馬に官位、恐怖政治、実妹と〇〇…。暗君カリギュラの愚かしくも哀しき一生

ドラマ「ローマ皇帝」より戴冠するカリギュラ教養

先日、何気なく再生した
Netflixの『ローマ帝国』という番組。

ローマ帝国 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
コモドゥス、ユリウス・カエサル、カリグラの3人による混乱と流血の統治時代を、ドキュメンタリーと歴史劇の手法を織り交ぜて、壮大なスケールで描く。

カリュギュラ、コモドゥス、カエサルという
暗殺された皇帝のみにスポットライトを当て、
彼らの人生を1話50分×4〜6話ほどの尺で
ドラマ化した作品だったのですが、
これが演技演出共に出色の出来栄えで
おもわず一気見するほどはまってしまいました。

中でも私の心に強く残ったのは
同名のバラエティ番組やカリュギュラ効果などの用語で
名前だけは聞いたことがあるという人も多そうな
第3代皇帝カリュギュラのエピソードです。

大帝国の財政を傾かせるほどの浪費癖
反逆罪の名のものとに人々を次々に処刑した恐怖政治、
3人の妹たちとの禁断の関係など
何かとダメな逸話が多いカリギュラですが
ドラマを通じてその生い立ちを知ると
彼を単なる暗君と切って捨てることは出来なくなってしまいました。

本日はそんな知れば知るほど味わい深い
カリギュラという人物の生涯について、
Netflixを契約していない人のために
その内容を手短にまとめてご紹介してみたいと思います。

(Netflix契約してるよ、という方はぜひドラマを見てみてください。めちゃ面白いので。)

また、記事中で歴史家によって説が分かれる箇所に触れる際は
なるべくその旨を明記しますが、
基本的にはドラマで採用されていたエピソードが
正史であったとする方向性のもとお話を進めていきます。

それではどうぞ。

父親が暗殺され、わずか7歳で家族がばらばらに

最初の皇帝アウグストゥスの即位から
39年が過ぎた紀元12年、カリギュラは当時のローマ皇帝
ティベリウスの甥でローマの軍人でもあったゲルマニクス
その妻の大アグリッピナの間に生まれた六人兄妹の
三男としてこの世に生を享けました。(上に兄が2人、下に妹が3人)

ユリウス=クラウディウス朝の家系図
wikipediaより引用

カリギュラの父ゲルマニクスは
人気、実力、家柄共に十分の気力に満ちた人物であり、
その子であるカリギュラにも
輝かしい未来が約束されていたはずでした。

しかし紀元19年、当時まだ7歳だったカリギュラの運命は
ある一つの悲劇によって大きく狂い始めることとなります。

一家の大黒柱であった父ゲルマニクスが
カリギュラも同行していた遠征先のシリアにおいて
34歳という若さで急死してしまったのです。

ゲルマニクスの死因については諸説あり、
今となってはそれを確かめるすべはありませんが、
一説には勢いのあるゲルマニクスが
自分の立場を脅かすことを恐れたティベリウスが
ひそかに命じて毒を盛らせたという噂もありました。

そして、6人の子供を抱えながら
夫を失うことになったカリギュラの母の大アグリッピナも
その説を支持した一人であり、夫の死後彼女は
夫がティベリウスに謀殺されたとする説を主張し始めます。

現皇帝が、保身のために人気のあるローマ軍人を暗殺した…
そんな不名誉なうわさが広まって困るのは
もちろん当のティベリウス本人であり、
彼は皇帝の権力を使って大アグリッピナと
カリギュラの兄たちを反逆罪で次々に逮捕することでその口を塞ごうとします。

そしてこの試みは成功し母のアグリッピナは国外追放され、
二人の兄の内一人は投獄、もう一人は処刑という
極めて厳しい判決を受けることとなってしまったのでした。

かくして年長者を根こそぎ失ったゲルマニクス家は完全に機能不全に陥り
わずか7歳のカリギュラは愛する家族を全て失った上で
自らも反逆者の子供という扱いになるという
過酷な運命に身を投げ出されることとなったのです。

家族の仇のもとで軟禁され、感情を押し殺して生き抜いた青年時代

母たちの逮捕後、妹たちとも離ればなれになり
一人祖母の家に引き取られていたカリギュラでしたが
そこでも家の外にはいつもティベリウスの見張りが付き、
いつ殺されてもおかしくない捕虜同然の少年時代を過ごします。

そんな生活が12年続いたある日、
すでに19歳の青年になっていたカリギュラは
当時カプリ島の邸宅で暮らしていた
あのティベリウスからの突然の呼び出しを受けます。

ここでカリギュラの生涯を語るうえで
避けては通れないティベリウスという人物について補足しておくと、
彼はれっきとした第2代のローマ皇帝ではあったのですが、
生来の無愛想な性格のせいで市民からも元老院からもとにかく人気が無く、
ローマを離れてカプリ島で暮らしていたのも
ローマでの元老院との確執に耐えかねてのことでした。

またカプリ島への移住には後継となる予定だった
ティベリウスの息子のドルススも同行していたのですが、
実はこのドルススがカリギュラの呼び出しの少し前に急死しており
このタイミングでカリギュラが呼び出されたのには
そのドルススの代役となる資格のある、
皇帝(カエサル)の血を引く人間を手元に置いておきたかったという事情があったのです。

そのようなわけで反逆者の子供から一躍時期皇帝候補という
シンデレラボーイ的転身
を果たしたカリギュラでしたが
しかし先述した様にティベリウスはカリギュラにとって
自分の家族を崩壊させ運命を狂わせた張本人であり、
その申し出に対しては喜びよりもむしろ
何をされるかわからないという恐怖の方が優っていたのではないかと思います。

加えて当時のティベリウスには
カプリの塔の邸宅であらゆる不道徳な行為に耽ったり
政敵を崖から突き落として暗殺していたという噂があり
人格的にも信用ならない人物でした。

しかし当時のカリギュラに
皇帝の命令を拒否する選択肢などあるはずもなく
言われるがままにカプリ島を渡ったカリギュラは
そこで6年に及ぶ軟禁生活を開始します。

ところでこの時期のカリギュラについて、
歴史家のスエトニウスらは
そこで彼が自分の感情を押し殺し
外部には決して悟らせないという
「天性の名俳優」ぶりを発揮したことを記しています。

これはひとえに万が一にも
ティベリウスに対する敵意を悟られたならば
即座に命取りになることがわかっていたゆえの反応だと思われますが
その徹底ぶりは相当なもので、島内での生活中に
かつて生き別れた母の死の報せを受け取った時ですら
一切の動揺を見せなかったほどだったとされています。

そしてこの島での生活でもう一つ重要な要素が
同じくティベリウスの邸宅で生活していた
ティベリウスの孫のゲメッルスの存在です。

ゲメッルスはティベリウスの直系であり
本来ならばカリギュラよりも
後継者としての優先度は高かったはずですが、
しかしカリギュラが島に来た当時のゲメッルスは
わずか12歳の少年であり、
大帝国を背負って立つことは不可能でした。

とはいえゲメッルスにも全く可能性がなかったわけではないようで、
ティベリウスはことあるごとに
政治や軍事上の問題をカリギュラとゲメッルスに投げかけて
その回答を比べることで後継者としての適正を
オーディションするようなこともしていたようです。

2人のローマ皇帝!?

カリギュラが島での生活を開始してから4年後の35年、
当時75歳になり自身の死期を悟っていたティベリウスは
ついにカリギュラを正式に帝位後継者に指名します。

ただし、ティベリウスの孫のゲメッルスとの
共同統治という条件付きで。

本来ならば年齢的にも資質的にも
カリギュラの方が皇帝にふさわしかったようですが、
自分の孫を皇帝にしたいという未練があったのか、
あるいはカリギュラだけを皇帝にすれば
残されたゲメッルスが殺されてしまうかもしれないと危惧したのか
ともかく当時のティベリウスはこのような異例ともいえる決断をくだしたのです。

そしてそのさらに2年後の37年、
ついにティベリウスが死去。

ティベリウスの死因については
年齢的にも病死とする説が有力ですが、
古代の歴史家の中にはカリギュラが
寝ているティベリウスの顔に枕を押し付けて暗殺し、
家族の敵を討ったのだとするドラマチックな説を唱えた者もいたそうです。

ともあれティベリウスの死に伴って
新たな皇帝が即位することとなったのですが、
実はこの際にカリギュラは元老院に働きかけて
先のティベリウスの遺言を無効にし、
単独で正式なローマ皇帝「プリンケプス」となっています。

しかしこうなると気になるのが
皇帝の座から放り出された当時18歳のゲメッルスの立場ですが、
権力争いに負けたものを待つ一般的な運命の例に反して
カリギュラは彼に危害を加えるようなことはせず、
それどころか自分の養子に迎えるという措置を取っています。

皇帝の養子になるということは
それはすなわち皇帝の後を継ぐチャンスを与えられたということであり、
これは、同じく皇帝の血が流れるもの同士として
自分の立場を脅かしかねない相手に対する処遇としては
極めて寛大と言って良いものでした。

またカリギュラは皇帝の地位を継いだことで
ティベリウスの遺した元老院議員たちの記録をも受け継いでおり、
それを利用すればかつて自分の母の追放に賛成した議員に
復讐することもできたのですが、彼はあえてそうせず
議員たちの前で書類を廃棄して
過去の遺恨を水に流すことを宣言してみせてもいます。

その他にも政策的な事で言うと
道路の整備や新しい水路の建設を押し進め
ローマの住環境を改善したことも功績の一つですし、
ティベリウスが禁止して久しかった闘技場を復活させ
市民からの人気を獲得することにも成功しています。

あれあれ、なんだか「暗君」「暴君」という
一般的なカリギュラのイメージとは合致しない行動ばかりですね。

もしかして私たちが知るカリギュラのイメージは
現実とはかけ離れた嘘八百だったのでしょうか…?

ドラマではこうしたカリギュラの行動を
不人気で不寛容だった先代ティベリウスとの
違いをアピールするための戦略だったと説明づけていましたが
理由はともかく当時のカリギュラが即位後しばらくの間
市民からの高い評価を受けていたことは事実であり、
また豪華なパーティーを開いて広く人々を招くことや
市民の前に皇帝自ら顔を出すことを好む社交的な性格も相まって
即位直後のカリギュラは「人民の皇帝」とあだ名されるほどの人気者となっていたのです。

そしてこの時期はカリギュラにとって
今まで希薄だった家族とのつながり
再び取り戻した時期でもありました。

まず皇帝となった自分を頼ってきた
叔父のクラウディウス(当時45歳)を執政官に任命。

さらにクラウディウスに命じて捜索させ、
長らく離れ離れになっていた3人の妹たちを
宮廷に呼び寄せることにも成功しています。

かくして元老院との確執を解消し、
市民からは愛され、家族との再会も果たし
全ては順風満帆に見えた新皇帝カリギュラの船出でしたが
実はこの頃から後の悪政につながる
暗雲の兆候のようなものも見え始めたりしています。

それは、彼の常人離れした性欲の強さであり、
カリギュラは皇帝になってから間も無く
宮殿を売春宿のような様相に変貌させ、
他人の妻とも平気で寝ていたそうです。
(もっとも、20台前半という年齢と皇帝の権力を考えるとそれも無理からぬことなのかもしれないですが)

突然の病、そして人格の豹変

若年皇帝としていくらかの奔放さはあったもの
皇帝になって最初の7ヶ月間、
カリギュラにミスらしいミスはありませんでした。

しかし、運命は再び彼にその非常な牙を剥きます。

皇帝就任から7か月目のある日、
カリギュラは突如脳炎とみられる病を発症し
昏睡状態に陥ってしまったのです。

幸い発症から3ヶ月目には意識を取り戻し
やがて回復していったのですが、
しかしこの体験は彼の後の人生に昏い影を落とし続けることとなります。

病から回復したカリギュラがまず行なったことは
自分で養子にしたはずのゲメッルスを地下牢に監禁したうえで自害を強要することでした。

実はカリギュラが病気で昏睡している間に
近衛隊長のマクロがこのままカリギュラが
意識を取り戻さなかった場合に備えて
ゲメッルスを次の皇帝にする準備を密かに進めていたのですが
予想に反してカリギュラが回復したことで
裏切りの嫌疑を掛けられることを恐れたマクロが
今度はゲメッルスを裏切り、先手を打ってカリギュラに
ゲメッルスが毒を盛ったとする嘘の情報を吹き込んでいたのでした。

こうして長年一緒に暮らしてきた
弟の様な関係だったゲメッルスを殺害したカリギュラですが
この時すでに彼は異常ともいえる
極度の被害妄想に憑りつかれていたものと見られています。

周りの人間はどいつもこいつも
皇帝の座を狙う簒奪者であり、
誰一人信じることなどできない…

いくら皇帝として絶大な権力を握ったとしても
こんな思いの中で生きていかなければならないとしたら
果たしてそれが本当に幸福な事だったのか
分からなくなってしまいそうですね。

ちなみにゲメッルスの件ではうまく切り抜けたマクロでしたが、
その1年後の38年には結局カリギュラの命令で処刑されるという末路を辿っています。

この処刑を含め当時カリギュラが行った処刑の多くは
正式な裁判手続きを踏まずに行われたものであり、
このことは病気以前は高かったカリギュラの人気を
大きく落とす要因ともなりました。

後継者の確保を急ぐあまり、実の妹と…

カリギュラが病に倒れたことでカリギュラと同じかそれ以上に
自分たちの立場の危うさ自覚していたのが宮廷で暮らしていた3人の妹たちです。

彼女たちは皇帝の親族だからこそ宮廷に住んでいられたのであり、
もし後ろ盾のカリギュラが死んでしまえば
明日の命の保証すらない身だったのです。

そんな危うい状況の中、最初に行動を起こしたのは
3人の妹の中でも長女に当たる小アグリッピナでした。

姉妹の中でも特に野心に溢れた性格の持ち主であり、
皇帝の母となることを強く望んでいた※彼女は
兄であるカリギュラに接近し、あるとんでもない提案をします。
(※この野望は後に5代皇帝のネロの母となったことで実現されます)

それは、カリギュラと自分の間に
次代の皇帝となる子供を作ること。

そう、まさかの近親相姦の提案です。

当時のローマを含め、ほとんどの人間社会において近親相姦は絶対的なタブー。
本来ならば決して許されることではなかったはずなのですが
しかし病を機に後継者作りを焦る様になっていたカリギュラはこの提案を承諾。
実の妹である小アグリッピナと複数回にわたり性的な関係を持つこととなります。

しかも、小アグリッピナとの間に
なかなか子供ができないことがわかると
あろうことか今度は下の二人の妹たちにまで次々に手を出し始める始末。

そうこうしているうちに
やがて真ん中の妹のドルシッラが懐妊することとなります。

このドルシッラ、姉妹の中でもとりわけ美人で
カリギュラの一番のお気に入りだったらしく
妊娠がわかった際には彼女に
国務長官の役職まで与える喜び様だったと伝えられています。

もっともカリギュラにとっては僥倖だったこの報せも
宮廷の外の市民たちにとっては
身の毛もよだつ色情狂の蛮行の結果にしか映らず、
ただでさえ低下気味だったカリギュラの人気を
さらに押し下げる決定的要因となってしまいます。

最愛の妹の死で悲しみの底に沈んだカリギュラ。

タブーを冒してまで世継ぎをこさえたカリギュラでしたが
それから間もない38年6月、彼のその後の一生に
大きな爪痕を残す悲劇が起こります。

なんと、カリギュラの子を宿していた最愛のドルシッラが
流行病でお腹の子供ごとこの世を去ってしまったのです。

これに完全に打ちのめされたカリギュラは、
その後大金を投じて大々的な葬儀を開き、
ローマの各地にドルシッラを模した女神の像を建てさせたばかりか、
実際に彼女を女神だと宣言して
彼女を女神だと認めさせる議案を通そうとまでしたそうです。

愛する対象を失って精神的にもますます荒廃し、
その影響かこの時期のカリギュラは
市民の行動を制限する法律を次々に公布。

その厳しさは常軌を逸しており
時には街中でお湯を売っていただけの市民が
処刑されたこともあったとされています。

そのようなわけで当然ながら元老院との関係も悪化。
度々衝突を繰り返す様になります。

しかしそれでも後継者作りは諦めていなかった様で
翌年の39年にはすでにお腹に子を宿していた
妊婦のカエソニアと結婚しています。

"妊婦の"カエソニアと結婚しています。
(大事なことなのでry)

えーつまりどういうことかと言いますと
結婚した時点で既にお腹に子供がいるので
子作りの必要がない代わりに
自分とは血がつながっていない子供であるという、
「お前本当にそれでいいのか?」
と思わず突っ込みたくなる様な実に奇妙な結婚だったのです。

そのうえ、そこまでして生まれてきたのは
そのままでは後継者になれない娘だったというオチつき。

どこまも運のないカリギュラですが
しかし今後カエソニアとの間に
新たに男児が生まれてこないとは限りません。

そしてもしそうなると困るのが
よそ者に皇帝の母の座を奪われることになる
小アグリッピナと末の妹のリウィッラです。

このことに加え、
病気後のカリギュラの異常さに対する危惧もあったのか
彼女たちはドルシッラの元夫だった
レピドゥスも加えてカリギュラの暗殺を計画しますが
しかしこれは未然に防がれ※その後レピドゥスは処刑、
妹たちは二人ともポンティアエ諸島に流刑という憂き目にあうこととなりました。

ドラマでは小アグリッピナが直前で計画を密告したという描かれ方がなされていました

加速する狂気。恐怖による支配

最後の砦だった家族にまで裏切られたことで
カリギュラの人間不信はいよいよ修復不可能なものとなり、
自分しか信じられなくなった彼は
自らを神に見立てた像や建物や記念碑を
大金を投じて次々にローマ各地に建造させるようになります。

その浪費ぶりは国の財政をも傾かせるほどのものだったようで、
ある1年にはカリギュラは30億セステルス※もの金額を浪費していたそうです。
(※wikipediaによると紀元1世紀初め頃の軍団兵の年俸がだいたい1000セルティウスだったというから、ざっくり計算すると30億セステルスは現在の日本円で約9兆円くらいでしょうか)

もっとも皇帝にこんな好き勝手をされては
たまったものではないというのが
国のかじ取りを任されている元老院議員たち。

彼らはこの頃カリギュラに発言できる
数少ない人物である叔父のクラウディウスを通じて
一刻も早く国の財政を建て直す様忠告をしています。

しかしこの忠告を受けたカリギュラが出した答えは
自分の行動を改めることではなく、
反逆罪によって金持ちを片っ端から捕まえて
その財産を没収することで国の予算に充てるべし
という
その後のさらなる恐怖支配を決定づけるものでした

トーガの着方が間違っているだとか
神殿の修理費を出し渋ったなどの
些細な理由で市民に難癖をつけ、
時には金銭の没収のみならず粛正まで頻繁に行われるようになり、
この時期に反逆罪で殺された市民の数は1万人にも及んだとされています。

愛馬インキタトゥスの逸話

インキタトゥスを晩餐に参加させるカリギュラの絵

正式に女神だと認めさせようとしたほど
ドルシッラに愛情を注いでいたカリギュラですが、
そのドルシッラと並んで深い愛情を注いだとされるのが愛馬インキタトゥスです。

大の馬好きだったというカリギュラの
一番のお気に入りだったのがこのインキタトゥスで、
カリギュラは宝石をちりばめた馬具や
金箔を混ぜたエン麦の飼い葉、
さらには大理石の大邸宅や18人の召使をインキタトゥスに与え、
極め付きには執政官や聖職者の職まで与えようとしたとする逸話が
主にスエトニウスのローマ皇帝伝に記されています。

しかし、現在はこれらの逸話の多くは
カリギュラの狂気を伝えるための誇張だったとされており、
その真偽には聊か疑わしいところもあるようです。

世紀の茶番に終わったブリンタニア大遠征

カエソニアとの結婚の翌年の40年、
カリギュラはブリタニア(現在のイギリス)の征服事業に乗り出します。

あのカエサルですら成し遂げられなかった偉業を成し遂げることで
地の底に堕ちていた皇帝としての名声を取り戻そうと目論んだわけですが、
しかしそれはあまりにも無謀すぎる賭けでした。

なぜならローマからブリタニアへたどり着くには
何千キロもの大陸を横断せねばならず、
それを越えても今度は75キロの海峡と
島を囲む切り立った崖が
天然の要害となってローマ軍の進軍を阻んだからです。

それにもかかわらずカリギュラが立案した遠征計画は杜撰なもので、
将軍も兵士も心の中では彼の判断を一切信用していませんでした。

そして最終的には海峡を渡る直前で
本来海を渡ることを想定していないローマの船で
海峡を渡ることを恐れた兵士からの不満が頂点に達し、
さしものカリギュラも計画を断念せざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。

こうしてカリギュラの壮大な遠征計画は
敵と刃を交える機会すらなく終わりを迎えたわけですが、
しかし多くの予算と人員を費やしておきながら
このまま「何の成果も得られませんでした」と
おめおめローマに帰ることなど出来るはずもありません。

そこでカリギュラが考え出した苦肉の策が、
部隊の中からブリタニア人っぽく見える数人を選び出し、
捕虜のまねごとをさせることで市民に対して
まるで遠征が成功したかのように見せかける
という
あまりにも苦しすぎて参加させられる兵士が
可哀想に思えるほどのお粗末な茶番劇でした。

しかしこんな茶番で全ての市民を騙しきれるわけもなく
特に元老院の間ではこの頃から強硬手段を取ってでも
カリギュラを皇帝の座から引きずり下ろすべきだ
という意見が支配的となっていきます。

恐怖に塗りこめられた人生の終わり

ブリタニア遠征失敗の翌年の41年、
独裁者として暴虐の限りを尽くしていたカリギュラは
闘技場観戦のため地下通路を移動していたところを
近衛隊長のカシウスとその一団に襲われ
全身を30か所以上刺されたのちに絶命します。

この暗殺計画については不明な点が多く、
その背景ははっきりとしていませんが
ドラマでは元老院から話を持ち掛けれられたクラウディウスが
裏から根回しをしたという筋書きが採用されていました。

ともあれこうして暴君として
帝国を振り回し私物化続けてきたカリギュラは
29歳でその血塗られた生涯の幕を閉じ、
その後は叔父のクラウディウスが引き継ぐこととなったのでした。

ちなみにカリギュラ亡きあと
50を超える高齢で皇帝となったクラウディウスは
しかしカリギュラが崩壊させたローマの財政を速やかに立て直し、
他にも国家反逆罪法の廃止やブリンタニア南部の征服成功などの功績を挙げ、
結果的に13年という歴代でも最長の在位期間を守り通したことで
今ではカリギュラとは正反対に歴代でも特に有能なローマ皇帝の一人としてその名を記憶されています。

まとめ

一般的に暗君としてイメージされるカリギュラですが、
ドラマで描かれたティベリウスとの生活や
即位直後の善政の描写からはむしろ頭が良く、
目的のために自分を律することが出来る
優秀な人物像が浮かび上がってきます。

彼にとって不幸だったのは
その生い立ちのために早い段階で他者に対する
根深い不信感と被害妄想が植え付けられたこと、
手本となる相手がいない中
あまりにも若い年齢で大きすぎる権力を得てしまったこと、
そして即位から間もなく脳炎で倒れ権力を失いかけたことで
その傾向に更なる拍車がかかってしまったことでしょう。

このうちいずれかの条件が異なっていたら
「人民の皇帝」と呼ばれていたころの
名君としての評価を不動のものとすることだって
出来ていたかもしれません。

歴史にifはありませんが、
自力ではどうすることもできない不幸が
あまりに多すぎたカリギュラの一生を思うと
そこに一種の同情心の様なものが沸き起こってしまうのでした。

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