はじめに
こんにちは、つい最近「六部がアニメ化できない理由」みたいな
記事を投稿した直後に六部アニメ化の発表が来て
嬉しくもあり若干恥ずかしくもあるdaimaです。
さて、本日はジョジョの長い歴史の中で登場した
膨大な数のキャラクター達の中から、
個人的に最も不幸で可哀想だと感じたキャラクター達を
7名ほど独断と偏見で選抜してご紹介してみたいと思います。
主な選定基準は以下の通り。
- 作中の不幸エピソードが充実している事
- 最後の最後まで救いがない事
- 私が見ていて哀れだと思えた事
はい、非常にシンプルですね。
この選定基準上、
最後まで救いがあってはいけませんので
例えば五部に登場したペリーコロさんみたいに
傍から見れば不幸な最期だったけれど
本人は満足していたようなキャラクターは選外となります。
そのような訳で今回の記事では
全体的に華の無い、見ているだけで不幸が移りそうな
面子が並ぶことが予想されますが
それでも尚読んでみたいという奇特な方は
以下より記事本編にお進みください。
ダニー
ジョジョの奇妙な冒険 第1巻より
いきなり人間ですらない人(?)選で恐縮なのですが、
第一部よりジョナサンの愛犬ダニーです。
人懐っこく、川でおぼれかけた
幼少時のジョナサンを助けたこともある
利口な猟犬なのですが、
ディオとの初対面時には「犬が嫌いだから」
という身勝手な理由で
歯がへし折れるほどの膝蹴りを喰らわされて
ノックアウトさせられてしまいます。
そしてディオがエリナに手を出したことで
ジョナサンの怒りを買いボコボコにされた際には
当時のジョナサンの数少ない心の支えとして
ディオの腹いせのターゲットにされてしまい、
口を針金で縛られた上で焼却炉に放り込まれ、
何も知らない執事によって火を付けられ焼死するという
あまりにも惨すぎる最期を迎えることとなってしまいました。
これは読者にディオの冷酷さを強調する上で
この上なく効果的な演出ではありましたが、
それでもやはり、罪のない動物が犠牲になる描写は
見ていて辛いものがあります。
もし今の時代にジャンプで同じ描写をやったら、
各方面から猛攻撃を受けることは避けられなさそうですね。
サンタナ
ジョジョの奇妙な冒険 第6巻より
第二部より、作中に初めて登場した
柱の男であるサンタナです。
メキシコの遺跡で休眠状態に入っていた所を
ナチスによって発見され基地に運び込まれ、
さらにそこで血液の供給を受けたことで睡眠から覚醒。
その驚異的な身体能力で
ナチスの兵士を紙屑の様に殺戮した後
たまたまスピードワゴンの救出そこに居合わせていた
主人公のジョセフと遭遇してこれと交戦。
当時はまだ波紋の初心者だったジョセフを
死の寸前にまで追い込んだものの
最終的にはナチスの上官である
シュトロハイムの捨て身の行動と
ジョセフの機転によって
弱点の太陽光を浴びせられて敗北。
体を太陽光から守るため石化した後は
再びナチスに収容され、
以降は二度と脱走しないように強烈な紫外線を
絶え間なく浴びせられ続けることとなったのでした。
…と、ここまでなら
別にそこまで悪いところもない
序盤の強敵の一人といった立ち位置だったのですが、
私が彼のことを不幸だと思う理由は
その後の徹底した扱いの悪さにあります。
その一つが、仲間である
他の三人の柱の男たちからの著しい評価の低さです。
たった四人しかいない仲間の一人が
やられたというのに誰も悲しむ様子もなく※
リーダーのカーズに至っては
「サンタナが何だと言うのだ!
やつは青っちろいガキ・・・番犬のような存在
我らとは比較にならん!」
というこき下ろしっぷり。
(※ワムウやエシディシが敗北した際は動揺したり悲しむような描写あり)
また、サンタナだけが
たった一人だけ他の三人(ローマ)から
遠く離れたメキシコで眠りについていたことから、
前回の眠りに入った時点で既に他の三人から
半ば見捨てられていた可能性まで考えられます。
まぁ、確かに実際に他の三人が
人間の言語がペラペラなのにサンタナだけずっと片言だったり、
独自の流法が無かったり、そもそも波紋の修行を
受ける前のジョセフに負けていたりと
基本的なスペックの差は歴然なのですが、
それでもカーズとエシディシが他の一族を粛正して以来、
赤ん坊のころからずっと面倒を見てきた
相手だったことを考えると
もうちょっと優しくしてあげても良かったんじゃないかと
思ったりしてしまいます。
そして、これらの理由に加えてもう一つ、
私がサンタナの事を可哀そうだと思った理由が、
作中の描写から推測できる
ジョセフに敗北した後の彼の末路です。
明確な描写こそありませんでしたが、
中盤で再登場したシュトロハイムの
「どのぐらいの肉片まで細切れにすれば生命活動を不能にできるかも計算されておる」
「1センチ四方の肉片にしてくれる」
といったセリフから推測するに、
この時点でサンタナは既にナチスによって
1センチ四方の肉片にされて死亡している可能性が濃厚なんですよね。
柱の男が波紋以外で痛みを感じている描写は殆どなかったかとは思いますが、
それでも身動きできない状態のまま
肉体を少しづつちぎられて死んでいくのは
相当な恐怖と屈辱だったのではないでしょうか。
さて、以上が私がサンタナが不幸だと考える主な理由ですが、
それ以外でもサンタナは他の三人の柱の男達に比べて
ゲーム化(ASB)やフィギュア化(超像稼働)などの機会に乏しく、
そこがまた何だか友だちグループの中で一人だけ
ハブられてるような感じがあって可哀そうに思えてしまう事があるのです。
もっともそんなサンタナにもひとつだけ救いがあるとすれば、
これは私も大いに同意するところなのですが
四人の柱の男の中でサンタナとの戦いが
一番恐怖感と絶望感があったという意見が
ファンの間でしばしば聞かれることでしょうか。
カーズたちはまだ人間の言葉が通じる分
まだ話し合いで分かり合えそうな余地がありましたし、
ワムウを筆頭に人間的な面も結構見せていたりしたのですが
サンタナは言葉も片言だし、問答無用で殺してくるしで、
こいつとは絶対に共存できないだろうなという
圧倒的なモンスター感がありました。
何より、第一部の大ボスだった
吸血鬼をも食糧にする柱の男の次元の違う強さを
読者の脳みそに刻み込んだ最大の功労者が
サンタナその人であったことは
ジョジョの読者ならば
誰もが意見の一致するところではないでしょうか。
猫バーガーになった猫
ジョジョの奇妙な冒険 第27巻より
犬、柱の男ときて次は猫です。
より正確に言うと、
第三部の最終戦で、DIOが承太郎にDIOのスタンドの
正体を伝えようとしたジョセフにとどめを刺そうとした際に、
運悪くその進路上に居たために、
時間停止中にDIOに殴り殺された野良猫です。
この一連のシーン、漫画的には
DIOの残虐性が伝わる良いシーンではあるものの
冷静に考えてみるとDIO当人にとっては
実際何の利益にもならない行動なんですよね。
殴るくらいなら猫くらい避けて通ればいいだけだし、
猫の死体を承太郎たちへの攻撃や
時間稼ぎに利用したわけでもありません。
よって、DIO様的には本当に、
何の目的意識もなく
ただの気まぐれでやったことだったのでしょう。
また、DIO様に殴られてバラバラになった
この猫のパーツはその後、
神がかり的なコントロールによって
近くのカフェの客たちの皿やコップにチップインしており、
時間停止が解除された後には、
よそ見をしながら食事をしていた客たちによって
そのまま美味しく頂かれてしまっています。
何の罪も必然性もなく殺害され、
その死体までもが悪趣味な演出に使われる。
動物に厳しいことでも有名なジョジョですが、
いくらなんでもひどすぎるこの扱い。
そういえば何巻かのコミックスの著者コメントで
荒木先生が自宅の庭に糞をしていく猫に憤慨していましたが
もしかするとその猫をモデルにして、
漫画の中で怒りを発散していた可能性も…?
乙雅造
ジョジョの奇妙な冒険 第43巻より
もし、夢の中に神様が出てきて
「望むならジョジョに出てきたスタンドの内
ランダムで一つを与えるが欲しいか」と問われたら
多くのジョジョ読者は「YES YES YES」と即答することでしょう。
しかし、第四部に登場した乙雅造とそのスタンドの事を
覚えている人はその申し出にも少し躊躇ってしまうかもしれません。
なぜなら、彼のスタンド「チープ・トリック」は
発現した時点でほぼ死が確定する
史上最悪の地雷スタンドだったのですから。
まずは知らない、または忘れたという方のために
チープ・トリックの能力がどのようなものだったか
軽くおさらいをしておきましょう。
まず、このスタンドが自発的に行える行動は
本体の背中に張り付いて、耳元で囁くことだけです。
他の多くのスタンドのように、
徒手空拳で戦う事も、
特別な能力を発揮することもできません。
ただし、本体が別の生物から
背中を見られた場合だけは話が別で、
その条件が満たされた場合、
チープ・トリックは本体の背中を破壊して殺害し、
見た相手の方へと本体を鞍替えします。
いわばこのスタンドは
「永遠に終わらない、取られたら死ぬババ抜きのババ」のようなもので、
関わった生物が例外なく不幸になる性質を有しています。
しかもこいつは一応スタンドという扱いであり、
与えられたダメージは本体にもフィードバックするため、
本体となった人間を生かしたまま
このスタンドを消滅させる方法は
ごく一部の例外を除いて存在しません。
貴重な例外としては作中で岸辺露伴が行った、
「振り返ってはいけない小道」を利用して
チープ・トリックの魂だけを持っていかせるという攻略法がありましたが
これは露伴が杜王町に住んでいたからこそ出来た裏ワザであり、
例えば別の場所に旅行中にこのスタンドに憑りつかれたりしていたら
流石の露伴も打つ手がなかったものと思われます。
そしてそんな最低最悪なスタンドの産みの親となったのが
乙雅造という29歳の建築士の男なのですが、
彼自身はキューピーの出来損ないみたいな変なヘアスタイルを除けば
どこにでもいそうなごく平凡な人物です。
露伴が好奇心からヘブンズ・ドアーで
彼の心を読んだ時にも、そこに書かれていたのは
「やったー!仕事だ稼ぐぞ」という意気込みであったり、
彼女ができないことに対する悩みだったりと
全く一般的な範囲の事柄ばかりでした。
(※唯一「背中を見られたくない」という強迫観念だけは異常でしたが、
これはスタンド発現後に芽生えた心理だったのではないかと思われます)
そんな彼が、たまたま吉良吉廣の持つ弓と矢に選ばれ、
望むと望まざるに関わらずスタンド能力を発現させられた挙句
こんな最低最悪のゴミカスみたいなスタンドを引き当てて
挙句の果てに露伴が余計な好奇心を働かせたせいで
命を落とすことになったのですから
これを不幸といわずして何というのでしょうか。
ちなみに話は巻き戻って最初の質問についてですが、
改めて考えるとスタンドとはその人の精神の形なので、
乙雅造の「チープ・トリック」と全く同じスタンドが
別の人にも発現するという事は
実際にはあり得ない事なのかもしれないですね。
とはいえ、別の致命的なスタンドが
発現しないとは限りませんし、
ホリィさんの例の様に
精神力が十分でないとスタンドそのものが
生命への害となる場合もあるので
もしあなたが運よく(?)スタンドを発現するチャンスに恵まれても
一旦立ち止まってよく考えてからにした方が賢明かもしれませんね。
ヴェルサス
ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第15巻より
第六部に登場したディオの息子の最後の一人。
初の顔出し回では
無表情+敬語のクールキャラで
これまでの兄弟達とは一線を画す
強キャラ臭をプンプン漂わせていた彼ですが、
徐倫たちとの戦闘中に横からあれこれ口出ししてくる
プッチ神父の「指図にムカッ」としたあたりから急激に小物化が進行。
「無関係の子供の命を危険にさらして勝とうとする」
「プッチ神父の忠告にイラついて無視した挙句逆転負け」
「ストーン・フリーの糸で逆さ吊りにされる」「小学生男児の服をヤバい表情でまさぐる」
などのクソダサムーブを連発した挙句、
最終的にはプッチ神父の
逃亡の道具にされて死亡するという
一欠片の救いもない最期を迎えました。
ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第15巻より
またその辺りはウェザーの死の場面とも重なっており、
ウェザーが徐倫たちからその死を哀しまれているのに対して
誰一人哀しむ者のいない彼の死にざまは
一種のコントラストとして
その哀れさを一層引き立てられていました。
そんな何かと救いの無かった彼ですが
その生い立ちも同様に悲惨なものでした。
まず実の父親であるDIOは
物心つく前に既に承太郎によって殺害されており、
母親は母親で再婚相手との子供ばかり可愛がるせいで
ヴェルサスのことは半ばネグレクト気味。
そんな家庭に嫌気がさしたヴェルサスは
13歳の時に軽い気持ちで家出を実行。
行く宛ても無く街中をふらふらしていたところ
泥棒が屋上から放り捨てた有名野球選手のスパイクが直撃し、
怪我はなかったのですが、事情を知らずに
それを持ち歩いていた所を警察に見つかり、
犯人と間違われて逮捕されてしまいます。
その後送られた家庭裁判所では判事の質問に対し、
スパイクは自分が盗んだのではなく空から降って来たものだと
真実だけを話したものの信じてもらえず、それどころか
判事に「恥をしりなさいッ!」とものすごい勢いでキレられて更生施設送りに。
ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第15巻より
送られた先の施設は劣悪な環境であり、
さらにある時転んだ先に偶然※
タチの悪い先輩のナイフが埋まっていてそれが手を貫通し、
その上隠していたナイフが見つかったことに腹を立てた先輩から
ボコボコにされるというひどい災難にも見舞われています。
(この出来事はヴェルサスのスタンド能力「アンダーワールド」の影響ですが、
当時のヴェルサスは自身の能力を自覚していませんでした。)
その後、濡れ衣が晴れて施設を出られるようになった頃には
そ既にヴェルサスは身も心もボロボロになっており、
以後社会から逃げ続けるように
ヘトヘトの人生を送ることになったのでした。
こうして見ると不幸は不幸でも、
ギリギリ現実でも起こりそうな不幸ばかりなのが
何とも生々しくて厭ですね。
もちろん、環境が悪かったからといって
必ずしもクズになるわけではなく、
例えば同じようにDIOの息子であり
酷い環境に身を置いていたジョルノが
名もなきギャングとの出会いによって
黄金の精神に目覚めたように、
ヴェルサスも何かのきっかけさえあれば、
全うな道を歩むことができたのかもしれませんが
そうした機会に恵まれるチャンスの無いまま
大人になってしまった事にも
彼の幸の薄さを感じてしまいます。
このようにとことん良いところの無かったヴェルサスですが、
今度放送される六部アニメを通じて
そんな境遇に同情を寄せてくれる視聴者が増えれば
少しは彼も浮かばれるのかもしれませんね…
ウェカピポの妹
STEEL BALL RUN 第14巻より
第七部より、
主人公のジャイロとは別流派の鉄球の技術を持ち、
最初は大統領の刺客として登場したものの、
対決後は心を入れ替えてジャイロ側の協力者となったウェカピポ
…の妹です。
作中では特に目立つような立場のキャラではないのですが、
そんな彼女の存在を一部で一躍有名なものとしたのが
彼女の夫(以下 ウェカピポの妹の夫)の存在です。
ウェカピポの妹の夫はウェカピポと同じ
ネアポリス王国の護衛官であり、
ウェカピポの妹とはウェカピポの仲介で結婚に至ったのですが、
これが蓋を開けてみるととんでもないDV野郎であり、
ウェカピポがそのことに気が付いたときには
ウェカピポの妹の夫の度重なる暴力によって
ウェカピポの妹の視力はほとんど失われてしまっていました。
その後ウェカピポはウェカピポの妹の婚約の
取り消しを法王に訴え許可されたものの
それが逆にウェカピポの妹の夫逆鱗に触れ、
一対一の決闘を申し込まれます。
決闘の結果は僅差でウェカピポの勝利となり
ウェカピポの妹の夫もその過程で無事死亡したのですが、
しかしウェカピポの妹の夫の父親が国家の重要人物であったため
ウェカピポが消されることを危惧した
ジャイロの父の配慮によってウェカピポは強制的に国外追放に。
こうして視力に障害を抱えたまま
一人残されたウェカピポの妹は
自分一人で生きていくことを余儀なくされ、
ある時労働中に石段から転落して重傷を負い
当時医師として働いていたジャイロの元へと運び込まれます。
鉄球でウェカピポの妹をエコー診察したジャイロは
事故の怪我だけでなく、かつてウェカピポの妹の夫によって
与えられた視神経の損傷を治す可能性をも見出し、
助手として付添っていた母親の「彼女はタブーなのよ」
という制止を振り切ってその治療に挑んだのですが、
手近の器具からタイミング悪く噴出した蒸気によって
手元が狂うという不幸なミスによって視神経の手術は失敗。
かくしてウェカピポの妹は命こそ助かったものの
今度こそ完全に視力を取り戻す望みが断たれてしまったのでした。※1
(※1 ただし、この手術が成功して視力が回復していた場合
ウェカピポの妹の夫の父親が身内の恥を知るウェカピポの妹を抹殺していた可能性があったことを後にジャイロの父親が指摘しており、このエピソード自体はそうした運命のわからなさを象徴する役割を果たしています。)
しかも、彼女の不幸はまだこれで終わりではありません。
SBRを読んだ方ならご存知かと思いますが、
世界で一番彼女の幸せを願っていた兄のウェカピポまでもが
大統領のスタンド能力とディエゴの奸計によって
彼女の知らないところで命を落としてしまうのです。
一応、手術後の彼女はジャイロの父によって
安全な田舎に匿われていることが
ジャイロの口から語られていますが、
SBR最終話では本篇終了後間もなく
ネアポリス王国の共和制に移行したことを機に
ジャイロの一族も他国へ移住したことが語られており
その際にウェカピポの妹がどうなったかまでは触れられていません。
ジャイロの父の事ですから、
恐らく目の見えない彼女を見捨てるようなことは無かったとは思いますが、
何にせよ、あの時代に目の見えない女性が
たった一人で生きていくことが相当な
困難であろうことは想像に難くありません。
一読者としては、ウェカピポの思いが無駄にならないように、
次こそはまともな伴侶に恵まれて
幸福な人生を送ったであろうことを期待したいものですけどね…。
大年寺山愛唱
ジョジョリオン 第10巻より
ジョジョリオンに登場した岩人間の一人。
セーターを頭に巻き付けたような
個性的なファッションが特徴的な
29歳の男性で、表向きは
スタジアムの警備員として働く傍ら
裏では岩人間のチームの一員として
色々な裏の仕事に関わっています。
岩人間というのは文字通り
岩と人間両方の生態を併せ持つ
人類とは別の進化を辿った種族であり、
作中ではどんな病気やケガも"等価交換で"治せる
ロカカカというフルーツとそれがもたらす莫大な富を巡って
主人公の定助らと敵対することになります。
作中ではロカカカの秘密を探ろうとした
ヒロインの康穂と東方つるぎのコンビと交戦して敗北し、
その回限りで退場となった愛唱ですが、
今回私が彼をセレクトした最大の理由は
上記の対決中に挿入された、
男性諸君なら誰もが同情を禁じ得ないであろう
あまりにも悲惨な過去エピソードの内容にあります。
そのエピソードは本編より恐らく
5〜10年程度ほど前の話と思われ、
当時愛唱が所有していた丘の上の小さな家の中で
愛唱とそのガールフレンドの女の子が
楽しそうにじゃれついている場面から始まります。
相手の女の子の方は
岩人間ではなく普通の人間だったのですが、
彼女にすっかり心を許していた愛唱は
「定期的に1ヶ月丸々睡眠をとり続ける必要がある」※
という岩人間特有の体質を彼女に打ち明けてしまうんですね。
(※岩人間は普段人間社会に隠れて溶け込んで暮らしているのですが、この体質のため正社員のような勤務時間の決められた仕事には就けなかったりします。)
そんな予想外な話を聞かされた女の子はその場では
「なあああーーーんだッ! そんなことかぁああーーーッ」といういかにもジョジョ的なセリフ回しで
軽く受け入れたようなそぶりを見せたのですが、
その後愛唱が休眠期間に入ると
その隙に合鍵を使って彼の家に別の男を連れ込み、
ベッドの上で事に及ぶという凄まじいビッチムーブを披露。
しかもそのベッドの下には知ってか知らずか
岩化した愛唱が潜んでいたというのだから
彼女を信じて秘密を打ち明けた愛唱にとっては
死体に鞭打つようなあまりにも非道過ぎる絵面です。
さらに愛唱の不幸はこれに留まらず、
いつのまにか家の権利書まで
パクっていた彼女は愛唱に無断で彼の家を売却して
その金は自分の懐にIN。
当然ながら彼女はその後二度と
愛唱の前に姿を現すことはありませんでした。
こうして彼女と持ち家を一挙に失った愛唱は
その後、ベッドの下での休眠中に家の取り壊しが始まり、
生き埋めになる寸前に同じ岩人間仲間の
八木山夜露によって救出されます。
しかしこの経験から極度の人間不信に陥った愛唱は
それからというもの病的な被害妄想と動悸に悩まされることとなり、
常に救心(薬)が手放せない状態になってしまったのでした。
作中では一貫して
敵側の存在として描かれる岩人間ですが、
この愛唱の過去話を始めて読んだ時には
あまりにも救いがなさすぎて、
思わず敵であることも忘れて同情してしまいましたね。
初期に示されたジョジョリオンの作品テーマに
「呪いを解く物語」というのがありましたが、
マイノリティとしての生きづらさという意味では
敵側の岩人間たちも、主人公の定助に見劣りしないくらい
重い「呪い」を背負って生きていたように思います。
さいごに
以上、ジョジョでもっとも可哀想なキャラ選手権でした。
こうしてシリーズを通して俯瞰してみると、
一つ気が付くことが、後期のシリーズになればなるほど
描かれる不幸の性質が段々と
現実的でリアルな方向に寄ってきているという点です。
これは作風の変化もあるかと思いますが、
7部の途中から掲載紙が青年誌に移行したことで
描くことのできる題材の幅が広がったことも大きかったのではないかと思います。
普通に考えて
DV夫とか女の子が好きな大統領夫人なんて
少年誌ではまず許可されないでしょうしね(笑)。
ジョジョは同一著者による、
同じタイトルを冠するストーリーもので
100巻以上継続している稀有なタイトルですが、
だからこそ、テーマや表現の変化など
時代による細かな変化に気づかされることが多くて、
そこにまた一つ特有の面白さがあるように思います。
それでは、またの機会に。