はじめに:そもそも「Dクラス」って何?
Dクラス。
通常、アメリカの囚人のような
オレンジ色のジャンプスーツ姿で連想される彼らの多くは
その見た目通り過去に重罪を犯した犯罪者達であり、
SCP財団のお話においては一時的に刑を免れる条件で
財団と自由意思による雇用契約を結んだ存在として、
主に人間が必要な実験の被験者として登場しています。
ただし、自由意思とは言っても
元々一般人である彼らが財団やその活動について
事前知識を持ち合わせているケースなどほぼ皆無であって、
そのため自分たちを待ち構える運命が
どれほど過酷なものになるか全く想像もできないまま
契約を結んでしまっているケースが殆どであり、
結果として彼らは殆どの報告書で
危険なアノマリーの餌食となって死亡したり、
廃人になったりするといった悲惨な末路を迎えることが
SCP財団の半ばお約束となっています。
さて、本日はそんな財団の闇ともいえる
Dクラス達にスポットライトを当てて、
SCP報告書やtaleの中でも
特にDクラスがひどい目に合っているお話を10作品ほど
ご紹介させて頂きたいと思います。
報告書中では原則的にナンバーで呼ばれるため
通常我々は名前を知る機会すらない彼らですが、
思えばSCPというコンテンツを楽しめるのは
ひとえに彼らが自らの体を張って(望むと望まざるに関わらず)
私たちにアノマリーの恐ろしさを伝えてくれているからこそであり、
この記事を通じてそんな縁の下の力持ちである
彼らの事をもっと好きになって頂ければ幸いです。
それではどうぞ。
財団の闇が垣間見える報告書&tale10選
SCP-653-JP 博士のわくわく大ぼうけん毛布
本日一発目ということで
最初はやや軽めの報告書から行ってみます。
SCP-653-JPはサ○○○やデ○○○○そっくりの
キャラクターがプリントされた子供向けの毛布であり、
これをかぶって寝ると漫画のヒーローの様な
特別な力を得て恐竜や怪物と戦ったり、
未知の惑星で宇宙人と仲良くなったりする
ファンタジックな夢が見られる異常性を有しています。
そんな一見楽しげなこのアノマリーですが、
その真の本性は一度これで夢を見た人間が
再びこのアノマリーを被って寝たときに現れます。
二度目の眠りについた対象は、
前回の夢で見た場所と同じ場所へと転送されるのですが、
今度は前回の様に恐竜と闘えるような力や
宇宙空間で生存できる適応力もないまま、
現実と全く同じ無力な状態で
その場所へと送り込まれるのです。
[ケース1]
○初回使用時の夢
被験者は巨大な恐竜を散弾銃を使用して狩る。
被験者は圧倒的な身体能力と反射神経を持っており、いかなる攻撃も回避できる。○転移先
未知の密林への転移。
被験者の目の前にティラノサウルス・レックスに酷似した生物が立っており、これまで全ての被験者が転移した後1分以内に捕食され死亡する。
[ケース2]
○初回使用時の夢
未知の小惑星の上で宇宙服を着た被験者がタコ型宇宙人及び、美しい青色の肌の女性に歓待され、様々なサービスを受ける。○転移先
未知の小惑星への転移。宇宙空間に放り出されるため、対象は即座に死亡する。映像からは宇宙人の姿は確認できていない。
[ケース3]
○初回使用時の夢
被験者は魔術師となり、中世ヨーロッパ風の甲冑を着た戦士数十人とともに緑褐色の人型生物と戦う。
被験者は巨大な炎の玉、稲妻、巨大な尖った氷柱をオークの群れに投げつけることが出来、また戦士の練度が非常に高いため負傷することがない。○転移先
未知の火山地帯と思われる場所に転移。
原始的な武器で武装した緑褐色の人型生物の集団が1キロメートル程度離れた場所から被験者を追跡し、追いつき次第殺害する。
被験者の生存時間は最も長く 最大で52分の生存が確認された。
なお、仲間や指輪の存在は確認できていない。
これはひどい(褒め言葉)
最初に楽しい夢を見せておいて、
二回目の夢では同じシチュエーションのまま
ひたすら現実の自分の無力感を味わわせて殺すというのが
実に陰険で性根のねじ曲がったアノマリーです。
しかもこれらのケースはまだましな方だったらしく、
財団に記録のある最後のケースでは
文章で表現することが憚られるほど悲惨な何かが
起きたことがその記述内容から推測されます。
[ケース6]
○初回使用時の夢
被験者はどこかの島の上で半魚人の群れに対して軽機関銃を乱射し、殲滅する。
半魚人が非常にのろまであるため、容易に殲滅が可能である。
また、同行者として褐色肌の美女が現れ、被験者に危険を教えるため、包囲などの危機的状況に陥ることはない。○転移先
[データ削除]。SCP-653-JP-6を使用した実験はこれ以降禁止された。映像を拷問用に利用するかは現在検討中である。
映像が拷問に利用できるほどの事態って一体…(絶句)
これらの実験に参加させられた哀れなDクラス達については
ただただご冥福を祈るしかないですね。
ちなみにこのアノマリー、恐るべきことに
その危険極まりない性質にも関わらず
一般の流通ルートに紛れ込んでいた所を発見されており、
しかも報告書によれば今も未回収のSCP-653-JPが
まだ一般社会に紛れ込んでいる可能性があるとのこと。
また最初の夢の直後には
「ワンダーファクトリー重工総研博士」なる
人物が毎回登場していたり、財団エージェントが
SCP-653-JPに書かれた電話番号に電話をかけたところ、
まともな情報は殆ど得られなかったものの
製造元の関係者と思われる人物に電話が繋がったりと
このアノマリーの陰でほくそ笑んでいる存在の姿が
ちらほら見え隠れしているのも却って不気味なポイントです。
ともあれ財団の皆様には
一刻も早くこの危険なアノマリー全て回収し、
またこれに関係している不届き者たちを
根こそぎしょっ引いてもらいたいものですね。
SCP-3984 死神は健在なりや?
多くの場合「死」は忌避されるものですが
しかし仮にこの世の生物が
一切死ぬことが無くなったとしたらどうでしょうか。
SCP-3984はまさにその状況に陥った世界を舞台とする
「死の終焉ハブ」に属する報告書であり、
これに指定されているのはその「死なない」という現象そのものです。
さて、話は戻って冒頭の問いの答えですが、
多くの人が最初に思いつくのは
人口が減らないことによる食料不足の問題ではないでしょうか。
その他にも考えてみると
色々な不都合が浮かび上がってくるのですが、
ともあれ財団としてはこの異常の
正確な実態を把握しなければならないため、
Dクラスを用いて様々な実験を行う事になります。
…
ただ今回は相手が「死」というだけあって、
行われる「実験」というのがどれも
酸鼻を極める内容となっているんですよね…。
実験ログ01
日付: 2020-09-14実験者: エミリー・ヤング博士対象: D-1190
手順: D-1190はD-9981に用手的に窒息させられる。
結果: D-1190は当初もがくが、数分間の窒息の後抵抗をやめた。D-9981は更に10分間絞め続けるように命令された。D-1190は間もなく回復し、持続的なダメージはなかった。
実験ログ02
日付: 2020-09-14実験者: エミリー・ヤング博士対象: D-6812
手順: D-6812はD-9981にベルトを用いて窒息させられる。
結果: D-6812は抵抗しないよう言われたにもかかわらず当初抵抗するが、数分間の窒息の後停止した。D-9981は更に10分間ベルトを同じ位置にするように命令された。D-6812は回復したが、首の腱に軽い、しかし永続的な傷害が残った。
D-6812はサイト-06医療棟に収容されたが、それ以上の回復は見せなかった。
これはひどい。
正確な状況把握のため
こうした実験が必要であることは分かりますが、
実験でまともな生活が送れないレベルまで痛めつけられ、
それでも死ねないDクラス達の身になってあれこれ想像すると
背骨に氷を詰められたような寒気を感じてしまいます。
また本報告書中には他にも
Dクラスを真空状態に置いてみたり
致死量の血を抜いてみたり、
ギロチンで首を切り落としてみたりといった
残酷な実験の数々が記録されており、
この異常事態に対する財団の余裕のなさが窺えます。
…
…え?
「肉体的に死ぬことができないなら、
意識のもとである脳を粉々に破壊してしまえば
少なくとも苦痛からは解放されるんじゃないの?」、ですって?
…それは実にごもっともな意見なのですが、
残念ながらその可能性も本文中の
実験ログ24にて実験対象のアカゲザルの脳が
完全に破壊されたにも関わらず
発信源不明の脳の電気信号に酷似した
シグナルが検知されていることから
恐らく無駄(=脳が無くなっても感覚が残り続ける)である可能性が濃厚となっています。
…づくづく抜け目がないというか、
生物全般に対する底知れない悪意を感じるアノマリーですね。
ちなみに気になる異常事態の原因と
その後の顛末については、
一連の死の終焉ハブのシリーズを読んで確かめてみてください。
SCP-1545 リャマ・ラブ・ラリー
SCP-1545は一見すると
雨靴を履いたユーモラスな
二人用のリャマの着ぐるみですが、
その正体はこれを着用した人間の人格が
「リャマ・ラブ・ラリー」なる
愉快なキャラクターのそれにすり替わり、
疲労によって死亡するまで
楽しく踊り続けるという極悪洗脳アノマリーです。
SCP-1545内部の被験者は、外部の者に引きずり出されるまで中から出ることができず、出たいとも思わないようです(出される際に抵抗はしません)。パートナーを失った被験者は、自身が死亡するまで残った半分としてふさわしい行動を続けることになります。
インタビュー対象者: D-5483、「リャマ・ラブ・ラリー」の声で
インタビュー担当者: フレデリックス博士
前書き: 被験者は二日間にわたってSCP-1545の中にいる。脱水症状で声はガラガラである。
<記録開始>フレデリックス博士: やあ、D-5483。
D-5483: いや、ぼくはジェームスじゃない! ぼくはリャマ・ラブ・ラリーだよ!
フレデリックス博士: オーケー、ラリー。調子はどうだい?
D-5483: 最高ですよ、博士! 今日はお尻のほうがおとなしいんですが、問題ありません! ((付記:SCP-1545の後ろ足に入ったD-5484は、二時間前に息を引き取った。D-5483はD-5484を引きずっている))
フレデリックス博士: ラリー、君の中に人が入ってることには気づいてるのかな?
D-5483: それはヘルパーのことですか?
フレデリックス博士: そうだ、ヘルパーのことだ。
D-5483: ぼくのヘルパーは喜んで助けてくれますよ! 一緒にみんなを楽しませるんです!
フレデリックス博士: D-5484が死んでいることには気づいているのか、ラリー?
D-5483: 単に居眠りしてるだけですよ、博士。
意思を奪われ、
疲れ死ぬまで踊り続けることを
強制されるこのアノマリー。
しかしながらその恐ろしさをより濃厚かつ
臨場感を以て体験したいならば、
本アノマリーを題材とした
以下のtaleを読むことをお勧めします。
(注意!お食事前後には絶対読まないこと!)
SCP-596 忌まわしき再生の像
SCP-596は人間の肉体に吸着し、
張り付いた人間のあらゆる肉体的損傷を
凄まじい苦痛を伴いつ再生させる能力を持った
小さな彫像についての報告書です。
その再生能力は驚異的で、
このアノマリーの影響下にある限り、
その対象の肉体及び生命機能は
譬え頭を切断されようが
脳をミキサーにかけられようが問題なく再生します。
(ただし、再生の速度は受けた損傷の度合いに応じて遅延する)
財団はこのアノマリーが持つ再生能力に着目し、
Dクラスを無尽蔵の血液&臓器ドナーにする
あまりにも非人道的な計画を実行するのですが、
その際に生きたまま肉体を切断され、
再生時にも地獄のような苦痛を味わうDクラスの描写が克明に記載されており、
心臓の弱い方にはまずおすすめできない内容となっています。
また、この実験の担当者であるJon Drake博士のノリが
その悲惨な内容に反して妙に軽いのにも
なんだかサイコっぽい不気味さを感じました。
(あえて深刻にならないよう振舞っているのかもしれないですが。)
SCP-2128 嘘吐きの籠
SCP-2128はアーチ型の石炉で、
この中に入った人間が
"真実ではない"発言をした場合に
その人物を未知の方法で焼き殺す異常性を有しています。
元は9世紀末に
スペインのカルト教団(後に宗教裁判で根絶)が
拷問のために作り出したという曰く付きの一品ですが
時代は下って財団がこれを確保&収容。
その後このアノマリーが
財団が把握していない事柄についても
正確な真偽の判定が行えることが分かると、
財団はこのアノマリーを自分たちの任務に
活用することを思いつきます。
EP 37-スパラフチーレ-22 "Keter照合" 記録 14/10/1
[使者: D-6238]
人類は現在、滅亡の危機にある。 - 真
その危険は、財団が保有しているあるアイテムによって齎される。 - 真
問題の危険なアイテムは、北米のサイトに存在する。 - 偽
[D-6238が焼却される。新しい使者: D-6239]
問題の危険なアイテムは、欧州のサイトに存在する。 - 偽
[D-6239が焼却される。新しい使者: D-6240]
ただし質問者役はDクラスにさせるですが(無情)
自身にとっては全くどうでもいい情報のために
クリア条件なしのチキンレースを続けさせられる
Dクラスたちの姿には同情を禁じえません。
報告書では上記のプロセスによって
少なくとも4度は人類滅亡の危機が回避されたことが
記録されているので、十分にやる価値があるのは分かりますが
それでも使い捨てされるDクラス当人の立場からすれば
全くたまったもんじゃないでしょうね。
またこのアノマリーは
ただ真偽を判定するだけでなく、
ある程度自我めいたものもあるようで、
うっかりSCP-2128の機嫌を損ねた
あるDクラスなどは焼却とはまた別の
特別コースを提供されたりもしているのですが
その辺については当ブログでこのアノマリーについて
単独でまとめた以下の記事が詳しいので
そちらをご覧になってくださいませ。
SCP-993 ピエロのボブル
みんな大好きピエロのボブル君。
オリジナルの報告書には
特にDクラスに関する記述はないのですが、
こいつを題材にしたtaleにこんなものがあります。
一旦希望を与えておいて、
そこから一気に突き落とす性格の悪さが実にボブルらしいですね。
オリジナルの方で財団に無力化されて
駄々っ子の様に不貞腐れていたのが
嘘の様にノリノリなのが何とも微笑ましいです。
ちなみにボブルがゲスト出演している
報告書の一つにSCP-1730(サイト-13に何が起こったか?)があります。
他の追随を許さない圧倒的な
文字数の多さで有名なこちら報告書ですが、
その話の核心に位置するのがGOCと手を組み、
人間タイプも含めたアノマリーの虐殺や
魔改造を行っていた並行世界の財団の存在です。
(ボブルはこちらの財団の犠牲者の代表として登場)
こちらはあくまでも並行世界のお話ではあるものの、
オリジナルの財団も一歩間違えれば
いつこの路線をたどってもおかしくはないという
財団の潜在的な危うさを示すエピソードとしてとても印象的でしたね。
SCP-871 景気のいいケーキ
そのふざけたタイトルに反して
「一定時間内に完食しないと分裂し、
そのまま放っておくと宇宙がケーキでいっぱいになるまで
分裂を続けると推測される。おまけに破壊不能」
というKクラスシナリオ級の異常性を有するケーキ。
この厄介な相手に対して
財団が選んだ戦術はシンプルな人海戦術でした。
うーん…
どちらも読んでいるだけで胸焼けしそうな内容ですね。
このアノマリーの担当に回されたDクラスは
例え即死することは無くても
健康寿命がマッハで縮むであろうことは間違いないので
やはりその立場は悲惨以外の何物でもないでしょう。
ブライト博士
ブライト博士がDクラス職員を"残機"と呼ぶことは許可されていません。
はい、大変美しいですね。
この一文にここで私の言いたいことのすべてが凝縮されています。
ブライト博士がSCP-173、照明スイッチ、Dクラス職員もしくは新しい職員を組み合わせた"SCPルーレット"で遊ぶことは許可されていません。
ブライト博士はSCP-049の前で咳き込むようにDクラス職員を 誰であろうと説得してはいけません。
ブライト博士は車に乗ったDクラス職員とSCP-096のドラッグレースを開催してはいけません。
おお、もう・・・
(※このtaleはあくまでもジョークです。)
(※そもそもブライト博士って誰?という方はまず以下の報告書をどうぞ。)
SCP-2419 - 笑う人たち
SCP-2419は本来は有害な廃棄物(主に医療廃棄物)の焼却と
長期保管を目的として財団がコロラド州に建設した
広大な廃棄物処理施設…だったものについての報告書です。
実はこの施設ではかつて
人間の脳から、幸福な記憶のみを"蒸留"することによって
財団の任務に必要不可欠な記憶処理薬を精製する工程と、
任務の過程で発生した大量のDクラスの死体の焼却作業が行われており、
前者についてはその材料として
Dクラスの新鮮な死体が用いられていました。
ですが1975年のある日、焼却炉に
再生能力を持つ非常に敵対的な異常実体が出現。
これによって財団は
本施設を放棄することを余儀なくされ、
残された施設は異常実体ごと
SCP-2419に指定されることとなったのです。
そしてこの異常実体、その発生原因は実は
先述した記憶処理薬の生成プロセスにあったのです。
[記録開始]
ウォーレン: おはよう、五号。
(柔らかい裂くような音。)
ウォーレン: なぁ、そうして腕の肉を千切り続けていたらいつまでたっても治らんぞ。
(柔らかい裂く音が続く。)
ウォーレン: 君が話せることは分かっているんだ。君が笑っているのを記録してある。
(柔らかい裂く音が続く。)
ウォーレン: なぜ私たちと話そうとはしないのかね?
(柔らかい裂く音が続く。)
ウォーレン: 君の考えを変えるために何かこちらでできる事はあるか?
(柔らかい裂く音が続く。)
ウォーレン: いいかね… ある物を持ってきたんだ。
(柔らかい裂く音が止まる。)
ウォーレン: 写真だよ。君の家族のね。昔の — 君の名前がジョンだった頃、君がDクラスになる前の物だ。覚えているかね…?
昨日、私はD-263175の死体を処理しました。
妻を殺害して死刑判決を受けた男です。
私は、彼が病院のベッドで死にかけている妹の手を握って過ごした6時間を蒸発させました。
息子が最初の数歩を踏み出した時に感じた誇らしさの高まりを蒸発させました。
彼の母親が見せたことのある全ての優しさを蒸発させました — 彼女の冷酷さと虐待しか残らなくなるまで。
そう、件の異常実体の正体は
財団によって利用され殺された挙句に
その死体からまで幸福な記憶のすべてを
奪い去るという仕打ちを受けた
ある「Dクラス職員が恨みを抱いて
この世に蘇ったものだったのです。
確かに彼はDクラスであり、
それはつまり彼が過去に何らかの
許されない罪を犯したことを意味しますが、
しかし報告書から読み取れる彼の過去の記憶は
彼にもまた家族に当たり前の愛情を向ける
人間らしい一面があったことを訴えかけてきます。
財団がDクラス職員を犯罪者層から徴用している理由が分かりますか、ショーン?
誰も私たちを止めないからです。誰も気にしない。
刑務所は取るに足らない人間が集められる場です。
犯罪者とはそういう者たちであろうと貴方が想像するような怪物しか残らなくなるまで、彼らの人間らしさが剃り落とされる場です。
しかし、どれだけ私たちがそうしようと取り組んでも、そこにはいつも僅かばかりの謙虚さが残っていました — 私たちには手の届かない欠片が、彼らには残されていました。
全体として何とも後味の悪い報告書でしたが、
このお話の中に唯一僅かな救いがあるとすれば
それは財団の中にも
こうしたDクラスの扱いに心を痛めて
反対の声を上げていた人たちがいたことでしょうか。
財団の良心と
Dクラスの存在意義について
改めて深く考えさせられる
とても哀しい報告書でしたね…
「わるいざいだん」とは?
最後に、今回のテーマに共通する部分の多い、
「わるいざいだん」というカノンハブについて
軽くご紹介しておきます。
このハブにおける財団は
オリジナル以上に目的のためには手段を択ばない組織であり、
フロントページの表現を拝借するなら
「気が狂っていて、残酷で、邪悪」な存在です。
そのようなわけで属する報告書およびtaleも
財団版「1984」的なテイストのものが多いのですが、
特にDクラスが前面に出ている物としては
以下がこのハブの世界観を良く表していて秀逸です。
ナチスの強制収容所的というか、
一切の感情を排した徹底した
効率性への追求のみが感じられるのが空恐ろしいですね…。
おわりに
以上、「Dクラスと財団の闇」特集でした。
余談ですが私はこの記事を書き終えた後、
私なりにどうして私たちが
こういった類のお話に心惹かれるのかについて
いくつか思いを巡らせてみたりしました。
そして出た結論は、こうしたお話に
人類全体に普遍的な「理想と現実のジレンマ」
の成分が含まれているからではないだろうか、というものでした。
SCP財団のお話においてDクラスは
見ていて心の痛む存在ですが、しかし
彼らの存在無くして財団の様々な研究活動が
成り立たないのもまた現実であり、
もしそうなれば人類の存続可能性も
限りなく0に近づいてしまうことは火を見るより明らかです。
「人助けはしたいけれど面倒ごとには巻き込まれたくない」
「動物がかわいそうだけれど安全な薬の為に動物実験は必要だ」
「自分が楽をするために他人に面倒な仕事を押し付けてしまった」
程度の差はあれど私たちは日常的に
こういった良心のジレンマを感じて生きており、
だからこそ同じように葛藤する財団職員たちの姿に
自分たちの姿を重ね合わせて
共感するのではないか、というのが私の考えた理屈です。
もっともそんなややこしい理屈抜きに
気晴らしにスリルのある話を読みたかった
というパターンの方がずっと多いのかもしれないですけどね。