ストーンフリーは本当に弱いのか?
現在アニメが絶賛配信中の
ジョジョの奇妙な冒険第六部ストーン・オーシャン。
その主人公、空条徐倫のスタンド能力が
「糸」の能力を持つストーン・フリーです。
…なのですがこのストーン・フリー、
最初に六部を読んだ時からずっと心に引っかかっているのが、
「ストーン・フリーって、主人公のスタンドにしては正直弱くね?」という素朴な疑問です。
他の部の先輩達に思いを馳せれば時間停止+圧倒的パワーのスタープラチナに、
触れたものをノーリスクで瞬時に治す能力+スタープラチナ以上のパワーのクレイジー・ダイヤモンド、
そして極め付けに実質的な完全防御+殴られたら永遠に死に続ける罰ゲーム付きのゴールド・エクスペリエンス・レクイエム
という錚々たるメンバーが居並び、後輩に目を向ければ
次元の壁を突き抜けて攻撃できる通称絶対殺すマンのタスクACT4、
あらゆる厄災の条理を超えて突き進むソフト&ウェット ゴー・ビヨンドが続く中で、
ストーン・フリーの能力は最初から最後までマジで糸一辺倒。それしかありません。
そんなことを思っているのは自分だけかと思い
試しにGoogleの検索欄に「ストーンフリー」と入力すると
サジェストの時点で既に「ストーンフリー 弱い」の文言が。
これはつまり、世のジョジョ読者の中に
「ストーン・フリーが弱い」という一定の共通認識が存在していることを示唆しますが、
そうなると次に気になるのが
「本当にストーン・フリーは弱かったのか?」という疑問です。
言っても20年近く前の作品ですからね。
改めて作中の描写をきちんと見直さない限り、
ストーン・フリーが弱いという判断を下すのは尚早でしょう。
そういうわけで本日は、
- 公式パラメータチェック
- 作中でのバトル描写のおさらい
- 結論と考察
という流れで、ストーン・フリーが本当に
弱いスタンドだと言えるのかどうかを
20年来のファンである私が全力で検証してみたいと思います。
それでは、行ってみましょう!
※本記事にはジョジョの奇妙な冒険ストーンオーシャンのストーリーに関する重大なネタバレが含まれます。閲覧の際はその点を予めご了承ください。
公式パラメータチェック
まずは、スタンドの強さを測る上で
最も分かりやすい資料である
公式のパラメータを確認してみましょう。
[ストーンフリーの公式パラメータ]
破壊力 | スピード | 射程距離 |
---|---|---|
A | B | 1〜2m |
持続力 | 精密動作性 | 成長性 |
A | C | A |
[スタープラチナの公式パラメータ(比較用)]
破壊力 | スピード | 射程距離 |
---|---|---|
A | A | C |
持続力 | 精密動作性 | 成長性 |
A | A | A |
ぱっと見は
典型的な近距離パワー型のパラメータですね。
スタープラチナと比較すると
スピード、精密動作性、射程距離で劣っていますが
破壊力と成長性は互角です。
パラメータを見た限りは、
スタープラチナには流石に一歩劣るけれど
破壊力がA、スピードがBである時点で
接近戦には十分強いスタンドのように感じますね。
まぁ、キッスが精密動作性以外全部Aだったり、
破壊力C(人間並み)のはずのゴールドエクスペリエンスが
複数台の車をボッコボコに破壊できていたり
そもそも破壊力の指標がスタンドの腕力なのか、
能力の威力なのか基準が曖昧だったりする時点で
公式のパラメータなんて考えるだけほとんど無駄なんだけどな!
六部作中におけるストーン・フリーの活躍を振り返る
続いて、強さを測る上で最も重要な資料である、
六部作中でのストーン・フリーの活躍を振り返ってみましょう。
vs鉄格子 最初のガッカリ。鉄格子も破壊できない近距離パワー型スタンドとは
ストーンフリーに対する
ケチのつきはじめがこのシーン。
仮にも破壊力Aの近距離パワー型スタンドが
鉄扉ならともかく鉄格子も破壊できないというのは
それまでの部と比べてかなりのデフレ感がありました。
お父さんは初登場回で楽々ねじ曲げてたのにね。
まぁ、これについては
21世紀アメリカの重警備刑務所の檻は
20世紀日本の留置場の檻よりも頑丈だったとか、
そもそも全スタンドの中でも最高峰のパワーを誇る
スタプラと比較するのが酷だとかでまだ言い訳の効くレベルですが…
vsフー・ファイターズ パワーBのFFに正面から力負け
そろそろ(といってもまだ4巻)
言い訳も苦しくなってきたのがこのあたり。
破壊力Bのフー・ファイターズに、
正面からのラッシュを軽くいなされてしまっています。
最終的には徐倫の機転で逆転勝利を収めていましたが、
能力で回避されただとか、チリペッパー戦のクレイジーダイヤモンドように
相手が一時的に大幅なパワーアップをしていたとかの理由も無しに
パラメータ上で格下のはずの相手に
シンプルに打ち合いで押されていたのは流石にまずかったんじゃないでしょうか。
vsプラネット・ウェイブス 勝利するも、スタンドより本体の強さが目立ったか
隕石を自分めがけて墜落させることで攻撃するスタンド
プラネット・ウェイブスとのバトル。
刃牙もかくやといったガチガチの肉体戦が展開され、
最終的に徐倫が勝利を収めたこのカードでしたが
しかしそれがストーンフリーの名誉挽回につながったかと言われれば
それは正直微妙なところでした。
なぜなら、この対決において
最後に決め手となったのが、
スタンド自体の強さというよりも
本体である徐倫自身の精神力だった
という印象が強かったからです。
本体のウェストウッド看守をノックアウトした、
石を詰めたブーツを隕石にぶつけ飛ばして
相手の本体を狙撃するという勝利法も、
別にストーンフリーでなければ
できない勝ち方というわけでもなかったですしね。
ただ、このバトルの最中に徐倫が
糸で敵の足の爪を引っぺがしたり
耳から鼓膜を突き破ったコマを見たときは
強さとはまた別ですが本当に恐ろしい能力だと戦慄したものでした。
vsホワイトスネイク 遠距離型スタンドに近距離戦で肉薄される哀しみ
物語の大きな分岐点となった11巻、
プッチ神父(ホワイトスネイク)との一騎打ち。
本体のプッチ自ら「遠隔操作のスタンド」を自称するホワイトスネイクに対し、腐っても近距離パワー型スタンドであるストーンフリー。
しかも周囲は湿原で、
DISCで操れそうな人間もいないというかつてない好条件。
四部のバイツァ・ダストが破れた直後のバトルで仗助が
スタンドの性能差に物を言わせて吉良をボコボコにした時のように、
徐倫のワンサイドゲームが展開されるかと思いきや…
まさかの超接戦
ただこれに関しては、対戦相手のホワイトスネイクが
遠距離スタンドの肩書きに反して
近距離戦も強すぎたことを問題視した方が良いような気もします。
何が「この距離なら100%のスピードとパワーが使える」だよ。
それを踏まえても近距離パワー型には力で劣るから
その代わりに遠くまでスタンドが動けるんじゃないのかよ。
お前公式のパラメータでスピードD判定のくせになんで
B判定のストーンフリーと正面から殴り合えるんだよ。
スタンドが本体の近くにさえいれば
近距離パワー型スタンド並みのパワーが出せるんだったら
近距離パワー型スタンドいいとこなしじゃねぇか。もうお前明日から遠距離パワー型を名乗れ。
…話が脱線してしまいましたね。
戻しましょう。
このバトルに関しては、
ホワイトスネイクのインチキさを除いても、
ストーンフリー側に同情すべき点も少なくありません。
- ホワイトスネイクも破壊力A評価を受けていること
- 徐倫とプッチの間にスタンド使いとしての経験年数の大きな差があったこと
- 徐倫側が事前に奇襲でダメージを負っていたこと
- プッチが爪に十字架を刺してリーチを伸ばしたり人質を取ったりなどの搦手を駆使したこと。
その上で少なくとも格闘能力においては
ストーンフリーが上で、その差をプッチが経験とか策略で
カバーしているという描写にはなっていたので
冷静に見ればまだそこまで
残念描写にはなっていなかったのかなぁ、と。
ただ、一読者の素直な読感としてはやはり、
もっと一方的にプッチをやっつけることで
近距離パワー型の強さを見せつけてほしかった感はありましたが…
vs C-MOON やはり打ち合いが弱い…。
プッチ神父が緑色の赤ん坊と融合して誕生した、
「重力の方向を変えるスタンド」C-MOONとのバトル。
前半はダイバー・ダウンのアナスイとのタッグによる
2vs1のバトルでしたが、これは終始C-MOONの能力に押される形になり、
ようやく掴んだ逆転のチャンスにおいても逆転しきれず
逆に心臓にパンチをもらって退場という
実質的な敗北を喫することとなってしまいました。
(※その後復帰はしていますが)
C-MOONとはお互いにスピードB同士ということで、
有効打はお互いに入ったり入らなかったりの接戦だったのですが、
両者の大きな差となっていたのが決定力の差です。
徐倫(ストーン・フリー)の方は結構いい蹴りを
顎に入れてもダウンすら奪えていないのに対し、
C-MOONは殴った部位を重力反転で裏返らせることができるので、
腕なら腕、脚なら脚と言ったふうにヒットした部位を確実に破壊することができます。
また、C-MOONは射程距離Aで
本体から遠く離れていてもパワーが落ちないのもズルい強力ですね。
ただし、このC-MOONに対しては
徐倫だけでなくアナスイも1対1で敗北していますし、
そもそもC-MOONが滅茶苦茶面倒な手順を経て誕生する
特殊なスタンド能力であったことを考えれば
ある程度スペックの差があるのも仕方がなかったかなとは思います…。
vs メイド・イン・ヘブン 歴代主人公で唯一の完全敗北で終了。
プッチ神父が「天国に行く方法」を完成させたことで誕生した
時間を加速させる能力を持つスタンド、メイド・イン・ヘブンとの最終バトル。
…なんですが、このスタンドは正直いって
スタンドの枠を超えた規格外の能力であり
あまりにも力の差がありすぎて勝負にすらなっていません。
承太郎、徐倫、アナスイ、エルメェス、あと一応エンポリオの
5人でまとめてかかっても正攻法では勝ち目すらなく、
一縷の望みをかけたアナスイを囮にして
承太郎が時間停止中に倒すという作戦も
結局は徐倫を見捨てることができない承太郎の心につけ込んだ
プッチの戦略に一枚上手をいかれて失敗。
そしてエンポリオを逃すために
海中でプッチに一騎討ちを挑んだ徐倫最後の戦いは、
バラバラになったストーンフリーの部品が描かれたコマのみが描写され、
徐倫が一瞬で敗死したことを示唆するものとなっていました。
もっともこの死は物語的には意味のある死であり、
最終的には徐倫たちの意志を継いだエンポリオが
一巡後の世界でプッチを倒すことに成功しているので
間接的には徐倫は勝利したと言えなくもないのかもしれません。
ですがそれでもストーン・フリーがこの戦いで
「歴代ジョジョで唯一ラスボスに敗北して死亡しっぱなしで作品が終わった主人公のスタンド」
という汚名を背負ったことには変わりなく、
このこともまた多くの読者がストーン・フリーに対して
強いスタンドというイメージを持てない
大きな要因の一つであると私は思います。
まとめ
ここまで、ストーンフリーの強さを考察する上で
特に重要であると思われるバトルを振り返ってきました。
改めて振り返ってみると、
近距離パワー型という表向きのスペックから
読者が期待する強さのイメージに対して
作中での描写が十分に追いついていない印象がありました。
また、主人公のスタンドということで
どうしても過去作の主人公である
承太郎や仗助の影がちらついてしまい、
彼らのスタンドと比べた時のしょっぱさも
ストーンフリーのイメージにマイナスに作用していたように思います。
(ジョルノのゴールド・エクスペリエンスは最初からサポート型の印象が強かったので例外。破壊力もCだし…)
また、最初の方でも少し触れた点ですが
他主人公たちとの比較という観点で言えば
作中でわかりやすいスタンドのパワーアップイベントが
一度もなかったのはやはり辛いところでした。
ストーンフリーにも「レクイエム化」や
「黄金の回転」のようなわかりやすい強化があれば
また違ったのでしょうが、早熟型というか、
最初のグェス戦あたりから最後までほぼそのままの能力でしたからね…。
一つの仮説
ここまで、ストーン・フリーを弱いスタンドだと
評価する風潮が形成された原因を探ってきましたが、
ここからは少し話の方向性を変えてみたいと思います。
それは、なぜストーン・フリーが
「弱いスタンド」でなければならなかったのか?という理由の部分です。
と言うのも、私は荒木先生が
ストーン・フリーに対しては、目的をもってあえて意図的に
強さを抑えめに描いていたような気がするんですよね。
作中で目立ったパワーアップイベントがなかったこと、
破壊力Aの近距離パワー型でありながら
スタープラチナやクレイジー・ダイヤモンドほど
近距離戦で圧倒的な強さを発揮する描写がなかったこと…
これらには全て、
作劇上の歴とした理由があったというのが私の主張であり、
私がそう考えるのには、主に次の2つの理由があります。
理由1 : 六部のテーマを表現する上で、強いスタンドは必要じゃなかったから。
1980年代に連載が開始したジョジョは、
その30年に及ぶ連載の歴史の中で
その作風を大きく変化させてきました。
特に、四部で吉良吉影が出てきたあたりを境に、
三部以前の善vs悪という単純な二元論構図からの脱却が進み、
テーマがより複雑性を増した六部に至っては
もはやそれまでの部のような
「強い悪をより強い力の善がやっつける」といった決着法は
時代的にも作品のテーマ的にもそぐわなくなってきた感がありました。
そして、そのように複雑なテーマ、
六部でいえば「愛」や「運命」でしょうか。
…を描く上では三部の承太郎のような
圧倒的な強さのヒーロは必要ではなく、
むしろそんなものはテーマの表現をする上で
邪魔にしかならなかったのだと思います。
ここで一つ想像してみてほしいのですが、
例えば徐倫に目覚めたスタンドがストーン・フリーではなく
スタープラチナのような"強い"スタンドだったならば、
刑務所内のあの悲惨さや孤独感、
そしてそれに立ち向かう徐倫の人間的な逞しさは
十分に表現できていなかったのではないかと思います。
圧倒的に強い英雄的なキャラクターというのは
憧れの対象にはなっても、
現実に生きる我々が共感を見出すのは
得手して同じように弱さを抱えた
登場人物の葛藤する姿だったりするものですからね。
理由2 : 第五部への反省
2つ目の理由は、
六部の前に連載されていた
第五部『黄金の風』に関わるものです。
既読の方はご存知のように、
第五部の主人公ジョルノ・ジョバーナは
色々あった挙句最終的に
「自分に害を及ぼそうとする全ての意志の力を0に戻す」という
インフレの極みみたいな能力を有する
ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム(以下GER)を発現します。
このGERはもはや能力バトルの枠を超えた存在であり、
このままこの路線でインフレが進行すれば、
読者が完全に置いてきぼりになる危険性がありました。
そこで、第六部のストーン・フリーについては、
能力のインフレ路線を一旦断ち切って強さを抑え、
機転と応用で戦う本来のスタンドバトルの醍醐味を
取り戻そうとしたのではないかと思うのです。
また、本筋からは少々離れる話になりますが、
五部の反省といえば主人公のキャラクター造形についても
六部ではいくつかのフィードバックが見受けられます。
というのも、第五部では群像劇を意識して
仲間の活躍もこれまで以上にしっかり描かれていたこと、
そして主人公のジョルノが冷静沈着な軍師キャラであり、
尚且つスタンド能力のゴールド・エクスペリエンスが
「さまざまな生き物を産み出して操る」という
どちらかというとサポート向きの能力であったことなどから
他の部よりも主人公の存在感の薄さというか、
言い方を変えれば主人公らしくなさ
がよく指摘されてしまっているんですよね。
主人公というよりも、
主人公を補佐するナンバーツー的な立ち位置というか。
そんなこともあって第六部では
物語を主人公中心に戻し、
近距離でもガンガン戦えるスタンドを持たせて
かつシンプルで応用の効く能力にする
というバランス調整が図られたものと思われます。
まとめ
以上が、私の考えた
「ストーン・フリーが弱いスタンドでなければならなかった理由」です。
時代の空気感だとか、作劇上の都合だとか
理由は色々ありますが、こうしてみると改めて思うのが、
連載漫画家というのは滅茶苦茶大変な仕事だなぁということです。
週間で絵も描いて、話も作って、設定だって
破綻しないようにうまく練らなければならない。
特に設定は、一度決めたら変えられないし、
本当に難しいところですよね…
終わりに
なんだかんだ色々と述べましたが、
要するに私が一番言いたかったことは、
主人公が弱いことが物語のテーマを
際立たせる上で必要になることもあるんだね、ということでした。
賛否はあれど、テーマの重厚さやキャラクターの魅力においては
六部はジョジョの中でも1、2を争うシリーズだと思います。
これから放映されるアニメの続編も実に楽しみですね。
それでは、またの機会に。