【SCP考察】SCP-5000『どうして?』で起きた全てを分かりやすく解説する。

SCP

SCP-6000の日本語訳すら投下済みの状況で
聊かタイムリー感には欠けるのですが
SCP財団ならではの謎解きの醍醐味が味わえる
SCP-5000「どうして?」の考察と解説をお送りします。

SCP-5000 - SCP財団

SCP-5000のストーリー

SCP-5000のストーリーラインは
時系列順にまとめると次のようなものでした。

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  1. ある日、破損したパワードスーツ(SCP-5000)
    SCP-579の収用チャンバーに閃光を伴って突如出現。
    中には財団職員のピエトロ・ウィルソンのものと思われる死体が入っていたが、
    その後の調査で当のウィルソン本人が除外サイトで普通に生きて勤務していることが発覚。
    つまり、同一人物が片方は生きて、片方は死体で同時に存在しているという状況が発生する。

    この奇妙な現象の謎を解明するために
    財団はSCP-5000の中に残されていた記録データ(アーカイブ5000-1)を再生する。

  2. 【※以下アーカイブ5000-1の記録内容】
    アーカイブ5000-1に記録されていたのは
    SCP-5000に入っていた方のウィルソンが
    生前に暮らしていた別次元の宇宙における地球の様子だった。

    この世界ではどういう理由か
    SCP財団がO5評議会の総意のもと人類に牙をむき、
    あらゆる手段を用いて人類のせん滅作戦を展開している。

  3. 全ての職員は上記の作戦に参加しており、
    参加を拒んだものは終了処分の対象となったが
    除外サイト-06で働いていたウィルソンは間一髪で脱出に成功した。

  4. 財団から逃れたウィルソンはその後
    装着者を保護するパワードスーツ的な装備である
    除外ハーネス(これがSCP-5000)にたどり着きこれを装着、サバイバルを開始する。

  5. 財団が複数のアノマリーを解き放って
    人類をせん滅する地獄のような光景を潜り抜ける中、
    ウィルソンは道中で発見した壊れたラジオから
    意味不明な放送が流れてくるのを聴き、
    その直後から脳裏にSCP-055をSCP-579まで運ばなければならないという考えが浮かぶようになる。

  6. 財団施設からSCP-055の入ったブリーフケースを盗み出したウィルソンは
    道中で少女の肉体に入ったブライト博士に遭遇したり
    財団が正体不明の実体と戦闘したりしているのを目撃したりしつつ
    SCP-579が保管されている財団施設にたどり着く。

  7. SCP-579の収用室の真上にたどり着いたウィルソンは
    しかし自分の使命を果たすにはまず死を免れられない高さから
    ダイブしなければならない事実に気づく。

  8. しかしそれでも
    他に道が無いことを悟っていたウィルソンは
    死を覚悟してダイブを敢行。

    最後には一枚の真っ黒な画像と
    何かを悟ったようなウィルソンの言葉、
    そして「生命反応が消失しました。」という
    SCP-5000の記録だけが表示され報告書の内容が終了する。

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このように話の筋自体は割とシンプルなのですが、
要所要所に意味深なワードや展開が散りばめられており、
一度読んだだけでは大抵の人は内容が理解できない構造になっています。

かくいう私もそんな「初見では理解不能」な一人だったのですが
読後に考察を探し求める中でこちらのあまりにも素晴らしすぎる解説と出会い、
自分が抱いていた疑問に対するすべての回答が得られたことで
改めてこれが実によく練りこまれた
驚くべき完成度の報告書だと気づかされることになりました。

そのようなわけで、私としては他の方にも
上記の解説を読むことをお勧めしたいのですが
いかんせん英語の文章ということもあり
読むのが辛いという方もおられると思いますので、
本日はそんな方向けに私が上記の考察を元にした
考察および解説を日本語のQ &Aの形式でお送りします。

SCP-5000の疑問点と回答

そもそもなんで財団はいきなり人類を滅ぼし始めたの?

報告書を読み終えた多くの方が
気になっているであろうこちらの疑問に対して
本記事では最初に答えを出しておきます。

本来これについて説明するには
多くのステップを踏む必要があるのですが
ひとまず先に結論だけ述べてしまうと
財団が人類を滅ぼし始めた理由は
全ての人類の脳内に潜むあるアノマリー(以下「それ」)を
その宿主である人類ごとせん滅することでした。

「それ」は数万年以上も昔に
人間の集合的無意識※の中に寄生し、
それ以来人間の精神に強い影響を及ぼしてきたのですが、
実体をもたず長い間隠れ潜み続けてきたものを
財団がある計画の過程でセレンディピティ的に発見し、
その実態を調べる中で、これは絶対に根絶しなければならない存在であり、
そのためには人類をせん滅することが最も合理的である(=それしかない)と判断するに至ったのです。

(※集合的無意識とは心理学者C.G.ユングが提唱した概念で、人間が生まれる前から備わっている心の底の無意識を指します)

もっともいきなりこんな説明をしても
すぐに納得できるはずもないかと思いますので、
ここからは上記の説の根拠を一つずつ
疑問に答える形で示していきます。

ウィルソンのいた除外サイト-06って何?

報告書冒頭の説明セクションには
主人公のウィルソンが財団の除外サイト-06という場所に
勤務する(していた)人物であったことが記されています。

既に読まれた方は気づいたかもしれませんが
この除外サイト、全く同じ名称の施設がSCP-3936に登場しており
同報告書にはその具体的な詳細が書かれています。

説明: SCP-3936はスクラントン・ボックスに利用される技術を応用して構築された財団施設 除外サイト-01であり、主に機密文書を保管し、異常による遡及改変から保護するために使用されます。この技術の応用により、SCP-3936は潜在的CK-クラス:世界再構築シナリオの影響から効果的に免れることのできる財団サイトとなります。

要するに、除外サイトとは中にいる限りは
あらゆる現実改変の効果を受けない
安全地帯のようなものである

捉えていただければおおむね間違い無いかと思います。

そして除外サイトのこの性質は後に
同サイトに勤務していた職員が問答無用で殺害されたことや
また運良く脱出に成功したウィルソンが
他の財団職員のように殺戮に参加しなかったことの理由にも関わってきます。

PNEUMAプロジェクトって何だったの?

編纂ファイル 0001-2で
サイト-19に到着したウィルソンは
そこで財団データベースにアクセスし、
今回の殺戮に前もって行われた
PNEUMAプロジェクトなる計画の存在を知ります。

O5が“PNEUMA”というプロジェクトを上級スタッフの特殊機密に指定する。どうやら、これはKALEIDOSCOPEと同じような大規模記憶処理プロジェクトで、専ら人間の集合的無意識、心理空間、何と呼ぼうと勝手だがそういう方面を重視していたようだ。その心理空間をマッピングするにあたり、何らかの重大な発見があったらしい - 編集済にされているせいで、それが何なのかは分からない。典型的だ。

ここで「同じような」と引き合いに出されている
KALEIDOSCOPEですが、これはSCP-4156に出てきた
同名の大量記憶処理計画のことであり、
財団はこれによって6000人を超える
SCP-4156の住民の記憶導入・改変を実行していました。

つまりPNEUMAもこれと同じように
「大量の人間を」「一度に」「記憶改変する」
為のプロジェクトだったわけですね。

ただしこちらの方は集合的無意識、心理空間の方面を
より重視しているという違いがあり、
そのことが財団が集合的無意識に潜む
「それ」を発見することに繋がったという事情がありました。

編纂ファイル 0001-2の2019/12/22の時点で一斉に職員の自殺と辞職が止んだ理由は?

同じく編纂ファイル 0001-2より、
財団から人類の殺戮に関係する指示が与えられた後に
上級スタッフや管理官の間で発生した辞職と自殺の波が
「心を固めよ」というメッセージが配布された直後に
ピタリと止んだ理由についてですが、
これはおそらくこの資料に仕込まれていた反ミームエージェントが
職員の動揺を抑える働きをしたのだと思われます。

またこの直後からそれまであれほど混乱していた職員が
不気味なほど従順に人類の殺戮に従うようになったことから
この反ミームエージェントの性質は対象の精神から
例えば良心の呵責や他者への共感といった感覚を
奪い去ってしまう類のものだったのと推測することも出来ます。

そして、これは何気に非常にポイントなのですが
後のサミュエル・ロスの発言内容などを総合すると
この処置には対象者を「それ」の影響下から
開放する効果もあったのではないかと考えることが出来ます。
(というか、むしろそっちがメイン)

もっともその場合、そんな方法があるならなぜ
その反ミームエージェントを人類に広めることをせず
殺戮する道を選んだんだよ
というツッコミが出そうですが、
それについては後述の機動部隊の描写から
この処置の効き目に個人差があることが分かる(=確実性が無い)ことや、
人類全体に適用するにはあまりにも時間がかかりすぎ、その間に
「それ」の妨害を受ける可能性があった等の理由を挙げることができます。

ちなみにウィルソンが他の職員のように
殺戮に参加することがなかった理由は、
除外サイトの中で働いていたために
この反ミームエージェントが効果を発揮しなかったものと思われます。

そしてそのことは当然ながら財団も織り込み済みで、
だからこそ除外サイトで働いていた職員については
最初から問答無用で終了しようとしていたのであり、
その中からウィルソンが逃げ延びてしまったことは
財団にとっては大きな誤算だったのでしょう。

機動部隊の指揮官が兵士の肩をナイフで刺していたのはなぜ?

報告書を少し遡って、
記録ファイル 0001-1には財団の機動部隊の隊長が
隊員を一列に並ばせて一人ずつナイフで肩を刺し、
ほとんどの隊員が顔色一つ変えずにいた中で
一人だけ痛みの反応を見せた隊員を
即刻処刑するというまるで中世の魔女狩りのような描写がありました。

これは先述した「治療法」の有効性が100%ではないことと、
「それ」の支配下から解放された人間は「痛み」を感じなくなる
(=「それ」の存在が痛みと密接な関係にある)
ことを
分かりやすく読者に示すためのものであったと思われます。

なんで倫理委員会は人類皆殺しの作戦に同意したの?

編纂ファイル 0001-2の2019/12/17の出来事欄には
倫理委員会がなんらかの投票内容に同意していることが記録されていますが、
これは流れからして例の人類皆殺し計画への同意だったと思われます。

本来なら財団の行動が倫理から大きく外れたときに
それを監督する役割を受け持っているはずの倫理委員会が
なぜこのような非人道極まる計画に賛同したのでしょうか?

ひとつにはO5がなんらかの方法で
倫理委員会を洗脳した可能性が考えられますが、
しかしO5とも渡り合える武力(機動部隊オメガ‐1)を持っている倫理委員会が
あれほどの短期間で完全に屈服させられるというのは少々考え辛いことです。

となればあと残されているのは
倫理員会が冷静な理性の元でこの人類皆殺し計画を
十分に倫理的な計画であると判断した可能性しかありません。

しかしその根拠については
まだ必要な情報が欠けていますのでここでは一旦保留とし、
後述する「それ」の正体の考察でより詳しく述べたいと思います。

サミュエル・ロスの発言の意味は?

『ダウンロードされたファイル 0001-3』にて
ガンジルというGOCの施設に囚われていた
財団職員のサミュエル・ロスが
何らかのアノマリーの力でガンジルを壊滅させた後、
次の意味深なセリフをつぶやいていました。

サミュエル・ロス: 君たちが自分自身に何をしたか見てみろ。聞きたくないだろうと言ったよな? だから忠告を聞くべきだと言うんだ。なのに君たちは酷く知りたがった。俺は君たちをとても気に入っていたから親切であろうとした。俺たちは君たちにとても親切なんだ。俺たちが光の中で戦うことによって、君たちは暗闇で死ぬことができる。
(沈黙。)

サミュエル・ロス: …忌まわしい。

最初の発言はともかく、
最後の発言については
聞き覚えのある方も多いかと思います。

そう、SCP-682「不死身の爬虫類」
実験ログ中で呟いていたのと一字一句同じセリフなんですね。

そしてこれは当然ながら偶然の一致などではなく
SCP-682も人類の脳内に潜む「それ」の存在を知っていて、
だからこそ(そんなものに取りつかれている)人間のことを
「忌まわしい」と形容していたのだと思われます。

思えばSCP-682はクロステストの記録などでも度々
他のアノマリーの性質を事前に熟知している描写があったので、
「それ」の存在に気づいていたとしても何ら不思議なことではありません。

ブライト博士の目的は?

記録ファイル 0001-3で
ウィルソンはルビーの首飾りをした少女と出会います。

日頃SCP財団に親しんでいる
多くの方にとっては説明不要のことかと思いますが
念の為補足しておくと、この首飾りは
『SCP-963 - 不死の首飾り』であり、
これを首にかけた人物の精神が
財団のジャック・ブライト博士の精神によって
上書きされるという異常性を有している代物です。

つまり少女の中身はブライト博士の精神であり、
その事を知っていたウィルソンはブライトin少女と
久々に人間的な交流を持つことができたのですが、
この場面に関しても読み終えた後に次の2つの疑問が浮かんできます。

まずは除外サイトに勤務していたわけでもないブライト博士が
なぜ反ミームエージェントの影響を受けなかったのか
という点ですが、
これはSCP-963が死亡時のブライト博士の人格を記憶し続ける性質があり、
そのため外部からの精神改変に一種の耐性があったからであると考えられます。

次になぜブライト博士は
SCP-1437を目指していたのか
という点についてですが、
これはSCP-1437の性質を踏まえれば比較的容易に推測することが可能です。

SCP-1437は簡潔に述べると
別次元の宇宙につながる縦穴のアノマリーであり、
ブライト博士はこの穴に首飾りを放り込み、
それを拾った別宇宙の誰かの肉体を"ジャック"することで
財団がとち狂った(ように見える)今の宇宙から
別次元の宇宙への脱出を目論んでいたのだと思います。

日誌エントリ 0001-11に出てきた引き伸ばされた人間の正体は?

日誌エントリ 0001-11には
地平線のかなたに伸びた不可思議な人型実体と財団が
戦闘を繰り広げていた光景をウィルソンが目撃したことが記されています。

財団がアノマリーと戦うのは当たり前のことですが、
この狂った世界においては逆に異常なことです。

この状況でなお財団が戦わねばらならないアノマリーとなると
それはもう例の「それ」を差し置いてほかにはありえないでしょう。

恐らく普段は人間の集合的無意識の中に
隠れていた「それ」が財団の作戦で人間の総数が減ったことで追い詰められ、
やむなく実体化して財団との直接戦闘を試みたものと思われます。

記録ファイル 0001-2のラジオ放送の意味は?

ここで一度報告書を大きく遡り、
ウィルソンが古いラジオから流れてきた
奇妙な放送を聞いた描写に注目してみたいと思います。

<記録開始>
(音声のみ、声は男性で、私と同じくらいの年齢だと思う。)
声: 七。五。私の声が聞こえるか? 君の瞼の間の穴の中に光り輝く穴がある。私は今までヴェルサイユに行ったことが無い。私は愛されたい。九。私は今君の後ろに立っている。五。私は私たち二人で、今君の後ろに立っている。女神が海中の都を食べる。九。床に穴があってその中で答えが待っている。七。見よ、君は孵化している。君は孵化している!
(メッセージがループする。)
<記録終了>

初見では何度読み返しても
まるで意味のわからないこの放送ですが、
報告書を一度最後まで読み終えた上で
改めて内容を振り返ってみると、
文中に不自然に挟まれた「5」「7」「9」の3種類の数字が
物語の最後にウィルソンが
世界をリセットするために利用した
SCP-"579"SCP-"055"のナンバーと綺麗に一致することに気づきます。

そしてこの放送が現実のものではなく
ウィルソンの脳内だけの幻聴のようなものであった可能性が高いこと※と、
ラジオを聞いた直後からウィルソンの脳裏に
SCP-055をSCP-579に運ばねばならないという考えが
芽生え出したことを併せて考えると、
このラジオ放送は何者かが
ウィルソンの行動をコントロールするために発した
一種の暗示であったという可能性が浮かび上がってきます。

(※放送の後にウィルソンがラジオの裏側を確認したところ修理のしようがないほど壊れていたこととラジオの語り手の声がウィルソンの声に酷似していたことから)

その上で、このラジオ放送を送ったのが誰だったかという点については
このように人間の無意識に働きかける芸当が可能で、
なおかつウィルソンを操る動機があるという観点から
「それ」の仕業だったと考えるのが最も自然だと思われます。

そしてこの過程を後に述べる
ラストシーンでの出来事と照らし合わせてみると、
そこにあるひとつの悍ましい可能性が浮かび上がってくるのです…(詳しくは後述)

最後の画像とか余白には何か意味があったの?

さていよいよ考察も大詰めです。

報告書の最後、ウィルソンがSCP-55を抱えて
SCP-579の元へダイブしたラストシーンの後に掲載されている
lookcloser.pngにはステガノグラフィー技術で
次の隠し文章が仕込まれています。

My hands shake as I hold the document. "This is confirmed?"
書類を持つ手が震える。「これは確証されたのか?」

He nods. "We got the report from PNEUMA staff yesterday. It's everyone."
彼は頷く。「昨日PNEUMAのスタッフから報告を受けた。全員だ」

"Even us?"
「我々も?」

"Even us, Tejani. To think I'd find myself agreeing with that damn lizard…"
「我々もだよ、テジャニ。まさか私があの忌々しいトカゲに同意する日が来ようとは…」

"What do we do?"
「これからどうする?」

"You know what we have to do. We'll have to disseminate a cure, I think, among personnel before we get things underway. It'll try to stop us otherwise."
「何をすべきかは分かり切っている。本格的に着手する前に、まずは職員たちに治療法を広めなければならないだろうな。さもないとこいつは我々を止めようと試みるだろう」

"God help us, One."
「神よ我らを救い給え、ワン」

"Don't be like that, Tejani. That's IT talking."
「やめてくれ、テジャニ。それは奴が言わせているんだ」

ここで話をしている「ワン」「テジャニ」
それぞれO5の「O5-1」
倫理委員会の「オドンゴ・テジャニ委員長」
だと見て間違い無いでしょう。

そして、この会話内容からは
・財団も倫理委員会も理性的に作戦の決行を決定した
・改めて不死身の爬虫類が「それ」を知っていたことが裏付けられている
・「それ」には財団の行動を妨害する力がある

ことなどが読み取れます。

また、報告書最下部には
不自然な余白が設けられていますが、
ここにもソースコード内に埋め込まれる形で
以下の隠しテキストが存在しています。

侵略されていると言ったか? ありふれた終末の1コマかもしれないと。

そうだ。

言うな。君はもっと辛い思いをしているに違いない。
それは好きじゃない物を見出した後に誰もが口にする言葉だ。

なんて事だろう。

とても数時間で語り尽くせるような事じゃない。
少しだけ静かにしてくれないか?
勿論私は無理だ。ダメだ、まだだ。
侵略されているという感覚。

それで構わないんじゃないか?

それを言うな!

あれに言及さえしてはいけない。

私たちは現状で良しとするしかないんだ。

私は考え続けている — 全て終わらせた方が、私たちが発見したモノと縁を切る方が良いんじゃないか。彼らはどれだけ長い時間をかけるつもりだろうか? しかし、あれはそういう感じのモノじゃない。私の全てだ。彼らが何と言うか君にも分かるだろう。

これが私だ。

もう終わったんだ。

時間がかかるだろう。

君は潔癖症なんだね?

返答を受け取ったか? 私たちは見るべきじゃなかったんだ。君もだよ。この先誰かが他の物事を話題にするかどうか疑問だ。

気分が悪い。

これもまたO5-1とテジャニの間の会話の断片だと思われます。

全体的に先ほどより曖昧な内容ですが、
特筆すべきなのはここで侵略という言葉で表現されていることから
「それ」には人間に侵入する性質があることが読み取れることです。

そしてここで話者の一人が「縁を切る」と口にしているのは
のちの人類殲滅作戦によって「それ」を
人間の中から完全に根絶する意思を匂わせるものでしょう。

で、「それ」の正体は結局なんだったの?

ここまでで報告書から得られる情報は
だいたい拾ったと思うので、
ここからは「それ」の正体という
より本質的な問題の考察に移ります。

そのためにもまずは
ガンジルでのサミュエル・ロスの発言の
一節を思い出してみましょう。

(笑う) 好きにすればいい。痛みを感じるはずが無いと一度気付けば、怖ろしい物はもう何も無い。

このセリフからはこの場面でのサミュエルが人間は本来
「痛み」を感じないことが正常であると考えていることが分かります。

そういえば機動部隊の魔女狩りの場面でも
「痛み」を感じるかどうかが反ミームエージェントの効果が
適用されているかどうか(=「それ」の影響下にあるかどうか)の判断基準となっていました。

これらの事を総合すると
人間には本来「痛み」を感じる能力はなく、
「痛み」というものは大昔のいずれかの時点で
人間の無意識内に侵入した「それ」が後天的に与えた
イレギュラーな機能だったという仮説が浮かび上がってきます。

ただ、「痛み」というのは
確かにネガティブな感覚ではあるものの
生物が自分の身を守るために不可欠な機能であり、
また人間以外の動物であっても痛みは感じることから
単に「痛み」が「それ」の産物だったと結論付けるのは
どうにも正鵠を射ていないようにも思えます。
 
そこで、より有力な説として推したいのが
「それ」が人類に与えたものが
「自分も含む他者の痛みを想像し労わる共感力」だったとする説です。

こう考えれば反ミームエージェントの適用後に
財団職員からすっかり良心が失われたように見えたことにも、
真実を知った職員の多くがヒステリックな反応を示したことにも、
先の隠しテキスト内で話者の一人が
「それ」のことを「私の全てだ」と表現したことにも辻褄が合いますし
自分自身の痛みまで感じなくなる点についても
自己に対する共感の欠如が痛みを感じることを不可能にしたと捉えれば説明できます。

いつの時代も人間の最高の美徳とされてきた「思いやり」の心。

もしそれが人間を支配しようとする外敵から借り受けたものであり、
外敵の支配から脱するにはその大切な心と
永遠に決別しなければならないことを知ってしまったとしたら…

サミュエル・ロスがGOCの職員を皆殺しにした際に
「俺たちは君たちにとても親切なんだ。」
述べた気持ちも痛いほどわかってしまいますね…

最後に何がおきたの?財団は「それ」に勝てたの?

最後に、報告書のラストシーンで
ウィルソンがSCP-055とSCP-579を接触させたことで
一体何が起こったのかというオチの部分の考察を行います。

結論から言うと、それは世界のリセット(再構築)です。

ロジェの提言(Keter Duty / Keter任務) - SCP財団
SCP-2998 - SCP財団

実はSCP-055とSCP-579の組み合わせについては上記の前例があり、
この両者の組み合わせが世界のリセットの引き金となることについては
SCP財団の参加者の中で一種の共通了解となっているんですよね。

ただし、あらゆる現実改変から身を守る
SCP-5000を身につけていたウィルソンだけは
そのリセットの際も存在が失われることなく、
リセット後の世界にSCP-5000を着込んだ死体の状態で
出現することになったというわけです。

そして…
このリセットが誰にとって
最も都合が良いことだったかといえば
それは財団によってギリギリまで追い詰められていた
「それ」に他なりません。

そもそもラジオの描写から分かるように「それ」は
ウィルソンの行動を無意識からコントロールしていたので
ウィルソンの行動が「それ」の利益になることは当然の帰結です。

かくして財団が断腸の思いで臨んだ殲滅作戦も虚しく
世界はウィルソンの「英雄的」行動によってリセットされ、
人類は依然として「それ」の支配下に
置かれ続けることとなったのでした。

つまり、この報告書は
財団の敗北のお話でもあったわけですね。

こうして見かけは平和な世界に戻った人類が
どのような未来を歩んでいくのか…
財団はいずれ再び「それ」の正体に気づくのか…
全ての未来は未だ闇に包まれたままです。

おわりに

既存のSCPに対するリスペクトもさることながら
真実を理解した前と後で
主人公の行動の意味が180度正反対になる構成の妙が
素晴らしい報告書でしたね。

激戦区のSCP-5000コンテストを
勝ち抜いたのも納得の内容でした。

現在ではSCP-6000も公開されていますので、
そちらもタイミングで記事にできればと思います。

それではまたの機会に。

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