はじめに
こちらの続きです。
ガチで面白いSCP報告書50選
SCP-2772-JP - コンビニ傘
SCP-2772-JPに指定されているのは
見ると盗みたくなるビニール傘です。
見た目は市販のビニール傘と全く同じで、
コンビニのカサ置き場などに不定期に出現します。
誰かがSCP-2772-JPを持ち去った場合、
その人物(SCP-2772-JP-1)には
次のような症例、言動が目立つようになります。
症例:
- ビニール傘の盗取に対する罪悪感の希薄化。
- ビニール傘を盗取されたことへの危機意識の低下。
典型的な言動:
- ビニール傘はいいんだよ。
- ビニール傘は共有財産だ。
- ビニール傘なら仕方がない。
また、上記の言動には
軽微なミーム汚染効果があり、
それを聞いた人物にも
同じような症例、言動が発生するとのこと。
と、ここまで聞いた限りでは
正直あまり危険なアノマリーという感じはしませんね。
世の中にカサ泥棒が増えるのは嫌ですが…
結論から言うと
SCP-2772-JPはかなりヤバいアノマリー。
それを示す一例として報告書には
都内のある小学校で発生した
ビニール傘による暴行事件の概要が掲載されている。
この事件はあるクラスの教諭と生徒が
全校集会に遅れてきたという理由だけで
他の教諭から「体罰」として
ビニール傘を用いた集団暴行を受け、
2名の児童が死亡、
教職員を含めた19名が失明したという
極めて凄惨なものだった。
財団はこの事件の概要を
加害者の一人でもある
夏木氏へのインタビューを通じて認知した。
インタビュー中の夏木氏は
落ち着いた様子で財団の質問にも協力的だったが、
SCP-2772-JPの影響が抜けていないのか
その中には明らかに異常な発言も多々含まれていた。
歌川博士: 今回の事件について、お聞かせ願えますか。
夏木氏: はい。私自身とても動揺していて、まだ気持ちの整理がついていないというのが正直なところです。あの日は雨でした。雨の日に傘をさすというのは、当たり前のことですよね。
歌川博士: 我々の調査では本事案と関わりのない生徒にも、目に重篤な障害が認められました。これは外傷による後遺症であると推定されています。こうした状況が常態化していた。誰か問題視する人はいなかったのですか。
夏木氏: いいえ。保護者も含めて、特に苦言を呈する人はいませんでした。私も少しやり過ぎじゃないかと、疑問に思ったくらいでしたし。
歌川博士: 眼窩底骨折や眼球破裂が、少しやり過ぎですか。
夏木氏: そう言われると、はい。恐ろしいことをしていました。ただ……。
歌川博士: ただ?
夏木氏: ビニール傘ならいいかなって、みんな思っていたんです。
[少しの間 沈黙。]
歌川博士: ビニール傘による暴行だけが許されるというのは明らかに矛盾しています。それに、ビニール傘を盗むことは犯罪です。
夏木氏: ああ……、そうですか。そう、そこから間違ってしまっているんですね。どうして私、こんなことに気付けなかったんだろう。
歌川博士: 子どもたちに会った時、先生に元気がなかったら、教室の雰囲気まで暗くなってしまいますよ。
夏木氏: そうですね。元気、出さないと。
[夏木氏がうつ向き、自身の手を見る。]
夏木氏: そうだ。お休みをいただく前にひとつだけ、質問があるのですが。
歌川博士: なんですか。
夏木氏: これから私は、何で子どもを殴ればいいんでしょうか。
偶然1つの小学校に
このような教師が集まっていたとは考え辛く、
SCP-2772-JPの影響があったと考えるのが自然だが、
だとすると報告書中に記されている異常性だけでは
説明できない部分がある。
つまり、SCP-2772-JPが及ぼす
ミーム災害の影響範囲は
ビニール傘を盗むという行為だけに留まらず、
他人を傷つけてはいけない、殺してはいけないという
もっと根本的な倫理観そのものに及ぶ可能性があるということだ。
これがどれほど危険な事かは、
具体例を挙げずともご理解いただけるかと思う。
また、本報告書を読み解く上で
もう1つの重要な要素として、
最下部の次の一文がある。
終了報告書: 同校に在籍する生徒を調査した結果、およそ60%の児童に身体的虐待を受けていた形跡が確認されました。学校関係者にクラスC記憶処理を施し、教育活動は現在再開されています。なお、現場で押収されたビニール傘からSCP-2772-JPは発見されませんでした。
この内容を素直に受け取ると
「先の事件はSCP-2772-JPとは無関係だった?」
と考えてしまいたくなるが、
もう少し捻って考えると
もっと恐ろしい別の仮説が浮かび上がってくる。
それは、事件の元凶は
やはりSCP-2772-JPであり、
事件後に誰かによって別の場所に
持ち去られてしまったという可能性だ。
もしそうだとすれば、
凄惨な事件を起こしかねない「爆弾」が
今もどこかで野放しになっているというわけで…
SCP-2733-JP - 地獄への道は善意で舗装されまくってるし、なんなら案内表示だってある
SCP-2733-JPに
指定されているのは
「HELL →」 と記された
シンプルなデザインの看板です。
このアノマリーの最大の特徴は、
矢印の示す方向に進んでいくと、
同じデザインの看板が
まるで道案内でもするかのように再出現すること。
堂々とHELL(地獄)と書かれているのに
ついていく人なんているのかと思われるかもしれませんが
財団の調査によれば生活環境が不安定だったり
精神的に不安定で自殺願望を抱いていたりするような人ほど
矢印を追いかけてしまいやすくなる傾向があるそうです。
そういう人はもしかすると
破滅願望からあえて
そのような行動に出るのかもしれないですが
なんたってHELLですから、
誘導された先に碌な結末が
待っていないことだけは確かでしょうね。
SCP-2772-JPに誘導された中で
"HELL"に辿り着いた人物は
(財団が観測した限り)未だ誰一人としていない。
それどころか、
SCP-2733-JPが示す道筋は治安が良く
舗装された歩きやすい道ばかりなうえ
トラブルが発生した場合には
偶発的に適切な支援を受けられるため
SCP-2733-JPに誘導されたまま
最長で50年生き続けたなんていう事例まである。
"HELL"の正体は結局最後まで謎のままだったが
結果だけ見ればその謳い文句に反して
多くの人の命を救っているアノマリーと言えるかもしれない。
(救われた当人がそれで幸せかどうかは別として…)
SCP-2701-JP - わーい!あたらしいかぞくだ!
SCP-2701-JPに
指定されているのは
人型のぬいぐるみ群です。
このアノマリーは
5歳から12歳までの
子供の周囲にのみ出現し、
その子供以外の家族からは本当の
子供の1人として認識されます。
SCP-2701-Jの出現後、親の関心は
SCP-2701-JPに集中するようになり、
出現先の子供の方はしばしば
ネグレクトに近い状態に置かれてしまいます。
このようになんとも
はた迷惑なアノマリーなのですが
財団が把握したある子どもの家庭では
ちょっと事情が違っていたようで…?
補遺:文書-2701-JPの子どもは
日常的に両親による虐待を受けていた。
そんな折、"だいすきなせかい ぬいものクラブ"
なる団体からSCP-2701-JPが送られてくる。
これにより両親の関心、
ここでは虐待なのだが…
が人形の方へと向かい、
児童は一時的に虐待の被害を逃れることとなる。
しかしある時、児童の母親が
SCP-2701-JPを蹴って破損させ、
中のワタを露出させてしまう。
その後、母親は"自分の本当の子どもだと認識しているはずの"
SCP-2701-JPをどこかへと捨て去ってしまった。
こうして身代わりがいなくなった児童は
"だいすきなせかい ぬいものクラブ"に宛てて
新しいSCP-2701-JPを送ってくれるよう手紙を書いたが、
返ってきたのは「もうじゅうにじゃないからだめ」
というそっけない返事だけだった…
というのが事の顛末なのだが
この児童がその後、
どのような運命を辿ったのかについては
報告書内では語られていない。
ただ、この劣悪な家庭環境を考えると
たとえ生き延びたとしても
相当に過酷な日々が待ち受けていたものと思われる。
また、12歳という年齢に対して
手紙の文面がかなり拙いものであったことを考えると、
例の児童が義務教育すら受けさせてもらっていなかったか、
あるいは学習面で何らかの障害を抱えていた可能性も考えられる。
SCP-2644-JP - 逝く前にもう一度会いたかった
SCP-2644-JPに
指定されているのは
発生源不明の甲虫の死骸です。
SCP-2644-JPには
発生とほぼ同時刻に死亡した
人物1人(以下 SCP-2644-JP-A)の遺伝子が含まれ、
多くの場合SCP-2644-JP-Aから
1km圏内に存在する街灯や
夜間営業施設の周辺に発生します。
生きた状態のSCP-2644-JPは未だ発見されておらず、
財団はこの謎多き生物の調査を継続しています。
SCP-2644-JPは死んだ人間の魂が
残された親族にそのことを伝えるために
虫の姿を借りて実体化した存在だった。
しかし、惜しむらくは虫の本能部分まで
そのまま引き継いでしまっていたこと。
近代化に伴い、夜の明かりが増加したことで
SCP-2644-JPがこれに吸い寄せられ
親族の元に辿り着く前に
息絶えるという事例が激増してしまったのだ。
財団より以前から
SCP-2644-JPの存在を認知していた
蒐集院側の資料には
"訃虫(SCP-2644-JP)は
主の親族の元へと終に辿り着かれで斃れたる"
という記録があり、往時にはきちんと
その役目を果たせていたことが示唆されている。
ちょっぴりブラックなユーモアというか
近代文明に対する絶妙な皮肉というか。
なんともほろ苦い余韻を残す報告書だった。
SCP-6208 - 彼女の名はアムネジア
SCP-6208に
指定されているのは
ほぼ全ての主要な財団施設内に出現する、
本来存在しないはずの部屋です。
この怪現象にはどうやら
非現実部門なる
財団の部署が関係しているようなのですが…?
非現実部門はその名の通り
非現実の収容と研究を扱う部署だ。
ただ、この部署や所属メンバー(一部例外あり)自体が
非現実の存在であるために、
財団内の一部門でありながらも
財団側からは表向き存在を認知されていないという
奇妙な事態が成立している。
またSCP-2644-JPに入室することは
それ自体がある種の才能を要する行為に相当するらしく、
特殊な装備を用いてSCP-6208内部に入場した
ジェニファー・ウィリアムズ研究員は、
その直後にサイト-0管理官 ジョン・ドゥなる人物の要請で
非現実部門へと異動されている。
(その後、失踪扱いとなった)
このように、「あるのに、ない」という
存在の曖昧さが魅力の非現実部門だが、
元は部門コンテスト2022で産み出された設定であり、
以後はそれを元に拡張され、独自のハブを形成している。
現在翻訳済みの関連報告書、taleは
合わせても10本足らずでさっと読み通せるので
興味があればこの機会に上記のリンクから是非。
SCP-2740-JP - 気にしない気にしない笑
SCP-2740-JPに
指定されているのは
"異常性の存在しない"
1台のトヨタ・セルシオです。
…
…え?
異常性のない物品が
SCP報告書に記載されているのは変じゃない?
ですって?
全くその通りなのですが、
どうやらそこには抜き差しならぬ
深い事情があるようで…
報告書の大部分は
SCP-2740-JPと3人のDクラス職員を用いた
実験ログで構成されている。
実験ログの内容は、
Dクラスに指定の場所までSCP-2740-JPを運転させ、
そこで少し待機させた後に
再度スタート地点へ運転させただけという
目的がよく分からないもの。
その上、ログが終わった時点で
報告書も完結しており、
本当にSCP-2740-JPには異常性がないのか、
あるとすれば具体的にどういう異常なのかという
肝心な点については何1つ明かされていない。
なので、初読時にはほとんどの人が
「これは一体なんだったんだ?」
と混乱してしまうのではないかと思う。
一応、ディスカッションには
著者による考察のヒントが示されているが、
それもあくまで断片的な情報にすぎない。
ワタシの想定を述べます。
まず、異常性に関しては、当初Dクラスたちは知らされていませんでした(この実験は初回の実験である想定です)。
しかし、D-44663や清掃員などの事例、および実験担当職員からの情報によって異常性を概ね理解し、順応していった感じです。
一方で、同じくディスカッション上には
サイトメンバーによる鋭い考察が投稿されている。
「D-44663: なあ、これ…。」「D-44661: もう沢山だ!やめてくれ!何でそんなに笑っ…。」以降2人は登場しない。車の後部座席にある「何か」に言及したことがきっかけになっている。
異常性の主体は後部座席にあるもので、 ハエなどの様子からおそらく腐敗した何か。清掃員がモップを用いていることから何かしら跡の残るもの(肉だろうか? 笑っているという描写から、人の死体の可能性)。
異常性は「それに言及したものをそれと同質のものに変える」こと。(D-44563が異常の影響を受けた後に清掃員が登場している。D-44661が異常の影響を受けた後、彼がいた運転席に座るために20分もかかっている)
立ち入り禁止区域は恐らく、一帯の住人がこれの影響を受けて全員オブジェクトに変わってしまっている。
この実験は車という主体を通して異常性を語るためのもので、そのためにわざわざ立ち入り禁止区域まで行かせた。
著者がこれに直接お墨付きを与えているわけではないが、
私的にはかなり的を得た考察なのではないかと思う。
少なくとも全体の描写からして
以下の点についてはほぼほぼ確定と
考えてよいのではないだろうか。
- SCP-2740-JPの異常の本体はセルシオの後部に存在する"何か"。
- "何か"について言及した人間は即死して肉塊のような状態になる。
- 実験ログ中のD-44663とD-44661は実験中に"何か"に言及したことで死亡した。
- 実験ログ中のD-44662は他の2人の死にざまを見てSCP-2740-JPのトリガーを察し、順応していった。
- 報告書にそのまま以上の概要を書くとトリガーを惹いてしまうため、あえて"異常が無い"という嘘を書いていた。
もっとも、著者が明確な回答を示していない以上
これらの考察が必ずしも正しいという保証もないので、
お時間があればあなたも是非、
SCP-2740-JPの真相探しにチャレンジしてみてほしい。
SCP-2687-JP - 生きる意味/死ぬ意味
SCP-2687-JPに
指定されているのは
見た目は全く面白くないはずなのに
見るとなぜか笑ってしまう
異常な首吊り死体です。
死体の素性は高校生の品田 浩太で、
首吊りに使用されているタオルと
タオルが括り付けられている天井は破壊不能です。
また、SCP-2687-JPが
時間経過で腐敗することもありません。
このように何とも不可解というか、
今ひとつ存在理由の見えてこないこのアノマリーですが、
その背景には実は品田氏が生前に体験した
ある壮絶な出来事があって…
品田氏が残した、
本人曰く「自分語り」の文章には
SCP-2687-JPの発生原因を推察する上で
重要なヒントが含まれている。
全ての始まりは、
品田氏の母親が
自宅前でひき逃げに遭い
死亡したことだった。
当時高校生だった品田氏はその後帰宅し、
息絶えた母の姿を目撃していたのだが、
彼にとってそれ以上に印象的だったのは、
変わり果てた姿となった母の遺体に競うようにスマホを向け、
撮影していた野次馬たちの姿だった。
両脚は潰れ、腹部からは若干内臓が見えていました。
それから何があったかはよく覚えていません。覚えていることがあるとするならば、それは取り巻きの人たちが「うわー」「ひでえ」「グッロ」などと言いながら一様にスマホを母だったものに向けていたことです。
それがひき逃げだったこと、そして私が母を見た時はまだ救急車が呼ばれていなかったこと、すぐに傷を塞いでいればもしかしたら母が助かった可能性があったかもしれなかったことを知ったのは後になってからでした。
この体験以来、強い喪失感と
倦怠感に襲われるようになった品田氏は、
高校を辞めて就職することを考え始める。
だが、高校を止めた自分を雇ってくれる場所があるのか?
不安と無力感ばかりが募っていく…
そんな折、品田氏はふと、
母の事件がネット上で
どう扱われているのかが気になり、検索をしてみた。
すると出てきたのは、
「轢き逃げで脚がぐちゃぐちゃになった女の画像がこちらwww」
というタイトルの記事を掲載した、あるアングラサイトだった。
そう、あの日野次馬の撮った品田氏の母親の写真の1枚が、
まるで見世物の様にネット上で晒されていたのだ。
「轢き逃げで脚がぐちゃぐちゃになった女の画像がこちらwww」
普段ならウイルスやらを気にして触らないようなページでしたが、私がその事を気にした時には既にリンクをクリックしていました。画面に表示されたページは、いかにもアングラな雰囲気で、性的な広告にあふれ、関連記事もそっち系のものばかりでした。ページをスクロールしていくと、かつて見た、絶対に忘れられないそれがありました。
脚が潰れ、腹部から内臓が飛び出た、母の無修正の画像でした。
あの時スマホを向けていた誰かが投稿したのでしょう。
不思議とその時の私はいやに冷静でした。「ああ…そう…。」程度の言葉しか頭に思い浮かびませんでした。
その記事にはいくらかコメントが付いていました。「思ったほどぐちゃぐちゃでもないな つまんな」
「せめて脚片方はちぎれてほしかった まあ割と美人なのは高得点」
「まあ「www」なんて付けるくらいならもっと派手であってほしいわな 嫌いじゃないけど」
彼らにとって、ずっと私を愛してくれた、優しい母の死体は自分の好奇心を満たすだけの存在でした。他のページにも、同じようなコメントが付いていました。
これが最後のダメ押しとなったのだろうか。
品田氏はそれ以後、
自分は誰からも必要とされない
無意味な存在だという
絶望的な思想に強く囚われることとなる。
私はようやく気付きました。
「君が死んだらきっと誰かが悲しむ」と言いましたが、こうも言えます。
「君が死んだらきっと誰かが喜ぶ」とも。人間誰しも他人に迷惑をかけないと生きていけません。
時に誰かを「死んでほしい」と恨み、時に誰かに「死んでほしい」と恨まれるものです。
それでも人間が生きるのは、誰か自分の死を悲しんでくれる人がいるから、その誰かのためにだと思うのです。(もちろん私利私欲のために生きる人もいるでしょうが)しかし私は?
ひたすら目立たず、迷惑ばかりかけてきたこの私を、誰が大切に思うでしょうか。
誰が必要とするでしょうか。
誰が死を悲しむでしょうか。もう、迷う要素なんてありません。
自分語り終わり
さて、ここまですっ飛ばしてくださった方々も、
律儀に読んでくださった方々も、これが私の最後の言葉です。
これまで、私は誰の役にも立つことなくのうのうと生きていました。
私が自殺することで、更にまた誰かの迷惑になってしまうでしょう。
本当に申し訳ありません。ですが、誠に勝手ながら一つだけ頼みがあります。
一度くらい、誰かの幸せを作りたいんです。
ですから、どうか皆さん、こんなしょうもない私の生涯を、勝手で呆気ない私の死を、笑ってください。
…その後、品田氏が
とった行動については
すでに述べた通り。
氏の文章、および
報告書はここで終了しており
SCP-2687-JPの明確な発生原因は不明だが、
全体的な状況を総合すると、
SCP-2687-JPの発生に品田氏が
何らかの形で関与した可能性は極めて高い。
その路線を突き詰めていくと、
もしかすると品田氏は自覚のない現実改変者であり、
最後の最後に能力が覚醒し、
自分自身をSCP-2687-JPに作り替えた
という可能性も浮かび上がってくる。
何にせよ、もう死んでしまった
品田氏にとっては関係のない事なのだが…
SCP-2670-JP - 親友の頼み
SCP-2670-JPに
指定されているのは
財団のサイト-Ψです。
この施設内でいくつもの
異常な事態が起きていることに気づいた
エドワード・アッカーマン研究員は
報告書を作成するため調査を開始しました。
アッカーマンの肩と女性研究員の肩がぶつかる。
アッカーマン: おっと、失礼。
女性研究員: いえいえ、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題ありません、問題…。
当該研究員は同じ言葉を繰り返しながら前進し、壁にぶつかるとそのまま壁の中へと入っていく。一連の現象を見届けた後、アッカーマンは再び歩きだす。
アッカーマン: …こんな感じで、宿舎から離れるほどに行動の異常さが増していく。研究区画の廊下でこれなんだから、きっと収容区画なんか行ったらとんでもないことになってるんだろう。…恐ろしくてまだ行けてねえが。
アッカーマンが休憩室から廊下に出る。廊下では男性研究員が歩いており、アッカーマンは当該研究員の肩を掴む。アッカーマンが息を吐いてから掴む手の力を強めると、当該研究員の肉体は膨張し、やがて破裂して内部から大量のポップコーンを吐き出す。再び、アッカーマンがしゃがみ込む。
アッカーマン: 何だよ、こりゃあ。
これらの不可解な現象を調べるうち、
ある衝撃的な真実に辿り着いたアッカーマン研究員。
それを友人のリックウッド研究員に伝えたところ…?
アッカーマン研究員が辿り着いた結論とは
自分も含むサイト-Ψの全てが
リックウッド研究員の夢の中の存在だとする
あまりにも信じがたいものだった。
アッカーマン研究員がこの仮説を
リックウッド研究員本人に伝えたところ、
彼は自分自身すら忘れていた真実を思い出す。
自分(リックウッド)が職務中の事故で昏睡状態になっていたこと、
それ以前に友人のアッカーマン研究員が、
オブジェクトの収容違反に巻き込まれて殉職していたこと…
全ての真実を思い出したことで、
リックウッド研究員に覚醒の時が近づく。
しかしそれはサイト-Ψおよび
アッカーマン研究員の消滅をも意味していた。
親友との2度目の別れが迫る中、
リックウッド研究員は夢の中でまた
一緒に仕事をしようと
アッカーマン研究員に約束する。
リックウッド: 1つ、約束してくれ。
アッカーマン: はっ、良いぜ。どうせ消える身だ、約束だけしていなくなって…。
リックウッド: また、話そう。
沈黙。
リックウッド: また、きっと、夢の中で。仕事の話でも、他愛のない話でも。肩を並べて、一夜中話していよう。
沈黙。
アッカーマンが笑い、鼻をすする。
アッカーマン: …へっ、良いぜ。いくらでも駄弁ってやろうじゃねえか。なあ、親友。
リックウッド: …ああ。ありがとう、親友。
その後、リックウッド研究員は意識を取り戻し
サイト-Ψは消滅した。
しかし、アッカーマン研究員のコピーだけは
消滅することなく夢の世界で存在を保ち続け、
その存在はのちに
自己認識を有する夢界実体として
財団からSCP-2670-JPに指定されることとなった。
SCP-2670-JP: いや、夢の異常ってどういう…ちょっと待て、何?俺が異常存在だと?
ウォーム・ワーム: ああ。君は、我々の用語でいう夢界実体に分類される。本来、人間は夢界の中でオネイロイというアバターを得て、無意識のうちに夢界に複数の夢界実体を構築する。そして、この夢界実体群による劇に参加していくわけだが…この夢界実体には、本来まともな自我など存在しないのだ。だが、君は確立された自我どころか、他の夢界実体に対するクラス2相当の改変能力さえ有している。本来であれば、十分FCの収容対象となり得る異常性だ。
さらにアッカーマン研究員は
夢の中で活動する
もう1つの財団組織である
ファウンデーション・コレクティブに
配属されることとなるのだが、
その人事を推薦したのは現実世界で
財団の心理学部門長となっていた
あのリックウッド研究員だった。
SCP-2670-JP: マジかよ。いやでも…じゃあ何で俺がそこの職員なんかになんだよ?
ウォーム・ワーム: 簡単なことだ。心理学部門長直々の推薦だからな、これは。
SCP-2670-JP: 何?
ウォーム・ワーム: 君もよく知っているだろう、彼のことは。何せ、君は彼の夢界から発生したのだから。
沈黙。
SCP-2670-JP: …は?おい、まさかそれって…。
ウォーム・ワーム: ジョン・リックウッド。1941年5月18日生まれ、御年75歳。現在、心理学部門の長を務めている男だ。
SCP-2670-JP: …嘘だろ。
ウォーム・ワーム: 心理学部門は、現実において夢界関連存在の研究や収容を行っている。そのため、FCとの繋がりもかなり強い。FC職員ではないにせよ、心理学部門長直々に推薦された以上、我々も君を歓迎しなければならない。
沈黙。
SCP-2670-JPが笑う。
SCP-2670-JP: 何だよ!あいつ、俺より全然偉くなってんじゃねえか!
報告書は最後、
上記のやり取りを閲覧していたと思われる
リックウッド"心理学部門長"が
夢から覚醒した描写をもって終了している。
SCP-4486 - 幸せは相対的なもの
SCP-4486に
指定されているのは
誰もが知るあの
ドナルド・マクドナルドその人です。
SCPオブジェクトに
指定されているということは
何らかの異常性があることは
間違いなさそうなのですが
果たして…?
ドナルドは創業者のリチャード・マクドナルドと
ビジネスパートナーのレイ・クロックが
異世界から悪魔召喚した現実改変能力者だった。
ドナルドの持つ改変能力によって
マクドナルドは世界的な企業に
成長することができたが、
一方でリチャードとレイは
日増しに強大になる
ドナルドの存在に危惧を抱いていた。
1974年のある日、
リチャードとレイは
苦渋の決断ながらもそれまで
息子の様に愛していたドナルドを
元いた世界に還すことを決意する。
しかし、その儀式は失敗し、
仲間の多くが惨殺された上に
ドナルドにも逃げられてしまう。
その後もドナルドは野放しのまま、
不定期に出現を繰り返し、
マクドナルドの販売促進活動や
ブランドの市場拡大を目的とした
現実改変能力を行い続けていることが
報告書中に記載されている。
SCP-3222-JP - 金玉蹴撃
SCP-3222-JPに
指定されているのは
人体の股下中央から登頂に向けて
垂直方向の打撃を受けた場合に
対象の意識が肉体から分離されて
観測可能になる超意識空間です。
これについては報告書中で
研究責任者のブライト博士が
より簡潔かつ的確な代替表現を
用いているのでそちらを引用します。
ブライト局長: 金玉蹴り上げてトぼうってことさ。
この時点で、悪ふざけか何かかと
疑いたくなったかもしれないですが
まだお付き合いください。
最後まで読めば、
その意外な展開とオチに
"タマ"げること請け合いですので…
ブライト博士は
3人のDクラス(全員男)をアサインして
SCP-3222-JPの観測実験を行なった。
それぞれ四回ずつの金玉キック実験が行われ、
SCP-3222-JPの視覚的データを複数得ることができたが
それらはどれもぼやけたモザイクの様な映像ばかりであり
具体的に何を意味しているのかはわからない。
そんな折、何回目かの実験中に
カオス・インサージェンシーによる襲撃事件が発生し、
ブライト博士と実験に参加したDクラスの一人が被弾。
うちブライト博士が死亡する。
このままでは残された3人とも
殺されてしまうという状況下で
被弾したDクラスは自ら志願して
SCP-963でブライト博士の精神を
自分の肉体に移すことを提案、実行した。
復活したブライト博士。
だがこの場を切り抜ける方法は思い浮かばない。
カオス・インサージェンシーが
レーザートーチでドアを切断し始める。
追い詰められた2人のDクラスは
せめてこれまでの恨みを晴らさんと
ブライト博士を押さえ込み、
強烈な金玉キックを喰らわせる。
瞬間、ブライト博士の精神は
SCP-3222-JPに到達。
そこは周囲の人間の思考が金玉ノウアスフィアのように
集まった空間であり、
そこでブライト博士は
カオス・インサージェンシーの思考に入り込んで
内側から破壊することができた。
かくして襲撃は鎮圧され、
ブライト博士と2人のDクラスは
一命を取り留めることができたのであった。
ちなみにブライト博士の時だけ
SCP-3222-JPを明瞭に知覚できた理由については、
後に以下の様に述懐している。
ブライト博士: <間> これはただの推測だが、私のように異常な精神の増強を施されていない者にとっては、あそこは取るに足らない不鮮明な世界だったと思う。Dクラスたちもそうだが、ISICもあの空間をきちんと認識することはできていなかったのがそう考える理由だ。
そして最後のオチがこれ。
████博士: いい知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?
ブライト博士: <間> いい知らせから。
████博士: よし。まず、検査の結果、君の新しいボディの睾丸は無事だったとわかったよ。
ブライト博士: <歓喜の声を上げ、ガッツポーズをする。> で、悪い知らせというのは?
████博士: 無事なのは片方だけだ。
ブライト博士: [罵倒]
ああ、ご愁傷様…
SCP-2688-JP - 捌縁
報告書を開くと
最初に目に飛びこんてくるのが
こちらの物々しい警告。
まぁ、正直我々にとっては
関係のないことですし、
いつものように適当に読み進めれば
良いのではないでしょうか?
報告書の途中から画像が真っ黒になり
そこから白い手がこちらに向けて伸びてきていたのは
私たち自身がSCP-2688-JPの
タブーに触れたことを表現している。
そのタブーとは
SCP-2688-JPについて
書かれた情報を
『見るな』というもの。
警告に記されていた
専用クリアランスレベルE.2688-JPは
このタブーを回避する予防法の様なものなのだが
報告書を見ている私たちは
当然これを入手する手段がない。
なので読み進めた時点で必然的に
タブーに触れることとなり、
怪異の餌食になってしまった
というオチだった。
SCP-2666-JP - 泉
SCP-2666-JPに
指定されているのは
財団のサイト-298を中心として発生した
異常空間、並びに空間内に存在する湖沼です。
湖沼内に一歩でも足を踏み入れた者は
過去のトラウマを伴った幻覚に襲われ
最終的に廃人同然の状態になってしまいます。
財団はこの厄介な場所の調査を進めるため、
かつてサイト-298に勤務していた経験があり、
なおかつ認知抵抗値等に高い適性を示した
ウェイブラー博士を現地に派遣する
アラバ計画を立案したのですが…
ディスカッションには
著者によるスポイラーが投稿されている。
「白」き「水」で「泉」。泉は夢の象徴なれば、沼は底なしの絶望である。
サイト-298に収容されていた現実改変者はウェイブラーの娘であるエリザ・デイビスです。
財団は自分たちのやらかしをウェイブラーによって対処させようとしていました。
薬等を仕込ませていたのもそのためです。
ウェイブラー自身も、娘の事は自分がどうにかしなければという責任感があったのでしょう。しかし、彼は298に辿り着いたか、或いは、泉の中で「それ」を見てしまいました。
過去の自分が、今のエリザと手を取り合っている風景を。
かつてサイト-298で焦がれるほどに望んだ彼は、それを捨てられなかった。
それがこの物語の終端です。ソースコードまで確認した貴方へ。
あの言葉は「父親」へのものなのか、「父親の記憶」に対してのものなのか。そこを考えてみるのも面白いでしょう。
かつて、正常だった頃のサイト-298では
収容過多に伴うリソース不足を解消するために、
現実改変能力者を利用して
異常空間内に表象領域を作り出す計画が進められていた。
しかし、その計画の途中で事故が起こり
現実改変者や異常物品の収容違反を招いてしまう。
その中にはウェイブラー博士の娘のエリザもおり、
彼女は収容違反後にその力でSCP-2666-JPを発生させた。
こう言う経緯もありウェイブラー博士は
SCP-2666-JPに対する責任を感じていたのだが
アラバ計画の途中で荷物の中に
認知増強剤や対現実改変者用麻酔などの
事前に知らされていなかった複数の薬品を発見する。
これを見たウェイブラー博士は
財団が自分にSCP-2666-JPの
落とし前をつけさせようとしていると察し、
独断で湖沼の中心部へと向かうことを決意。
(ちなみにこの時、財団司令部は蛇の手の襲撃を受けており
ウェイブラー博士の報告に対する返信が遅れていた)
湖沼に侵入したことで殉職した同僚や
実験の犠牲になったDクラスの
幻影に苛まれるウェイブラー博士だったが
それでも心は折れずに先へと進んでいく。
しかし、報告書に掲載された
最後のメッセージの内容は次の様なものだった。
サイト-298に辿り着きました。
サイト-298は現存しています。外見上に変化は見られません。
ですが、ここは私たちの想定していたような事にはなっていませんでした。サイト-298は今や、収容の余地がありません。
全てのオブジェクトが、職員と共生しています。かつてのような殺伐とした風景はありません。
まだ、彼女が暴走していた方が割り切れた。かつて私はこの場所に勤務していました。
かつて失ってしまったものを、取り返そうと夢を見ていました。
ですが、オブジェクトはオブジェクトとしてしか扱われないと知りました。
それから、20年、心を殺してきました。その、20年前の父親だった私が、そこで笑っています。
今の私が失ったものと手を取り合って、笑っています。
湖沼の中、死に物狂いで彷徨って、心身が朽ち果てるような、夢を見ました。
私が見捨ててきた、たくさんのものを見てきました。
それでも、最後の、この光景だけは、あんまりだ。意地が悪い。私が捨ててきた全てが、今のサイト-298にあります。
私が守りたかった全てが、今のサイト-298にあります。
エリザへこれを使って、また、私にそれらを捨てろとでもいうのですか?それは、耐えがたい。
こんな幸せな思いは、忘れていたかった。
もう、足が動きません。
だから、ここが、私の死に場所なのでしょう。
その後、ウェイブラー博士からの通信はなく
アラバ計画の二回目以降の実施も
倫理委員会による評議待ちとなっている。
…と、いうのが
本報告書の大まかなあらすじ。
ディスカッションには著者による
スポイラーが投稿されていたので
参考までにそちらも引用しておく。
(スポイラー)
「白」き「水」で「泉」。泉は夢の象徴なれば、沼は底なしの絶望である。サイト-298に収容されていた現実改変者はウェイブラーの娘であるエリザ・デイビスです。財団は自分たちのやらかしをウェイブラーによって対処させようとしていました。薬等を仕込ませていたのもそのためです。ウェイブラー自身も、娘の事は自分がどうにかしなければという責任感があったのでしょう。
しかし、彼は298に辿り着いたか、或いは、泉の中で「それ」を見てしまいました。過去の自分が、今のエリザと手を取り合っている風景を。かつてサイト-298で焦がれるほどに望んだ彼は、それを捨てられなかった。それがこの物語の終端です。
ソースコードまで確認した貴方へ。あの言葉は「父親」へのものなのか、「父親の記憶」に対してのものなのか。そこを考えてみるのも面白いでしょう。
財団の闇を扱った報告書は数あれど、
これはストーリー性、見せ方、
良い意味での後味の悪さの全てがハイレベルで
かなり読み応えのある傑作だったように思う。
やはり財団は、
碌でもないことをしている時ほど
イキイキと輝いて見えるものだ。