はじめに
私はもう3年ほどNetflixを継続して契約しているが
その中でも最近よく見ているのが
Netflixオリジナルのドキュメンタリー系作品(映画orドラマ)だ。
構成や演出の凝った作品が多く、
またドラマ作品と比べて基本的に1話完結なので
サクッと見られるしシリーズ系ドラマのように
途中でシーズンが打ち切られる悲しみに見舞われることもない。
また、同じ映像コンテンツでも
国内地上波放送などでは考えられないほど
過激な内容を取り扱った作品が多いのも魅力の一つだ。
本日はそんなドキュメンタリー系作品の中から
特に私が面白いと感じた5つのおすすめドキュメンタリー作品を
極力ネタバレなしでご紹介したい。
それでは行ってみよう。
猫いじめに断固NO!:虐待動画の犯人を追え
2010年ごろに実際に起きた
Youtubeへの子猫の虐待動画のアップロードをに端を発する
一連の事件とその犯人の正体を追う
ネット上の有志のグループの攻防を記録したドキュメンタリー作品。
しかし、この作品の凄まじさは
こんなあらすじなどでは10%も伝えきれないだろう。
作品の冒頭、実際に犯人がアップした動画の一部が流されると
その生々しい迫力に一気に呑み込まれ、その後は
動画にわずかに映り込んだ掃除機の機種や信号の型などから
犯人の正体へと迫っていく探偵たちの手腕、
そしてそんな彼らを嘲笑うかのように
挑発的な行動を繰り返す犯人の不気味さなど
衝撃的な展開が次々にやってくるので
次第に続きが気になって仕方なくなり
時間を忘れて3つのエピソード
3時間余りを一気に身終えてしまった。
また、この作品に関してもう一つ興味深かったのが
事件全体にネット社会ならではの世相が反映されていたことだ。
例えば犯人が最初に犯行動画をアップしたのはYoutubeだし、
その犯人を追うネット探偵たちが集ったのはFacebook上のグループだった。
ネット探偵たちの捜査の過程で
曖昧で不確かな証拠から無関係な人物を犯人と決めつけた挙句
ネットリンチのようなことが起きたり、
犯人が覆面アカウントでネット探偵たちのグループに潜り込んで
捜査状況を内部から探るという事態が発生したりもする。
世界中の誰もが繋がれるネットの便利さと危うさ、
その実例を見せつけられた心地だった。
そして、ここまでくると
誰もが気になるであろう犯人の正体だが
これもまた衝撃的だった。
ここでは詳しく言及しないが、
創作でもここまでぶっ飛んだ奴がいるのかというくらい
何もかもが理解不能の人物で、見ていて底知れない恐怖を感じた。
事実は小説よりも奇なりという言葉があるが、
この事件はまさにその象徴的な一例だったのではないかと思う。
総じてグロテスクな内容なので
決して万人におすすめはできないが
犯罪事例や人間心理に興味があるなら強く一見をお勧めする。
サイバー地獄 n番部屋 ネット犯罪を暴く
これもまた物凄い話だ。
2018年後半から2020年3月にかけて
韓国で発生した通称「n番部屋事件」の経緯をドキュメンタリー形式にしたものだが
まずこのn番部屋事件というのが只事ではない。
n番部屋事件とは簡潔にいえば
TelegramやDiscordなどのメッセンジャーアプリを利用した
デジタル性犯罪の1種なのだがその手口というのが実に巧妙。
最初はSNSにアップした「モデル募集」や
「オンラインデートのバイト募集」などの文言で女性を誘い、
それに引っかかった"ターゲット"に審査と称して性的な写真と身分証の写真を送らせる。
続いてターゲットのTwitterアカウントなどを見つけ出してコンタクトを取り、
「いうことを聞かなければ写真をばら撒く」と脅した上で
テレグラムというチャットツールをインストールさせ、
その中にある指定された部屋※の中で「指令」を実行させるのだ。
(※不特定多数が参加できるデジタル上のチャットルームのようなもの)
指令の内容は様々だが、
その目的は主として映像などの性的搾取物を制作することであり、
一度この部屋に入り込んでしまえば次々に脅しのネタが増え、
被害者は蟻地獄にハマった昆虫のように一層逃げ出すことが困難になってしまう。
こうした手口によって被害者を増やしたn番部屋には
有料にも関わらず最大で26万人以上の会員が登録し、
間接的にでも加害行為に加わっていたというのだから驚くほかない。
ちなみに知らない方も多いと思うのでテレグラムについて少し補足しておくと、
テレグラムというのはロシア製のクラウドベースのチャットツールであり、
「E2EE」(エンドツーエンド暗号化)機能や
送信メッセージの削除機能などによる高い匿名性や
特定の人物だけが参加できるチャットルームが作れることなのが特徴なのだが
それは証拠を残したくないデジタル犯罪者たちにとっても都合の良い者であり、
結果的に世界中で犯罪者御用達となっている曰く付きのアプリだ。
そしてn番部屋とは上述した犯罪システムの創始者である
「ガッガッ」なる人物がテレグラム上に建てた「1番部屋」から「8番部屋」の総称であり、
一連の犯罪行為は主にこれらの部屋を舞台として行われたのだった。
そして、「サイバー地獄 n番部屋 ネット犯罪を暴く」は
そんな悍ましいn番部屋事件の全容を追ったドキュメンタリーであり、
被害者が抜け出せなくなっていく過程から
最終的な犯人たちの逮捕に至るまでの一部始終が描かれている。
ドキュメンタリーとしてはアニメーションをうまく使った演出が秀逸で、
デジタル世界に潜む姿なき犯人たちを追い詰める様子がテンポ良く描かれる。
観ていて決して明るい気分になれる話ではないけれど、
日本ではあまり知られていない大規模サイバー犯罪の実態を知ることで
こう言ったタイプの犯罪に対する自衛の意識を高めることができると思う。
個人的にはネットに触れ始めた世代の子供を持つ
親世代にこそ観てもらいたい秀逸なドキュメンタリーだと思った。
アメリカンファクトリー
2020年の第92回 アカデミー賞で
長編ドキュメンタリー賞に輝いた映画作品。
現代のアメリカの自動車産業の実態に迫る内容で、
舞台は中国のガラス製造会社フーヤオ(fuyao)に買収された
オハイオ州のガラス製造工場。
経営層は中国人、現場の労働者はアメリカ人メインという
ある意味現代の国際状況を象徴する労働環境の中で起きる
互いの軋轢や歩み寄りなどの悲喜こもごもを描いた作品なのだが、
この映画のすごいところは何と言ってもその生々しさだ。
中国人側はアメリカ人労働者のことを
長時間労働を嫌い、文句ばかり言う怠惰な連中だと言って批判し、
一方アメリカ人たちはアメリカの会社で働いていた頃と比べた賃金の安さや
中国側の安全意識の低さに不満を漏らす。
一部のアメリカ人たちが過酷な労働環境を改善しようと
労働組合を結成しようとすると中国人側はこれに猛反発して
わざわざ「労働組合結成阻止のコンサルタント」を雇ったり
労働者側にスパイを潜り込ませて
組合結成派の人物を次々に解雇するなどの徹底的な組合潰しを行う。
この手のドキュメンタリーはしばしば
文化の違いを超えて人々が手を取り合って〜みたいな
綺麗事を描く方向に傾きがちだが、
このアメリカンファクトリーはそうではない。
あくまでも現実を冷徹に映し出し、
異文化交流という美辞麗句の裏に隠された現実のドロドロとした一幕を
「よく撮影の許可が出たな」と思わせるほどの徹底ぶりで映し出すのだ。
一方で中国人側もアメリカ人側も基本的には
工場が成功してほしいと願っていることは同じで
お互いにあれこれと歩み寄りの努力はするのだが
互いの文化的な溝は容易には乗り越えられないほどに深く、
時間が経つほどにそれは修復不可能なレベルにまで深刻化していく。
その過程をドキュメンタリーの形で見ることは
労働レベルでの異文化協力には
言葉が通じる通じないという以上の困難が伴うこと、
そしてこうした状況が近い将来
我々の住む日本にもやってこないとは言い切れない
という意味で非常に意義深いことだったように思う。
また、この作品でもう一つ秀逸…と言っていいのか、
すごく心に残ったのがラストの結末だ。
それについてはここではあえて触れないことにするが、
二つの異なる文化がぶつかり合いつつも
なんとか歩み寄ろうとした結果がああいうものであったことは
ある意味これからの時代を象徴するかのようで、
個人的にとても大きく心を揺さぶられた。
ちなみにこの映画、
オバマ元米国大統領とミシェル夫人の創設した
映像会社の初制作作品でもあるそうで、
観終えた後にそれを知ると妙に納得してしまった記憶がある。
FYRE 夢に終わった史上最高のパーティー
有名ミュージシャンやセレブが多数参加する
夢のカリビアンリゾート バハマでの超豪華音楽祭という触れ込みと
SNSによるステルスマーケティングまがいの宣伝で
4000人を超える参加者を集めるも、
いざ開催されると事前の宣伝とは天地の差の悲惨な実態が明らかとなり
最終的には1億ドルをこえる集団訴訟にまで発展した
"史上最悪の"音楽イベント、FYRE FESTIVALの一部始終を追ったドキュメンタリー映画。
この作品の第一の見どころは
傍目から見るとコントにしか見えない
FYRE FESTIVALのグダグダっぷりだ。
フェスの主催者であるビリー・マクファーランド(当時25歳)は
大学を中退し21歳で自身のクレジットカード会社を立ち上げた触れ込みの人物だが
大規模なイベント開催の経験はなく、フェスは開催が近づくにつれて
予算、スケジュール、設備や備品の手配、人員の確保など
ありとあらゆる面で問題が露呈し、
予定通りの開催は絶望的な状況となってしまう。
しかし運営側はそれにもかかわらず
当初の予定通りの開催を強行した結果、
島に到着した参加者たちを待ち受けていたものは
最大の売りだったはずの大物ミュージシャンたちは誰一人おらず、
寝所は直前の大雨のせいで水浸しになったテントとマットレス、
料理はヘナヘナのチーズが乗せられただけのパン2きれという
あまりにも悲惨な会場の実態だった…
この映画はそんな一部始終を
ドキュメンタリーとしてまとめたもので、
当時の参加者たちに取ってはたまったものではないだろうが
そのグダグダぶりがあまりにも極まりすぎているせいか逆に笑えてしまう。
また別の視点から見るとこの事件は
現代の若年層を中心に広がっているとされる
インターネットやSNS上で誰かと常に繋がっていないと
自分が流行から取り残されてしまうのではないかという不安を覚える心理、
通称FOMO(Fear Of Missing Out)の象徴的な一例であるともされている。
特別な体験をして、それを周囲に発信して羨ましがられたい、
自分が"イケてる人間"だと思われたいという欲望は
人間なら誰しも大なり小なり持っているもので、
このFYRE事件が単なる詐欺事件以上に私たちの関心を惹きつけるのは
これが誰もが持つ心の弱さ、言い換えれば人間心理の欠陥に
つけ込むことによって生じた悲劇だったからのではないかと私は思う。
ローマ帝国
暗殺されたローマ皇帝の人生をドラマ化した歴史ドキュメンタリーで
現在のところコモドゥス、カエサル、カリグラの三篇が公開されている。
演出や美術、演技など全体的にクオリティが高く、
歴史上の皇帝たちの生涯をまるで実際に現場で見ているような
臨場感が味わえるのが特徴だ。
特に皇帝やその周辺人物を演じる俳優の人選は見事で、
神経質そうなカリギュラや如何にも堅物っぽいマルクスアウレリウスなど
それぞれの人物のイメージにバッチリ当てはまる配役がなされている。
また、ドラマの合間合間には専門家による解説が挟まれており、
当時の時代背景や思想の知識を補足してくれる。
シリーズが3篇しかないのが唯一の欠点だが、
世界史、特にローマの歴史に興味がるなら見逃す手はないだろう。
ちなみにNetflixにはこのほかにも
など優れた歴史ドキュメンタリーが色々あるのが
歴史好きにとっては嬉しいところだ。
終わりに
Netflixはその知名度に反して
意外と日本では契約している人が多くないのではないかと思う。
周りに話を聞いても
Amazon primeは入っているがNetflixは見ていないという人が結構多い。
その理由はとして第一にAmazon primeが
お急ぎ便無料などのサービスの一環でなんとなく加入する人が多いことや
そもそもの月額料金の差が考えられるが、それ以外にも
Netflixのデザインやセレクションが
根本的に日本の視聴者向きではないことが大きく影響しているのではないかと思う。
もっとはっきり言えば、Netflixは全体的に残酷性や
ゴシップ性を売りにしたコンテンツがアマプラなどに比べて多いように思うのだ。
そこがグロテスクなコンテンツに耐性の低い日本の市場で
ウケづらい要因になっているのでないかと思う。
だが、逆に言えばはまる人はハマるコアなコンテンツもあるので、
普段Netflixを使っていない人でも
もし今回ご紹介した作品に引っかかるものがあれば
試しにNetflixを契約して見るのも悪くはないのではないかと思う。
…書いてて思ったがステマみたいだなこれ(笑)