- はじめに
- SCP-7000『負け犬』の解説
- 登場人物紹介
- あらすじ
- section1. 異常性を自覚している職員への申出勧告
- section2. 特別収容プロトコル
- section3. 説明
- section4. 資格情報の確認
- section5. SCP-7000のせいでどんなことが起きているのか
- section6. ソコルスキー博士、ウェトル博士にインタビューをする
- section7. ウェトル博士の関係者へのインタビュー
- section8. ダン博士、オペレーション・ブラックスワンをO5評議会に提案する
- section9. オペレーション・ブラックスワン
- section10. ウェトル博士の更なる任務
- section11. カオス・インサージェンシーがO5評議会と通信する
- section12. ルブラン研究員、ウェトル博士の両親を訪ねる。
- section13. ウェトル博士の脱走。
- section14. ダン博士とウェトル博士がSCP-179について会話する。
- section15. ルブラン研究員がウェトル博士の元を訪れる。
- section16. ウェトル博士が何かを決意する。
- section16. SCP-7000による確率破綻現象が終息する。
- section17. ウェトル博士がダン博士と再会する。
- section18. ダン博士がO5に最終報告をする。
- section19. SCP-7000-D報告書
- section20. 全ての結末。新たなSCP-7000報告書
- 感想とトリビア
- SCPに興味があるなら以下の記事もおすすめ!
はじめに
今夏、SCP-7000報告書を決める
「LUCK(運)コンテスト」が開催され、
投票の結果『負け犬』と題された報告書がその栄光を射止めました。
本記事ではそのSCP-7000報告書について
読んだけどあまりよく意味がわからなかったり、
長文すぎて読むのが辛いという方向けに
要点を絞った解説記事をお届けします。
それでは、いってみましょう。
SCP-7000『負け犬』の解説
登場人物紹介
そのほうが物語の全体像を掴みやすくなるように思うので
まず先に本報告書の登場人物をご紹介しておきます。
ウィリアム・ウォレス・ウェトル博士(SCP-7000-1)
ウィリアム・ウォレス・ウェトル博士は本報告書の主人公であり、
SCP財団のサイト-43に勤務する54歳の白人男性です。
自他共に認める「究極の不幸体質」であり、
賭けをすれば必ず負け、
コンピューターをいじれば
必ずブルースクリーンが発生するという
失敗続きの人生を歩んできました。
元妻のコネで財団の博士の職にはつけたものの
その壊滅的な不器用さから
54歳の今もなお下っ端職員として扱われています。
他人をイラつかせる事もしょっちゅうですが、
彼をよく知る人の中には
その素朴で憎めない性格を慕っている者もいます。
ソコルスキー博士
SCP-7000の調査担当者。
SCP-7000による確立破綻の影響で
秘匿のヴェール(=財団の存在が一般社会に知られないようにすること)が危機に陥る中、
財団の呼びかけに応じて自らの異常性を申告したウェトル博士に着目し、
周辺人物へのインタビューを実施。
その結果、ウェトル博士がSCP-7000の影響を受けていないこと、
彼の存在がサイト-43をSCP-7000の悪影響から保護していたことを突き止めました。
その後は自らの説を実証するために
"オペレーション・ブラックスワン"を構想し、
後述するダン博士と共にそれを監督しました。
ダン博士
SCP-7000の対応についての全権を持つ
緊急時脅威戦術対応機構 (ETTRA) の管理官。
ソコルスキー博士から連絡を受け、
オペレーション・ブラックスワンの進行管理と
O5評議会への連絡役を務めました。
性格は有能な自信家で、
中盤以降の狂言回しとなる人物。
リスクヘッジの一環として、
自身のラストネームを「ダン・███████博士」といったふうに
常に黒塗りで記載する習慣があり、
財団内部でも彼のフルネームを知るものは殆どいません。
ハロルド・ブランク博士
財団所属の博士でウェトル博士の旧友、
かつソコルスキー博士の最初のインタビュー対象者。
ウェトル博士そっくりの
ひげもじゃ小太りメガネの壮年男性でありながら
その人生はウェトル博士と違いすこぶる順調な様子。
ソコルスキー博士は彼へのインタビューを通じて
ウェトル博士が周囲の人間の不幸を吸い取っているという
自身の仮説への確信を深めていくこととなります。
マルゲリータ・ヴィラー
ウェトル博士の元妻にして
第二のインタビュー対象者。
ウェトル博士と
トラブル続きの結婚生活を送っていたある時、
自分が運転していた車が別の車と追突事故を起こしてしまいます。
事故の原因にウェトル博士は無関係だったものの、
事故の直後になぜかウェトル博士が家を出て行ったことで
二人の婚姻関係にはピリオドが打たれることとなりました。
このウェトル博士の不可解な行動の理由は
報告書を読み進める中で明らかとなります。
ガブリエル・オコナー研究員
サイト-43に勤務する女性の研究助手。
インタビュー時には
立場上は部下であるにもかかわらず
ウェトル博士のことを「あいつ」呼ばわりし、
思いやりにかけた人間だと評していました。
とはいえ全体的な話しぶりや
一緒に写っている写真での表情を見ると
心から憎んでいるというわけではなく
あくまでも「困った人」といった程度の認識のようです。
バスティアン・ルブラン研究員
サイト-43に勤務する男性の研究助手。
ウェトル博士をよく知る同僚の一人として
ソコルスキー博士からインタビューを受けました。
ウェトル博士のよき理解者であり、
インタビューの際には
「彼は… そりゃ時にはろくでもない奴だったりしますけど、残酷じゃありません。」
と彼のことを擁護していました。
一連の事件全体を通じて
常に友人としてウェトル博士を支え続け、
事件の最終的な解決に大きな役割を果たした
何気にこの報告者の陰の功労者でも呼ぶべき人物です。
機動部隊シータ-7000
オペレーション・ブラックスワンのために
選りすぐりのエージェントを集めて結成された機動部隊。
結成から少しして
ウェトル博士をお互いに嫌々ながら
メンバーに迎えいれ、
カオスインサージェンシーの基地掃討作戦をはじめとする
数々の危険な任務をこなしてみせました。
報告書時点での、
ウェトル博士を含めたメンバー構成は以下の通り
- アンドレア・アダムズ隊長 ("ADAMS")
- ウィリアム・ウェトル博士 ("LUCK")
- エージェント ダリア・オゾルス ("CHICO")
- エージェント ブランドン・ブルース ("LEE")
- エージェント 韓 成珍ハン・ソンジン ("O'REILLY")
- エージェント ナースチャ・コズロヴァ ("BRITT")
- エージェント ムラド・クリエフ ("TANNER")
カオス・インサージェンシー(CI)
本報告書一番の被害者財団の離反者を中核とする要注意団体。
細かいバックグランドはいろいろありますが、
本報告書を読む上では、
財団に敵対している武装手段で、
基本的に劣勢であるということだけ押さえておけば大体OKです。
O-5評議会
財団の一番偉い人たち。
O5-1からO5-13まで全部で13人いる。
財団の運営にとって重要な判断事項は
最終的に彼らの多数決によって決定されます。
あらすじ
登場人物について説明し終えたところで、
続いてSCP-7000のあらすじを最初から最後まで、
要点を絞りつつ振り返っていきます。
本筋やオチを理解する上で
最低限の情報構成となっていますので、
できるだけ事前にオリジナルのSCP-7000報告書に目を通しておくことをお勧めします。
section1. 異常性を自覚している職員への申出勧告
まずは報告書最上部の勧告の箇所から。
内容はダン博士名義で、要約すると次のようなことが書いてあります。
- LK-クラス “運命の悪戯” 確率破綻シナリオが進行中だよ。
- 異常性を自覚している職員は特別に記憶処理も収容も終了も免除するから速やかに申し出てね
最初にこれだけ見ても意味不明ですが、
報告書を読んでいくうちに
「あれはそういうことだったのね」と
自然に理解できる様になっています。
section2. 特別収容プロトコル
SCP-7000の特別収容プロトコル。
いろいろ書かれていますが要約すると、
次のようなことが書かれています。
- SCP-7000の収容業務はETTRAの管轄下にあるよ。他の職員は収容しようとしちゃダメよ
- "確率指数"なるものが4.9以上の作業は許可なしにやっちゃダメよ。
- SCP-7000が引き起こした影響は毎日公開するから他のどんな仕事より優先してチェックしろよ。
- SCP-7000-1は重要度じゃないから収容とかしなくていいよ。
ここまで読んでもまだあまり全容が見えてきませんが、
3の内容から財団にとってかなりヤバい状況であることは察せられます。
section3. 説明
SCP-7000とSCP-7000-1の説明。
要約すると、
次のようなことが書かれています。
- SCP-7000は確率に関する異常だよ
- SCP-7000の影響は地球全体に及んでいるよ
- 放っておくと財団の存在が一般社会にバレるリスクがあるよ
- 原因は今の所不明だよ
次にSCP-7000-1の説明には要約すると、
次のようなことが書かれています。
- SCP-7000-1は現在サイト-43再現研究セクションの副議長を務めている54歳の白人男性、ウィリアム・ウォレス・ウェトル博士だよ
- ウェトル博士がSCP-7000に関連していることは、レベル4の機密事項だよ
ここまでの情報で、SCP-7000が
世界規模で「確率」に影響を及ぼす異常で、
そのために財団の秘匿性に
危機が迫りつつあることがわかります。
section4. 資格情報の確認
要旨は単純明快。
この先は高レベルの機密情報だから適切な資格のないやつには見せんよ。それでも無断でアクセスしたら◯すね、と書かれています。
この警告は同時に、この先に財団にとって
一般職員に知られては困る情報が含まれていることをも意味しています。
section5. SCP-7000のせいでどんなことが起きているのか
SCP-7000の影響で発生した
「統計的にあり得ない事象」の例として、以下のような事象が報告されています。
- カオス・インサージェンシーのスパイが巨大な雹に打たれ気絶、財団に捕獲された。
- 既存の全ての暗号通貨市場の唐突かつ全面的な破綻。
- 完璧な乱数を作るために利用されている自然界の大気中に含まれる無線雑音の変換結果が、1,2,3,4...といった具合にあからさまな規則性を見せるようになった。
- SCP-179(太陽の姉妹サウエルスエソル。太陽の近くに浮かんでいるめちゃくちゃでかい女性方アノマリー。人類の危機を指差して教えてくれる。)の腕が8本にふえ、8方向を指差した
- 100年以上静かだったイエローストーン国立公園の間欠泉が30分おきに噴出するようになった。
この事例紹介は今後も定期的に報告書中に登場します。
section6. ソコルスキー博士、ウェトル博士にインタビューをする
section1の勧告に応じた、
自分が異常だと自覚する職員の一人に
サイト-43のウェトル博士がいました。
ソコルスキー博士はインタビューを実施し、
その中でウェトル博士は自分が異常なまでに不幸な人間であることを明かし
さらにコイントスや数当てで、実際に自分の予想が外れることを実演してみせます。
ソコルスキー博士はSCP-7000で確率破綻が起きているにもかかわらず
ウェトル博士の「予想を外す確率」に変化が生じていないことに着目。
ウェトル博士彼が唯一SCP-7000の影響を受けない
例外的な存在なのではないかという疑いを持ちました。
section7. ウェトル博士の関係者へのインタビュー
ソコルスキー博士はウェトル博士の特性をより正確に理解する目的で
ウェトル博士と関わりの深い(or深かった)人たちへのインタビューを実施しました。
インタビュー対象と会話中の要点は
登場人物紹介の項に
概ね記載ずみなのでそちらをご参照ください。
section8. ダン博士、オペレーション・ブラックスワンをO5評議会に提案する
ソコルスキー博士はインタビューを通じて
ウェトル博士が「周囲の不幸を吸い取って自分で身代わりになる」
性質を有しているとの仮説を立てたソコルスキー博士は
それをETTRA管理官のダン博士に伝えます。
ダン博士はこれを受け、
O5評議会にソコルスキー博士の考えを伝え、
さらにそれを証明する方法としてオペレーション・ブラックスワンを提案しました。
この提案に対しO5は
賛成9、反対2、棄権2で実施を許可しています。
section9. オペレーション・ブラックスワン
オペレーション・ブラックスワンの実施にあたって
まず成績優秀な5名のエージェントによる
機動部隊シータ-7000 (“フォーチュネイト・サンズ”)が結成され、
後からそこへウェトル博士が加わることとなりました。
機動部隊シータ-7000の初任務となった
カオス・インサージェンシーの基地掃討作戦にてウェトル博士は
屋根を踏み抜いて落下するわ、両足首を捻るわ、
階段の手すりに引っ掛かってズボンがずり落ちるわと散々な目に遭いますが、
作戦自体は不自然なほどの幸運が続き、
誰一人(ウェトル博士以外)負傷せず任務を完遂します。
この結果を受け、ウェトル博士は(本人の意思に反して)
機動部隊シータ-7000として続投することが決定しました。
section10. ウェトル博士の更なる任務
報告書中にはウェトル博士が参加した
他の作戦の詳細もいくつか記録されていました。
作戦 Θ-7000-4
蛇の手のエージェントによる、
前哨基地-316のDeepwellシステムへの攻撃。
作戦自体は成功しましたが、
ウェトル博士はさまざまな軽傷を負うこととなりました。
- 足指の打撲 (2)
- 歯の破損 (1)
- 鎖骨骨折 (1)
- 指爪の破損 (7)
- 椎間板ヘルニア (2)
また、ウェトル博士が反抗的な態度をとりだしたことから
事後担当報告官兼なだめ役として今回より
ルブラン研究員がシータ-7000に加わっています。
作戦 Θ-7000-7
異常事件課の専門家による
スリー・ポートランドのフリーポート地区に仕掛けられた
即席魔術核爆弾の解除任務。
結果から言うと、起爆スイッチの役割を果たしていた3匹のハエを
ウェトル博士が偶然飲み込んだことで爆発は阻止されました。
作戦 Θ-7000-13
O5評議会メンバーをアジア亜大陸の機密指定された場所へ護送する任務。
作戦は成功しましたが、その過程でウェトル博士が
下半身関係で何やら不名誉な状況に追い込まれたらしきことが匂わされています。
作戦 Θ-7000-27
民族音楽祭が開催中のオーストラリアの街に
サイト-45で収容違反したSCP-682(不死身の爬虫類)が接近した事案。
SCP-682は音楽祭会場の100m以内にまで接近したが
その時の民間人の注意が
ウェトル博士と野良カンガルーの格闘に引き付けられていたことで
大規模な記憶処置の必要もなく収容作業はスムーズに終了しました。
ちなみにこの時のウェトル博士の勇姿は
「カンガルーにぶちのめされる太った間抜け(意訳)」
という題名でYoutubeに投稿され、プチバズりしました。
この時点で忍耐の限界を超えたウェトル博士は
作戦終了後にルブラン研究員と口論になり、
その結果ルブラン研究員はΘ-7000を解任されてしまいます。
section11. カオス・インサージェンシーがO5評議会と通信する
O5評議会に
カオス・インサージェンシー(以下CI)のエンジニアからビデオ通話で連絡が入る。
エンジニアは「事前に送ったメッセージの返答を聞かせろ」と迫るものの
O5側はそんなメッセージを受け取った覚えはないと言う。
実際のところCI側は1ヶ月ほど前に
確かに偽装IPアドレスを通じてメッセージを送っていたのですが、
無作為に選んだはずのIPアドレスが"不運にも"
別件でウィルス攻撃に利用されていたアドレスと一致していたために
未読のまま削除されてしまっていたのでした。
O5から事情を知らされたCIのエンジニアはカッコつけた手前バツが悪そうにメッセージを再送する。
改めて送られてきたメッセージの内容は簡潔にいうと
「地球上の運命を制御するやばい装置を開発したから、
これを使われたくなければ財団をCIに明け渡せ」という脅迫だった。
しかし、添付されていた件の装置だという画像は
無関係な大型ハドロン衝突型加速器のCMSミューオン検出器の画像を
流用したものだということが財団側のAI解析によって速攻でバレてしまい、
一連の脅迫劇はCIが自分達の間抜けさと
追い詰められっぷりを財団に露呈しただけの結果に終わる。
O5は最終的に、CIの脅迫を
無視することを決定したのであった…
section12. ルブラン研究員、ウェトル博士の両親を訪ねる。
シータ-7000から外されたルブラン研究員は
独断で真相を調べるためにウェトル博士の老父母の家を訪問しました。
二人は、ウェトル博士が12歳の頃に
母の方が医者からもう助からないと言われる状態の肺がんとなったこと、
それを知った少年時代のウェトル博士が夜通し祈り始めるようになったこと、
それから母が一命を取り留めたことを明かします。
インタビュー後、サイト-43に戻ったルブラン研究員は
何かを察したらしくウェトル博士に連絡を取ろうとしますが
ウェトル博士は話を聞こうともしませんでした。
section13. ウェトル博士の脱走。
シータ-7000の68回目の任務を終えた後、
ウェトル博士はとうとう職務放棄して脱走を図ります。
持ち前の不運もあり、ウェトル博士はすぐに確保されましたが
短い脱走中にメッセージの録画を行なっていました。
録画内容の大半は
現状と自分の不幸体質についての愚痴だったものの
中には決意めいた意味深な発言も散見されます。
ウェトル博士: 私は54歳だが… いつからだろう。人生の大半を1つの冗談として生きてきた。
もううんざりだ。身勝手なのは承知しているが、君たちには私抜きでこの騒動を収める手段を見つけてもらいたい。
私は自分にできる唯一の事をする — この手で全てを終わらせる。
ともあれ捕獲されたウェトル博士は
以後ETTRAの拘留下におかれることとなります。
section14. ダン博士とウェトル博士がSCP-179について会話する。
拘留中のウェトル博士のもとへダン博士が訪れ、
SCP-179(太陽の姉妹サウエルスエソル)のリアルタイム映像を見せました。
SCP-179には人類に迫る宇宙からの脅威の
位置を指し示す特性があるのですが、
映像中のSCP-179の手は8本に増えていて、
それらが車輪のように等間隔に別々の方向を指し示しています。
ダン博士がウェトル博士に手を振るように促すと、
SCP-179はまるでそれに反応したかのように8本の手を振りかえしました。
---
SCP-179を通じて、ウェトル博士の特別性を再確認するセクション。
ここでダン博士はラストネームを
必ず黒塗りにする自身の習慣をウェトル博士に教えていますが、
このことは後ほどちょっとした伏線になるので覚えておくと吉です。
section15. ルブラン研究員がウェトル博士の元を訪れる。
ある日の晩、ウェトル博士の非協力的な態度に
業を煮やしたルブラン研究員が宿舎を訪れました。
ルブラン研究員は
自分がウェトル博士の両親に会ってきたことを伝え、
さらに財団の監視カメラに映らないように注意しながら
何事かをウェトル博士に伝えます。
それを聞いたウェトル博士は興奮した様子になり、
部屋の中を数時間もの間うろうろと歩き回り続けました。
section16. ウェトル博士が何かを決意する。
ルブラン研究員が帰った後、
ウェトル博士は深夜遅くまで寝られずにいました。
ベッドに横たわりながら、
「そんなに単純なはずがない。」
「まさかな… そんなに単純なはずがない。あり得ない…」
と何度も呟く様子が監視カメラに収められています。
その後、49分間にわたって天井を見続けた後
ウェトル博士は見えない何かに向かって語りかけ始めました。
ウェトル博士: さて、私に何を言わせたいのかね? 教訓を学びましたとか? それとも、人情の温かみにすっかり満たされましたとでも? くたばれバカ野郎。永久にくたばれ。
<録音上に沈黙。>
ウェトル博士: [聞き取れない声]
<録音上に沈黙。>
ウェトル博士: [聞き取れない声]
<録音上に沈黙。>
ウェトル博士: 聞こえただろうな?!
<照明器具が天井から外れて落下し、ベッドフレームに当たって火花を散らしながら砕け散る。>
ウェトル博士: そうか、聞こえたんだな。
<ベッドシーツに火が付く。>
この翌日、ウェトル博士は任務に復帰しました。
シータ-7000の隊長はその時のウェトル博士について
“清々しい雰囲気で、それでいて悲しげで、しかし何よりもまず少しドヤ顔だったが、理由は良く分からなかった”とコメントしている。
---
物語の一大転機となる重要なセクション。
ルブラン研究員との会話がきっかけになっていること、
ウェトル博士が聞き取れない声で何かを喋っていたこと、
シータ-7000復帰後のウェトル博士が不自然な態度をとっていたことに注目。
section16. SCP-7000による確率破綻現象が終息する。
ルブラン研究員がウェトル博士の元を訪れた翌日から、
SCP-7000による確率破綻現象の深刻度が突如として低下し始めました。
SCP-179を含め、それまで
異常な振る舞いを見せていたアノマリーも
ことごとく本来の活動を再会。
また、カオス・インサージェンシーの
降伏と離反が相次いだことも言及されています。
section17. ウェトル博士がダン博士と再会する。
SCP-7000事案が終息した日の夜、
財団運営のパブでダン博士はウェトル博士と遭遇します。
ダン博士はSCP-7000が解決した理由について自分の見解を述べたものの
ウェトル博士はそれが誤った推測であると切り捨てます。
ウェトル博士から真実を明かされたダン博士は
一本取られたことを認め、友情の証として
隠していた自分のラストネームウェトル博士に明かしました。
その後、パブにブランク博士とルブラン研究員が合流し、
4人は誰がビールを奢るかを"コイントスで"決めることにします。
---
本報告書最大のネタバラシにあたるセクション。
ここで重要なのは、ダン博士(と読者)がそれまで考えていた
SCP-7000の発生メカニズムが実は間違いだったと言う点です。
ダン博士の見立てでは、
世界が突然滅茶苦茶になった原因は
ウェトル博士が社会の中で何者にもなれない現状に
満足してしまったことにありました。
ウェトル博士には母が肺がんになった少年時代のあの日から
自分が望むのと正反対の方向に事態が進むという不幸の異常性が備わっていて、
そのためにウェトル博士が望まない形で
重要な存在となるような大騒動(SCP-7000)が引き起こされたのだと。
そしてそれを踏まえて、
ダン博士はウェトル博士をヒーローに仕立て上げる目的で
オペレーションブラックスワンを提案したのでした。
なぜなら、ウェトル博士が
「SCP-7000の状況下でヒーローとして扱われる自分」
に満足すれば、不幸の法則によりその前提条件となる
SCP-7000の異常現象が終息すると予想したからです。
そして実際にSCP-7000が終息したので
ダン博士は自分の描いたシナリオ通りに
まんまとウェトル博士がヒーロー願望を
抱いてくれたのだと思い込んでいたわけですね。
しかし、ウェトル博士は
それは真相ではないと否定しました。
実際のところ、ウェトル博士が
不幸体質となってしまったのは不可抗力ではなく、
なんらかの頂上的な存在(便宜上「宇宙」とする)と
母が肺癌だと知った少年時代のあの日に
自発的に契約を結んだからであり、
加えてその存在とは今なお交信が可能であるというのです。
ルブラン研究員: 彼が何と言ったか覚えていますか?
ミンディ・ウェトル: 今まさに聞こえる。
こう言ってるわ、“何でも好きなものを持ってっていい。
僕のものは全部取り上げていい。友達がみんないなくなってもいい。
チャンスだって全部あげるよ、良いものは何もかも持ってって仕舞い込んでいいよ… だから…”<録音上に沈黙。>
ミンディ・ウェトル: “…母さんを連れていかないで。”
<サイモン・ウェトルが妻の肩に手を乗せる。>
ミンディ・ウェトル: “僕の父さん母さんを傷付けないで。代わりに好きなだけ長く僕を痛めつけていい。僕は耐えられるから。約束する。お願い。”
ルブラン研究員: そんな。
ウェトル博士が宇宙と初めて交信したのは
母が末期の肺癌だと知った少年時代の時。
この時ウェトル少年は
宇宙に対し、「自分はとことん不幸になってもいいから
母の命は助けてほしい」という契約を持ちかけ、
実際にそのようになりました。
もっともウェトル博士に
この時自分がそのような契約を結んだという記憶はなかったようで、
少年時代の祈りと自身の不幸体質との因果関係に
自覚を持つことは長らくありませんでした。
それから不幸尽くしの人生を歩んだウェトル博士が
次に宇宙と交信したのはSCP-7000が発生する直前のこと。
とことん惨めな気持ちになり、
泥酔していたその日のウェトル博士は
酔った弾みで再び宇宙と交信し、
今度は「自分の人生を変えてくれ」と要請していたのでした。
ウェトル博士: 何かが聞き届けて、申し出に応じた。
その後数十年間、そいつは順調に楽しんでいたが…ああ、君は1つ正しい事を言ったな。
私以外の皆が前進し、上昇していった。
私以外の皆の人生に変化があった。
私はそれが欲しかった。
それが必要だった。そして、また別の記憶に残らない夜に、生酔いし、下着姿で寮のソファに寝転がった私は、声に出して変化を求めたんだ。
友達が監視映像を確認しようと考え付くまで、私は思い出しもしなかったよ。
そして宇宙はその祈りを再び聞き入れ、
SCP-7000を引き起こし、
最悪の形でウェトル博士を重要人物に変えたのでした。
ちなみにこの時ウェトル博士は泥酔していたので
自分が何を話したかを覚えておらず、
SCP-7000が起きた時にも
自分の意志でそれを起こしたとは微塵も考えていませんでした。
そんなウェトル博士に自覚を与えたのは、
あのルブラン研究員でした。
両親へのインタビューから
ウェトル博士自身こそが
SCP-7000を引き起こしたのだという
結論に至ったルブラン研究員は
宿舎を訪れたあの日の夜に
ウェトル博士に全ての真相を伝えていたのでした。
自分がSCP-7000を引き起こしたこと、
そして、それだけの力を持った存在に要請ができることを知ったウェトル博士は
時間をかけてその事実を飲み込んだ上で
それがまだ自分のことを見ていることを確認すると
3度目の要請を宇宙に伝えます。
それは、
この馬鹿げた事態を終わらせ、
何もかもを元の状態に戻すこと。
自分を再び、ヒーローではない、
ただの"バカで間抜けな"ウェトル博士に戻すことでした。
…かくして要求は聞き届けられ、
世界は正常性を取り戻した、というわけだったのです。
これらの事実を踏まえると、
最後にダン博士が自分の名前の秘密を明かしたことも
勇気ある決断を下したウェトル博士への
敬意の表れとして理解することができます。
section18. ダン博士がO5に最終報告をする。
全ての真相を知ったダン博士は
SCP-7000による確率破綻現象を説明する
カバーストーリーとして7000-D報告書をO5に提案します。
ダン博士はこの報告書の内容が
ウェトル博士に対する正当な功績を奪い取ることで
真実を知る少数の人々からウェトル博士に向けられる好意を相殺して、
新たな異常が起こることを防ぐ役割を果たすはずだと説明してO5を納得させました。
最終的にダン博士の提案はO5の投票で
賛成11、棄権2で採用されることとなりました。
section19. SCP-7000-D報告書
ダン博士の作成したSCP-7000-D報告書には、
section11でCIが送ってきた検出器の画像が添付されています。
ダン博士は、SCP-7000の確率破綻の原因が
CIの秘密兵器によるものであり、
最後には財団によって阻止されたというシナリオを描いたのでした。
section20. 全ての結末。新たなSCP-7000報告書
報告書の最後には、ダン博士の手によって作成された
新しいバージョンのSCP-7000報告書が掲載されています。
特別収容プロトコル: SCP-7000は自らの収容責任を負います。
当該アノマリーに関わる実験は、緊急時脅威戦術対応機構、またはSCP-7000自身の明示的な同意が無い限り許可されません。SCP-7000とSCP-7000-Dの間に関連性はありません。
説明: SCP-7000は、周辺の不運を自分自身 — サイト-43再現研究セクションの副議長、ウィリアム・ウォレス・ウェトル博士 — に集約させる確率シンクです。
---
ダン博士の決定は結果的に
ウェトル博士が人類を救ったという功績を奪い去る形になりましたが
その代わりにダン博士はサイト-43再現研究セクションの副議長の立場と
かけがえのない真の友人を得ることができました。
相変わらずピンボケしている写真と
そこに映るダン博士、ルブラン、オコナー両研究員の表情が
振り出しに戻ったはずのダン博士の幸福を象徴しているようです。
感想とトリビア
ここまで、要点に絞って
駆け足気味に本報告書のあらすじを追いました。
何をやってもうまくいかず
誰からも認められていなかった男が、
実は誰よりも自己犠牲的な精神な持ち主で、
最後には数少ない友人の支えのもと
自ら負け犬になることで世界を救ったストーリーに胸打たれたのは
きっと私だけではないと思います。
全てが終わった後、
ウェトル博士の身の回りは一見何もかもが元に戻ったかのように見えて、
その裏では心から信頼できる友と自分の居場所を手に入れている点もエモいですね。
「運」というテーマもよく活かされていて、
これがコンテストを勝ち抜き、
SCP-7000報告書に選ばれた事も十分すぎるほどの完成度でした。
一方で、SCP-7000の本来の性質を考えると
状況は実際のところかなりの綱渡りだったのでは無いかと思います。
なぜなら、もしウェトル博士が自分の力に気づいていて
なおかつ彼が悪人だったり、善人であっても魔が差すようなことがあれば
宇宙に要請して今度こそ本当に世界を滅ぼしていてもおかしくはなかったからです。
そうなら買ったのはひとえに、
ウェトル博士が並外れた善人で、
そこに加えてルブラン研究員をはじめとする
善良な友人がそばにいてくれたからこそでしょう。
そう考えると今回の事件は、
ウェトル博士だけでなく
その周囲の人々も含めたチームとしての
勝利でもあったと言えるのではないでしょうか。
…と、なんとなくいい感じに話がまとまったところで、
最後にもしかすると疑問に思っている人がいそうなポイントと
本報告書についてのちょっとしたトリビアをご紹介して
本日の記事は終わりとしたいと思います。
ご興味があれば、もう少しだけお付き合いください。
SCP-7000報告書の写真がいくつかピンボケしているのはなぜ?
- ピンボケしている写真は主にウェトルの自撮り
- ウェトル博士がすることはなんでも必ず上手くいかない
この2点を結び合わせれば、答えは自ずと見えてくるはず…
ウェトル博士のキャラクターについて
ウェトル博士のキャラクターは
この報告書が初でではなく、
SCP-6306やSCP-6832、
S & Cプラスチックハブなどにも
やはり何かとドジをやらかす人物として登場しています。
これらの物語を読んでいなくても
本報告書を読む上で支障はありませんが
SCP-7000を読んでウェトル博士に興味が湧いたのならば
彼の物語をさらに深掘りしてみるのも面白いでしょう。