間の果肉を彫刻の様に掘り進む様子からの命名と思われます。
わずか数日の間に
ヴァレリーらの生活はそれまでとは
全く様変わりしてしまいました。
しかし少なくともヴァレリーは
まだ希望を失いはしていないようです。
2019/12/30
私たちはもうシェルターにはいない。
私たちは廃墟になったコーヒーショップにいる。
「私たち」とは、私とエレエレとジャワのこと。他の人はみんな死んでしまった。
私の両親も。彫刻家たちはどこからともなく襲ってきた。
たぶん換気口から入ってきたんだと思う。ジャワは誰よりも早く気付いて、
私とエレエレが他の人たちのように食べられる前に外に出るのを助けてくれたけど、
私たちも全く無傷という訳にはいかなかった。彫刻家の一匹がエレエレの腕に種を植え付けた。
そのせいでジャワは店にあったナイフで
エレエレの肘から下をすべて切り落とさなければならなかった。今は、彼女がエレエレの痛みを和らげるのを手伝ってくれているから、
私はこれを書いている。理由はわからないけど、
書いている間は気持ちが落ち着く。すべて失ってしまった。
空は無数の彫刻家達に覆われて暗くなり、
通りにはあの卑劣な生き物の苗床になった痙攣した死体が散乱している。こいつらは、ただひたすら広がって、食べて、広がって......
誰もあいつらを止めることができない。
軍隊のほとんどは退却した。彼らがパリを突破してフランス全土どころか
全世界を食い尽くすのも時間の問題だわ。
U-3567の状況は悪くなるばかり。
ヴァレリーの言葉にも悲壮感が強まっています。
ここではU-3567世界の軍隊ですら
ハエの増殖を食い止められなかった旨が記述されていますが、
現実のコロナウイルスの拡散状況を見てわかるように
こうした生物災害は一度起きてしまえば
それを後から完全に食い止めるというのは
非常に難しいことなのでしょうね。
※日記の内容はもうしばらく続きますが、
ここからは途中に余計なものは挟まず、
最後までノンストップでお送りします。
2020/01/07
やっと別の生存者グループを見つけた。
30人くらいのグループだ。彼らは始めのうち私たちを仲間に入れるのをためらっていたけれど、
彼らの数人は負傷していて、ジャワは看護師だった。彼女のおかげで命拾いをした。
ここの人たちにはかなり頑固で悲観的、
無神経なタイプが多かったけれど、何人かはいい人みたい。エレエレは、両親が亡くなって、腕も失って以来、本当に落ち込んでいる。
そんな彼女を見ていると本当に心が痛む。彼女はちょっと前までとても幸せで陽気だったのに。
なぜこんなことが私たちの身に起こらねばならなかったの?
私たちが何をしたっていうの?
私の日記さん。
これまであなたのために日にちを記録してきたけれど、
残念ながらもう分からなくなってしまった。そんなこと、もうどうでもいいんだろうけどね。
私たちの数はどんどん減っている。
一番の原因は、マイソールとかいう間抜けが
空き家を漁っているときに、死体のある部屋に入ってしまったこと。その死体には彫刻家達が詰まっていて、
新鮮な肉に興奮した彼らは
ターゲットを目の前の死体からすぐさま私たちに変更した。もしマイソール、ポメ、シルクの背後のドアを閉じなければ、
私たちも食べられてしまっていたはず。...今も彼らの叫び声や
ドアを叩く音が聞こえてくる。
エレエレが自殺した。
今朝彼女が見つからなくて、しばらく探した後、下の歩道に倒れているのを見つけた。私たちが住んでいたマンションの窓から、
夜のうちに身を投げたらしい。私たちには、ロシアの石化の森からオーストラリアのビーチまで、
世界中を旅行する大きなプランがあった。彼女の一番の夢は、南の海に棲んでいる
藻のリバイアサンと一緒に泳ぐことだった。クルがエレエレのことを
腕が無いからただのお荷物だって
言った時には殆どあいつを殺してやるところだった。他に書くことといえば、
私たちはモンマルトルに帰って来た。私の故郷、最高ね。
ミトンをプレゼントしたあの警備員たちは、
まだどこかで生きているだろうか。
あまり望みはなさそうだけれど。とにかく、今私たちは彼らが守っていたオフィスビルの中を物色している。
そこら中に死体がある。
今までに見たこともないような数。
逃げ出すことすら無かった人たち。
多くの人が銃を持っているし.....彼らは一体このビルで何をしていたんだろう?
私はこの場所が不気味に思えてきた。
一泊しただけなのに、もう出口が見つからない。
まるで廊下と部屋が一晩で入れ替わってしまったみたい。※1
でもそんなのってありえないよね。それといくつかの奇妙な書類を発見した。
それらは何かの研究室のようなところにあって、
SF映画からそのまま出てきたようなことが書いてあった。※1 一連のパニックによってそこに収容されていた何らかのアノマリーが収容違反を侵したことによる影響だと考えられます。
彼らは…クソっ!私は独りぼっちだ。
彫刻家たちはどこからともなく現れた。
まるで飛び出してきたかのようだった。
グループのちょうど真ん中あたり。
寝る準備をしていて、私はみんなから少し離れたところにいたんだけど、
突然叫び声が聞こえた。私は、奴らが私に追いつく前になんとか外に出てドアを閉めた。
私は臆病者みたいに彼らを見殺しにした。でも、そんなことはどうでもいい。
どうせ私ももう長くはないのだから。彫刻家の一匹が
私に種を植え付けたのは間違いないみたいだ。クソ クソ クソ [残りのページは意味不明]
お前たちが何をしたのか私は知っている。
お前たち全員だ。エレエレ、私の両親、ジャワ、ウィリアムス、
その他にも何百万人もの人々がお前たちのせいで死んだ。もう分ったでしょう?
私は "SCP-4823 "を見つけた。お前たちがそれを何と呼んでいるのかは知らないけど
起こったこと全てを記述した文書をね。どうやってお前たちの仲間がここに来て、
私たちにこの疫病をもたらしたのか。私は間もなく死ぬだろう、他のみんなと同じように。
種が芽を出し、彫刻達の子孫が
私の肉の中に潜り込んでくるのをすでに感じている。どうせ私にはもう一切の望みが無いのだから、
そっちへ行くつもりはない。代わりにこの日記を送るわ。
あんた達が私たちに何をしたのか、
正確に知ってもらいたいから。
注:本誌はSite-77の非異常物品保管棟の
アイテムロッカー7128に保管されています。
すべてを読み終えて
以上がSCP-4823の内容です。
貴方はこれを読んでどのような感想を抱いたでしょうか。
私は、最初の段階である程度予想は出来ていたものの
ヴァレリーの視点から書かれた
U-3567内の生物パニックホラー描写があまりにも生々しすぎて
読んでいて相当の恐怖を感じました。
また、たった二匹のつがいの蠅がきっかけとなって
最終的には一つの高度な文明を持った社会を滅ぶという
原因と結果のスケールギャップもインパクト抜群でしたね。
ちなみに今回の元凶は蠅と財団側の不注意でしたが
私たちの歴史を振り返ってみると
これに似た事例がいくつか思い浮かびます。
例えば近世の南米で数百年に渡って栄えていた
インカ、アステカ両文明が16世紀に
西洋のコンキスタドール達によって滅亡した事例。
この事例では航海者たちが持ち込んだ
現地人に免疫のない天然痘や黒死病、
マラリア、チフスといった様々な伝染病が
現地住民の大幅な人口減少を招き、
滅亡の大きな要因となったと見られていますが、
これなどは外交と略奪という大本の目的の違いはあれど
生物兵器を持ち込んで相手側に致命的な打撃を与えた
という意味ではSCP-4823で起きたことと
構造的にはほとんど同じであるように思えます。
他にも、こちらは被害者が動物ですが
17世紀のドードーの絶滅や
日本でのブラックバスの生息域拡大と
それにともなう在来生物の減少なども
SCP-4823と通じるものがあるように思えますね。
まぁ、結局私が何が言いたいかというと
SCP-4823はこうした自然破壊の寓話であり、
刺激的な物語を通じて
私たちに自然とのかかわり方を
もう一度考え直す機会を与えてくれたのではないか、ということですね。
またそういう視点で改めて
物語の最後でヴァレリーが取った行動を振り返ってみると、
その意味の重さが改めて伝わってきます。
少なくとも今回の事件の全ての元凶となった財団には
今後は同じ過ちを二度と繰り返さぬよう、
改めて自分たちの仕事のやり方を
徹底的に見直して頂きたいものですね。
余談 あったかもしれないもうひとつの可能性
最後に、ちょっと個人的に
もしかしたらこうなってたんじゃないかという
ifが思い浮かんだので書いておきます。
それはもし基底世界側よりも先に
U-3567側がゲートウェイをくぐっていたならば、
お互いの立場は全く逆になっていたのではないかという可能性です。
今回は偶然「蠅」がバナナ人間に対する
生物兵器の役割を果たしましたが、
それとは逆に「バナナ人間には無害だけど基底世界の人類にとっては
致命的な生物」がU-3567側に必ずしも存在していないとは言い切れません。
そしてもし、そんな生物が
基底世界側にやってきてしまっていたならば
恐らく憎悪の日記を送るのは私たちの側になっていたことでしょう。
ともあれ、人のうちにお邪魔する際には
汚れにしろ風邪菌にしろ
余計なものは持ち込まないというのが
最低限のマナーといったところでしょうかね。