はじめに
こんにちは、daimaです。
みなさんいかがお過ごしでしょうか。
ここ最近コロナだの不況だのと憂鬱なニュースばかりで
何かと気持ちが暗くなって仕方がないですよね。
そこで本日はそんな世知辛い日々に少しでも癒しを与えるために
「動物をモチーフとしたSCP」特集を合計7編でお届けしたいと思います。
可愛い動物たちに思いっきり癒されちゃってください。
それではどうぞ!
SCP-1845「野生の王国」
▲アメリカアカギツネ(by National Park Servise)
先行調査隊は顔に戦化粧を施したアライグマ、アヒル、リス、ノラネコからなるグループに悪意ある攻撃を受け、退却を余儀なくされました。
オブジェクトクラス: Safe
まず最初にご紹介するのは
種の壁を超えてまるで人間のような
共同生活を営む不思議な動物たちに関する報告書です。
キツネの王様と敬虔な臣民たち
冒頭で触れたしたように
SCP-1845に指定された動物は全て
人間と同じような知性を有し、
共に秩序ある共同生活を行なっているのですが
彼らの作る社会にはある一つの興味深い特徴があります。
それは彼らの社会が人間社会における
中世ヨーロッパの封建制度に非常に似た
階級構造を有していることです。
以下にSCP-1845の各階級に所属している動物のリストを示します。
・雄のアメリカアカギツネ(Vulpes vulpes fulvus)1匹。20██年に財団により回収された時点でおよそ3歳。SCP-1845-1とする。
・ジャコウネズミ14匹、カモ12羽、ハクトウワシ6羽の、シカ2頭、ノラネコ3匹、オオカミ2頭とカラス2羽。SCP-1845-2とする。
・ハト26羽、アメリカライオン16頭、リス12匹、ヒツジ11頭、アメリカグマ8頭、アライグマ6匹とベンガルトラ1頭。SCP-1845-3とする。
ご覧のようにSCP-1845にはSCP-1845-1、
SCP-1845-2、SCP-1845-3の3つの階級があり、
これらの階級はそのまま彼らの社会における
役割の違いにも繋がっています。
まずSCP-1845-3は封建社会でいう
農民(農奴)、あるいは庶民に当たる階級であり、
この階級に属する動物はSCP-1845-2の監督のもと、
道具の作成や食料の収集、土塁の建設など
比較的熟練を必要としない仕事に従事します。
次にSCP-1845-2は封建社会における
騎士、あるいは貴族階級に相当し、
SCP-1845-1から受けた指示に基づいて
SCP-1845-3を動かす役割を担っています。
そして最後にSCP-1845社会の頂点であるSCP-1845-1は
封建社会における君主や国王の地位に相当し、
後述する宗教的な儀式を取り行ったり
SCP-1845の代表として外部団体との交渉を行うなどの
最も重要な役割を担っています。
また全動物の中で唯一SCP-1845-1に所属している
一匹のアメリカアカギツネは自らについて次のように語っています。
1845-1は王家の出自であると主張し、次の称号を自称しています。
「神に選ばれた国王ユージェニオ2世陛下、森の王、平野の主、オオモミと下草の公爵、沼地の伯爵、██ ███████の辺境伯、すべての小川と大河の番人、都市の護衛卿、そして信仰の守護者」
気取ったレストランの料理名ばりに仰々しい肩書きですね。
なおここで出てくる「神に選ばれた」というフレーズは
後述するSCP-1845社会のもう一つの特徴にも深く関係してきます。
リストに感じる不自然さ
さて、上記のリストを一望してみると
いくつか違和感を感じるポイントがあったかと思います。
そして恐らくその一つは
力の強いライオンやトラが最も下の階級に属し、
逆にそれよりずっと力の弱いキツネが
最上位の階級に位置しているという
弱肉強食のシステムに反した階級分けでしょう。
それに猫と鼠、狼と羊のように
本来捕食者、被捕食者の関係にある動物同士が
一つの同じ社会に共存しているというのも
通常であればありえない話です。
報告書内でこれらの疑問に対する答えを探した時
ひとつの理由として考えられるのが、
SCP-1845社会が「力」よりも
「血統」を重んじていると思われる点です。
その一例としてはまず
先述したSCP-1845-1の長い肩書きがそうですし、
SCP-1845-2に属するメンバーについても
SCP-1845-1が彼らを「伯爵」や「騎士」などの
称号で読んでいる描写があることから
やはり彼らもまた何らかの高貴な血統に属するものと推測されます。
人の作った神を信じる獣たち
彼らの社会を語る上でもう一つ外せないのが
彼らが信仰しているある宗教です。
SCP-1845-1は自身と支持者をローマカトリック教徒としており、非常に厳格な信仰を持っている様子が観察されています。録画記録によると食事の場面、休日、聖人の祝日において礼拝が確認されました。信仰心の不足が認められたメンバーを罰するよう命じている場面も確認されました。
そう、なんと彼らはみな私たちがよく知るあのキリスト教、
それも伝統的なカトリック派のキリスト教に
深く傾倒しているというのです。
報告書には彼らが自分たちの巣穴に十字架を飾ったり
ロザリオを身につけたり、クリスマスを祝ったりといった
キリスト教徒的な習慣があることが記されており
他にももしメンバーの信仰心の不足が認められた場合は
厳しい処罰が要求されることなどが記されています。
SCP-1845の発見
報告書中にはSCP-1845が最初に
財団に確認された時の状況についても記録されています。
機動部隊σ-853("野良犬捕獲選抜隊")が派遣され、種族によって2つのグループに分かれた動物達が赤と黒の塗料をまとい、互いに”戦争状態”となっている状態を発見しました。
戦場は██████████の数百平方キロメートルにわたる範囲と███████および██████の都市部に広がりを見せていました。SCP-1845-1は赤ペイント軍を指揮していました。
機動部隊σ-853は両軍の”会戦”に参戦し、SCP-1845と非殺傷兵器で交戦しました。
上記抜粋文の通り、発見時のSCP-1845は
別の知性ある動物たちのグループと「戦争」を繰り広げていて
そこに横から参戦した財団がSCP-1845のグループを
「捕虜」として収容したのが事の成り行きだったわけですね。
ちなみにこの時SCP-1845の相手側の陣営のリーダーだったのが
”バクスター西湾伯爵”の称号を持つコロンビアミュールジカで、
SCP-1845-1は彼のことを次のように評しています。
SCP-1845-1はバクスター伯爵について、辛辣な態度で次のように語りました。
”きわめて無頼な簒奪者、悪漢、そしてプロテスタントである”。SCP-1845-1はバクスター伯爵が”魔術を用いて偽りの告発を行い、王妃殿下を暗殺し、█████ █████王子と我らの王家の子女を誘拐した”と主張し、多くの貴族と農民が伯爵に反発するようになったと述べました。
宗教対立まで人間のそれと全く同じとは、
ここまでくるとなんだか笑えてきますね。
また、このセクションからはSCP-1845を含む動物たちが
知性を獲得した原因についてもそれとなく言及されています。
報道機関に潜伏する財団職員の工作により、動物達の異常行動と攻撃性は█████ █████で起きた化学物質の流出が原因とされました。
正直ただの化学物質で
これほど急激な変化が起きるとは思えませんが
もしかしたらこの工場自体も別の
アノマリーだった可能性があるかもしれませんね。
例の「ファクトリー※」ではありませんが。
(※SCP-001「ジム・ノースの提言」を参照)
SCP-1845-1の要求
報告書の最後にはSCP-1845-1が
財団に対して行なった要求のリストが掲載されており、
これがまたツッコミ甲斐のある面白い内容となっています。
全て書き出すと長くなるので
詳細は報告書内にてご確認いただきたいと思いますが
個人的に一番面白いと思った要求だけ一点ご紹介してみます。
O5-█の娘との政略結婚。却下。
O5-█の娘さん、却下されて本当に良かったですね。
感想
人間の言葉を話す動物というのは
あまりにありふれたアイディアですが、
本報告書はその凡庸なアイディアを
「中世ヨーロッパスタイルの共同体を作る動物たち」
という斬新な味付けと、練り込まれた詳細なディティールで
私たちの心を惹きつける魅力的な内容に仕上げてみせました。
しかし中でも特に秀逸だと思ったのは
SCP-1845-1に「キツネ」を持ってきた点です。
キツネといえばイソップ童話を始めとする
多くの物語で「悪知恵の回るキャラクター」
として描かれることも多い存在。
そしてそうしたパブリックイメージに則るならば
もしかしたらSCP-1845-1も本当は宗教など信じておらず
王様の地位を得るために人間の宗教を利用しただけだった、
というストーリーももしかしたらあり得るかもしれませんね。
SCP-2384 「 何物よりもデカき鴨」
▲SCP-2384の地上部
俺、デカいカモ ― 俺ボス。
一番デカいカモ、もっとデカくデカくなる。
パン、羽、翼、嘴、ここで全部。
マジかよ!?
オブジェクトクラス: Euclid
キツネの王様に続いてご紹介するSCPは
つぶらな瞳と丸っこい体がチャーミングな「鴨」です。
それではさっそく概要を見ていきましょう。
説明: SCP-2384は、脚部組織を地下9kmにわたって延伸させている、雄のマガモ(Anas platyrhynchos)に似た生物です。
この一見普通のカモにしか見えないオブジェクトの異常な点は、
それの両脚が植物の根のように地面深くに伸びていて、
しかも最長で地下9kmという想像を絶する深さにまで到達している点です。
地下9kmというのは、場所によっては
地球の地殻をも突き抜けてしまうほどの深さ※であり、
仮に突き抜けなくともマントルに接近することから
最下部の温度は300度近くに達するものと予想されます。
(※大陸部では平均30km〜40km、海洋部では約6km。)
SCP-2384のこの脚部組織の拡張はまず数本の“根”の形成から始まり、地下5kmの地点でより大規模な生物学的構造物と合体しています。SCP-2384は、この成長部位や、その存在によって自身が移動できないことに苦痛を感じていないようです。
SCP-2384は老化しないように思われますが、栄養物を必要とする様子は示しています。
SCP-2384の地下部は、典型的には、植物と動物の両方に関連する特徴を有します。
説明セクションをさらに読み進めていくと
SCP-2384が動物と植物両方の性質を有していることが分かります。
鳥と哺乳類の中間ならばカモノハシの例がありますが
動物と植物の中間の生物など前例がありません。
また上述した「大規模な生物学的構造物」については
その内部についてより詳細な記述がなされています。
- 5cm~56cmの間の長さの羽根で全体が構成されたトンネル状の構造。
- 芽のような成長部位。採取されたサンプルは、カモの骨で形成されていると断定された。
- 蔓状の構造。
- 数種類のカモの嘴部分の組織で構成された領域。
- 大量のカモの舌を内包している、脈動する膜組織。
- 肝臓や心臓などの臓器に類似点を帯びている構造。
…読めば読むほど
頭の痛くなってくるオブジェクトですね。
1回目の探索ログ
財団は謎多きSCP-2384の実態を解明するために
合計三度に渡るSCP-2384の地下部への探索調査を実施しました。
調査ログは会話形式の読みやすい内容になっていますので
冒頭のリンクから実際に報告書を読んでいただくのが早いかと思いますが
時間がない人のために結論だけ書いておくと
最初の二回の実験に参加にしたDクラスは2名とも死亡しています。
(D-91883は凹みに手を伸ばすが、凹みは唐突に閉じてD-91883の腕を挟み込んだ。)
D-91883: 畜生! ヤベェ、捕まっちまった、離せ、離せ!
(D-91883の腕が解放され、彼は後ろに倒れ込む。)
█████博士: 無事か?
D-91883: いいや、ひでぇ痛みが刺しこんできやがる。
(カメラ映像が上方に移動。小さな球根構造が壁から出てくる。球根が開くと、その内部にD-91883の顔の複製物が露わになる。複製物はD-91883を数秒見つめた後、ガーガーと鳴き始める。)
D-91883: マジかよ!?
(この時点で、D-91883はSCP-2384から逃走した。更なる検査で、トンネルの一つにある似通った球根状構造から、生きたカモの頭も同様に突き出しているのが発見された。調査の結果、このカモの頭部状構築物は初歩的な英語を話し、簡潔な会話をすることが可能だと判明した2。構築物は以降、SCP-2384-1と呼称されている(インタビュー2384-1を参照)。)
1回目の実験に参加したDクラスの最後の応答記録。
実験担当者の指示でSCP-2384内部の
骨のようなアイテムを回収しようとしたところ攻撃を受けそのまま応答不能に。
█████博士: 直ちに帰還してくれ。
D-91885: ダメだ、貴方言ったじゃないか ― 僕が手助けをしてくれたら自由にしてやるってさ、だから大丈夫だよ。大丈夫、少し待ってくれ。
█████博士: D-91885、従わないようならお前の後ろから保安部隊を送り込まざるを得ない。直ちに帰還せよ。
D-91885: だからさぁ、落ち着いてってば。たかがアヒr―
(この時点で壁が開き、先端に嘴らしきものが付いた巻き髭が数本、D-91885を壁の裏にある小さなトンネルへと引きずり込む。急速に狭まってゆく空間に引き込まれたD-91885の絶叫と骨の折れる音が聞こえる。この段階でカメラは故障し、ビデオ映像は途絶した。数分後、SCP-2384の地上部はD-91885の声で数秒間絶叫した後、咳と共にヒトの歯を2本吐き出した。DNA検査でこれらの歯はD-91885に属するものと特定された。
SCP-2384から研究用試料を除去する試みは、現在明確に禁止されている。)
2回目の実験に参加したDクラスの最後の応答記録。
こちらでは実験担当者が静止したにも関わらず
アイテムに手を伸ばしたことで攻撃を受けています。
そして、以下に示すのがこれらの結果を踏まえて
スピーカ付きの無人探査機で行われた3回目の探索ログです。
質問者: █████博士回答者: SCP-2384-1
インタビューは探査無人機の付属スピーカーを介して行われた。
█████博士: あー、どうもこんにちは! 私の声が聞こえるかね?
SCP-2384-1: 俺カモ。
█████博士: ああ、どうやらそうらしいな。
SCP-2384-1: カモ、カモ。羽、翼、なぁ? あいよ、了解。ここで全部。パン。
█████博士: えー…パンが欲しいのか? 食べ物が要るのか?
SCP-2384-1: ああ、ああ、カモ。オーケイ、分かった。ああ。赤いパン、パン肉。おくれよおくれよ。俺カモ、パンおくれよ。
█████博士: 君は…君は今の、その、状況を分かっているのかね?
SCP-2384-1: 俺カモ。
█████博士: ああ、それは分かる、理解できる ― だが、君のほうは自分が今、壁から生えていることを理解しているのか?
SCP-2384-1: 俺、デカいカモ ― 俺ボス。一番デカいカモ、もっとデカくデカくなる。パン、羽、翼、嘴、ここで全部。マジかよ!?
█████博士: 何か問題でもあったか?
SCP-2384-1: マジかよ!? マジかよ!? マジカモ!? マジカモ!? 俺カモ。
(SCP-2384-1は数分間笑い続けた後、息絶えて壁の中へと吸収されていった。)
…これは一体なんなのでしょうか?
断片的な内容からSCP-2384が
犠牲となったDクラスの知性を取り込んだことが推測されますが
その発言は支離滅裂で全く要領を得ません。
報告書はここで終わっており、
SCP-2384の目的も正体も不明のままですが
ただひとつ確実に言えることはもし私がDクラスになっても
この中にだけは絶対足を踏み入れたくないということですね。
感想
草むらに立っているカモの写真を見て、
「もしこいつの足が地面に埋まってたら面白いだろうな」と
思える発想力も大概ですが、そこから
ここまで不気味なホラーを生み出す想像力も大したものです。
ちなみに元々「動物で癒されよう」という目的で始まった当記事ですが
紹介二作品目にして早くも「癒し」の部分は遥か彼方へすっ飛んで行ってしまいました。
とはいえ、ここまで来たらもう引き返すわけにもいかないので
めげずに次の報告書へと進むことにしましょう(ヤケクソ)
SCP-4974「ねずみSCP」
SCP-4974の実験や身体検査を行ういかなる人物も、
重度の感電を防ぐために全身保護具を装着しなくてはなりません。
オブジェクトクラス: Safe
続いてご紹介するSCPオブジェクトのモチーフは「ネズミ」。
しかもただのネズミではなく、
ネズミをモチーフとする世界的に有名な
あのキャラクターに深く関係するオブジェクトなのです。
説明
説明: SCP-4974は、メディアミックス作品「ポケットモンスター」のキャラクター、ピカチュウと審美的に同一の異常生物です。
日本が生んだゲーム界の大スターピカチュウ。
まさかのSCPワールドに降臨。
しかしこの時点ではまだ外見が似ているというだけで
これが本当に私たちの知る
あのピカチュウであるという保証はありません。
引き続き本オブジェクトの説明を読んでいきましょう。
外観検査によるとSCP-4974はげっ歯類に見えますが、内部検査によるとその身体は骨、筋肉、血液を含んでおらず、代わりに全体が海綿に似た密度と質感を持つ明るい黄色の物質で構成されています。
早速雲行きが怪しくなって参りました。
この説明を読む限りSCP-4974は
およそ真っ当な生き物とは言えない存在のようです。
ちなみに海面とはスポンジのことで、
卑近な例でいうと我々哺乳類のペ◯スも
海綿体と呼ばれるスポンジ状の組織構造を有しています。
収容中、以下のようなSCP-4974の行動が観察されています:
- 首を傾げて「ピカチュウ」と発語する。
- その場で飛び跳ねて「ピカチュウ」と発語、またその場で飛び跳ねる。
- 小さな円を描くように走る。
- 半径1メートルの範囲に、瞬間的に可変な強さで電場を発生させる。
中身はスポンジの塊でもここに示されている行動の数々は
まさに私たちがイメージするピカチュウそのものです。
とはいえ報告書は同時に
SCP-4974がこれらの行動のみをランダムに繰り返し、
自分の周囲の物事に対して全く反応を示さないなど
生き物というよりまるで何者かにプログラムされた
ロボットのような行動パターンを示していることも記録しています。
もし仮にSCP-4974が何者かによって作られた存在だとして、
一体誰が何の目的でそんなことをしたというのでしょうか?
熱狂的なピカチュウファン?
ワンダーテインメント博士のような愉快犯?
あるいは任◯堂が自社コンテンツを
さらに強力に宣伝するために秘密裏に作り出した新生物?
きになるその真相は
続く「発見」セクションにて明らかとなります。
全ての真相
発見セクションではSCP-4974が
ニューメキシコ州のある住宅で発見されたこと、
そして発見時の住宅内の様子が
次のようなものであったことが示されています。
- リビングに存在していた、地元の木工師ポール・テランスの死体。こめかみの銃創から死因は自殺と判断された。
- 家全体に存在していた、6個の破裂し少し焼け焦げた風船。検査により、「ハッピーバースデー」と書かれていたことがわかった。
- A.A.ギルフォードによる近代錬金術書『パラケルススの子孫』のコピー。この本は地下室で以下の3つの物質とともに発見された。
- 322個のゲームボーイソフト『ポケットモンスター ピカチュウ』のコピー。このうち61個は近くにあった乳鉢と乳棒によって部分的に粉塵にされていた。
- 前述の粉塵、分解された海綿、および人間の精液1で構成される混合物を含む6つの三角フラスコ。
- 3個の馬の子宮。うち2つには、SCP-4974の実例に似た奇形で不活発なオブジェクトが含まれていた。3つ目の子宮は空だった。
- 子供部屋に存在していた、ポール・テランスの8歳の息子、アダム・テランスの死体。死因は電流への暴露による心停止と判断された。
ここまでくればもうお分かりですね。
SCP-4974の正体はポール・テランスという一人の父親が
ポケモンファンである息子アダムの誕生日プレゼントとして
魔術的な方法で本物のピカチュウを作り出そうと結果の産物だったのです。
そしてこのリストは同時に
「ポールが苦心して創り出したピカチュウはアダムを感電死させ、
そのことで絶望したポールは間も無く拳銃自殺した」という、
あまりにも救いがない本事件の悲惨な顛末をも示唆しています。
息子を喜ばせたい父親の気持ちが
最悪の事態を引き起こした本報告書。
ここから学べる教訓は
もしピカチュウが欲しければ
怪しげな錬成術などに頼らずに
ゲーム内でモンスターボールを使って
ゲットしなさいということでしょうか。
感想
ピカチュウという誰もが
親しみを感じるキャラクターと
随所に出てくる性的なモチーフ、
そしてあまりにも悲惨な結末とのコントラストに
読んでいてなんとも言えない可笑しみを感じさせられました。
ところでSCP-4974は最初
地元の警察官によって回収されており、
その際に財団が適切な記憶処理を行なったと思われますが、
このオブジェクトに関しては特に部外秘を徹底すべきでしょう。
なにせ二次元のキャラクターを三次元に呼び出せる(かもしれない)
方法があるだなんて話が世間に広まれば
どんなリスクを負ってでもそれを実行しようという人が
出てくることは間違い無いでしょうからね…
SCP-3127「19歳のジェシカ・ランバートと異常な大きさの雌豚よ、永遠に」
わたしはとこ[原文ママ]にいるの
これをとめて
ブウ
オブジェクトクラス: Euclid
なんとも奇妙なタイトルが目を惹くこちらの報告書。
指定されているオブジェクトは
かつてアメリカのイリノイ州に住んでいた
ジェシカ・ランバートという19歳の女性(以下SCP-3127)です。
報告書にはSCP-3127がサイト-43内の
5メートル四方のチャンバーの中に収容されており、
常に保安職員2名の警護下に置かれた上で
セラピストによる定期的な精神艦艇が実施されていること、
そして実験以外では他の職員との物理的な接触が
一切認められていないことが説明されています。
これらの処置を見るに
彼女は何らかの危険な性質を有しているようですが
果たしてそれはどのようなものなのでしょうか?
結論
注意: あなたが閲覧中のファイルは旧版です。現在の収容プロトコルと概要は更新ログを参照してください。
上記抜粋文は報告書の一行目にある注意書きです。
この内容が指し示す通り
本報告書は古い版のものから新しい版のものへと
更新された内容を順に読み進めていく形式になっています。
そしてなぜそのような形式を取っているのかと言うと
それはSCP-3127の持つ異常性が時間の経過につれて
次々に変化するタイプのものであったからに他なりません。
引き続き、それぞれの版の概要を見ていきましょう。
最初の版(2016/12/10以前)
オブジェクトクラス: Euclid
超能力を持つとして連絡を取ってきた
少女に関するFBI異常事件課のやり取りを
財団エージェントが傍受した後に収容。
SCP-3127が自身と接触した人物に
SCP-3127の感情状態を伝染させる能力を持つことが確認される。
2015/11/19、財団がクロステスト目的で
SCP-3127を複数の異常物品に曝露させる。
2016/12/10、SCP-3127が監督スタッフに体調不良を訴え、
その後事前に妊娠の兆候が全くなかったにも関わらず
生きた雌の子豚を出産する。
(以降、このようなSCP-3127の
大幅な変化をモッカス・イベントと呼称する)
その後SCP-3127は緊急手術中に起こした合併症で死亡。
生まれた子豚も異常性を見せており現在分類待ち。
第二版 (2016/12/18〜)
オブジェクトクラス: Euclid
SCP-3127は故 ジェシカ・ランバートと
同一の外見をした人型実体で自身を1827年からやってきた
イザベラ・スタンフォードという養豚家だと自称している。
SCP-3127の体内には内臓の代わりに
様々な形状の家畜ブタに類似した生物が収まっており、
それらは実際には臓器の役目を果たさない
ことが明らかになっているにも関わらず
SCP-3127の健康状態には何ら問題が見られない。
SCP-3127は食事、水分補給、睡眠を必要とせず
またSCP-3127が触れた人間の内臓を
即材にSCP-3127自身のそれと同じ
ブタ型の生物群へ置換する異常性を有している。
しかしこの異常性は「ブタの内臓」で生きられる
性質までコピーするわけではなく、
対象となった人間は必然的に死亡し、
置換されたブタも2〜3分以内で全て死亡する。
2017/01/11、SCP-3127は体調不良を訴え
その1時間後に体内のブタ型生物を口から嘔吐した後に死亡。
その後吐き出されたブタ型生物群は互いに融合して
一頭の巨大な雄豚へと合体し、
これが新たなSCP-3127として指定される。
第三版 (2017/1/14〜)
オブジェクトクラス: Euclid
SCP-3127は知性のある巨大な雄ブタであり、
初期のジェシカ・ランバートと同じ声で会話できる能力を有している。
またSCP-3127は自分がジェシカ・ランバートの死体であると信じており、
しばしば既に死んでいると主張して埋葬を要求している。
SCP-3127の体内にはミニサイズの
ジェシカ・ランバートが多数収められており、
これらは絶えず叫び声をあげている。
SCP-3127の内臓の叫び声を聞いた人間は即座に
自分もまたジェシカ・ランバートの死体であると思い込み、
やはり埋葬を要求し始める。
この精神影響を逆転させる手段は見つかっていない。
2017/01/29、SCP-3127内の
ミニ・ジェシカ・ランバートが逃走を試み
その過程でSCP-3127の腹部を突き破り殺害。
その後脱走を図った内臓は全て死亡したものの
そのうち無傷だった内臓は3日をかけて巨大化。
最終的に家畜ブタとジェシカ・ランバートの
中間のような奇妙な生物の形状へと変化する。
第四版 (2017/2/02〜)
オブジェクトクラス: Euclid
SCP-3127は第三版で誕生した
家畜ブタとジェシカ・ランバートの中間生物で、
ハンドジェスチャーによる収容スタッフとの
コミュニケーションを図る様子が確認されているものの
絶えず叫び声を上げているため会話は不可能。
SCP-3127の叫び声を聞いた人間は
即座に19歳のジェシカ・ランバートと同じ姿の死体に変化する。
これらの死体は人間の外見にも関わらず
家畜ブタのそれと全く同じ遺伝情報を有している。
この状態のSCP-3127に対しては何度か
非言語的なインタビューが試みられており、
それによるとSCP-3127は自分が
ジェシカ・ランバートだと信じており、
また更なるモッカス・イベントの発生に
強い苦悩を感じていることが読み取れる。
以下はSCP-3127が研究スタッフに提出した
書面によるメッセージの内容
どうかこれを読んで書いてあることを実行してほしい、ただ“考慮します”と言うだけじゃなくて。
これはあなたたちのせいだ。
あなたたちはちょっとした変な物といくつか実験をすると言って何も起きなくて今の私はブタの化け物であなたたちはただ観察してクリップボードにそれを書き留めているだけじゃないか。
くたばれ。ごめんなさい。
お願いします、どうかお願いです、何とかしてください。
私はもう白分[原文ママ]が自分じゃないような気がするし、それが間違っているかどうかさえ分からない。
時々私は自分がブタじゃないことを忘れる。私を助けて
現在
オブジェクトクラス: Keter
SCP-3127はかつて研究基地33の名称で知られていた施設であり、
件のジェシカ・ランバートがここに運び込まれてきた
2017/02/21にそのサイズを維持したまま一頭の家畜ブタに変化した。
SCP-3127は出現した瞬間から
断続的にジェシカ・ランバートの声で叫び出し、
この叫び声を聞いたあらゆる生物は即座に
家畜ブタとジェシカ・ランバートの中間生物に変化する。
これらの生物には一般的な家畜ブタと同等の知性があると見られている。
SCP-3127の叫び声のパターン分析は
それがモールス符号と一致することを示しており、
この内容を解析したところ以下の内容が得られた。
わたしはとこ[原文ママ]にいるの
これをとめて
ブウ
感想
以上が本報告書の全容です。
最初はちょっとした無害な異常能力を持つだけだった19歳の少女が
財団の行った不用意なクロステストの結果、
読むだけでも気が変になりそうな
異常なブタの怪物に変貌してしまったというこの物語。
個人的には血が吹き出たり
腕が引きちぎられたりといった直接的なグロよりも
こういう「自分が自分で無くなる」タイプの話の方が
より強い恐怖を感じてしまいますね…
SCP-2845 「鹿神様」
続いてご紹介する動物は「鹿」です。
(※こちらの報告書ついては以下の記事で詳しく纏めていますので
お手数ですが以下より記事ページをご覧ください。)
SCP-1129-JP「フライング・アヒージョ」
はいはい。
オイラの名前わかったうえでそう呼ぶんだな、わかった受け入れてやるよ博士。
けどオイラの名前はアヒージョ、それは変わらないし譲らない。
これから喋る奴に毎回聞くからな?
答えられない奴とは口聞かねーからな?
オブジェクトクラス: Safe
本日最後にご紹介するのは日本支部より
空飛ぶカワウソにまつわる奇妙な物語です。
空飛ぶカワウソ
▲SCP-1129-JP
説明: SCP-1129-JPは航空機の操縦に関する知識を保有したカワウソ(Lutra lutra)です。全長40cm、体重4kg、生後3年ほどの個体であると推定されますが、その知能は人間の10代後半程度まで発達しており、キーボードのタイピングなどを用いて人間と意思の疎通が可能です。
この際SCP-1129-JPはカタルーニャ語によるアイデンティティを持つ人格を示します。SCP-1129-JPは自身を「アヒージョ」という名であると主張します。
まずは概要から。ざっくり言うとSCP-1129-JPは
「カタルーニャ※語で会話ができる、アヒージョという名前のカワウソ」です。
(スペイン東部のカタルーニャ州に居住しているカタルーニャ人の言語)
そしてこのカワウソ、人語を扱えるのみならず、
なぜか航空機の操縦スキルまで有しています。
(理由は後々判明しますが)
しかし飛行機を操縦するカワウソだなんて、
想像するちなんともメルヘンチックな絵面ですね。
いよいよ「癒されるSCPオブジェクトの紹介」
という当初の目的を果たせそうな予感がしてきましたよ。
SCP-1129-JP-1
続いて、SCP-1129-JP-1(アヒージョの乗っていた航空機)の概要です。
▲SCP-1129-JP-1
SCP-1129-JP-1はSCP-1129-JPが機体を操縦するための異常な改造が施された航空機です。特筆すべき点として、20もの未知の機関が増設されているほか、動力にガソリンを必要とするにもかかわらず、排気機構が存在せず、また給油機構に隣接して真水(H2O)の注入口が存在しています。また、コックピット内にはスプリンクラーが設置されており、操縦者であるSCP-1129-JPが操作することにより内部に水を散布し、水浴びが可能な構造になっています。このためコックピット内は徹底した防水加工が施されています。
SCP-1129-JP-1は外見は通常の小型航空機と大差ありませんが
内部構造には上記のような特殊性が認められます。
また報告書にはある日この小型航空機が
日本のサイト-8181の上空に突如出現した後に
同サイトの敷地内に墜落して、中に乗っていた
SCP-1129-JPごと収容された経緯が記録されています。
SCP-1129-JPへのインタビュー(1回目)
続いて、財団職員がSCP-1129-JPに対して行なった
インタビュー記録の内容を見ていきましょう。
対象: SCP-1129-JP
インタビュアー: 塚原博士
備考: SCP-1129-JPにはキーボードを与え、読み上げソフトを用いたインタビューであることに留意してください。また両者はカタルーニャ語で会話しています。
<録音開始>
塚原博士: ではインタビューを始めます。
私は塚原博士です。
SCP-1129-JP、キーボードの扱いは慣れてくれたかい?SCP-1129-JP: だからよ、オイラの名前は
塚原博士: [SCP-1129-JPの発言を遮りながら]アヒージョ、であることは理解しています。
しかしここであなたを示す言葉はSCP-1129-JPとなります。SCP-1129-JP: [10秒沈黙]はいはい。
オイラの名前わかったうえでそう呼ぶんだな、わかった受け入れてやるよ博士。
けどオイラの名前はアヒージョ、それは変わらないし譲らない。
これから喋る奴に毎回聞くからな?
答えられない奴とは口聞かねーからな?
1回目のインタビューの冒頭部分。
アヒージョがフランクな性格の持ち主で、
自分の名前にこだわりを持っていることがわかります。
塚原博士: わかった。
理解してくれてありがとう。
それだけ使いこなせているならキーボードにも問題はなさそうですし、いくつか質問していきます。
まず君は、どこからやってきたのですか?SCP-1129-JP: スペイン、バルセロナ郊外の牧場だ。
住所も言ってやろうか。[編集済]
元々住んでいた牧場の住所を語るアヒージョ。
しかし報告書内補遺にはアヒージョが語った住所は存在せず、
同様の牧場も存在しないことが記されています。
塚原博士: 日本までは、どうやって来たんだい?
あの航空機でヨーロッパから極東までの一万キロを飛行できるとは思えないんだが。SCP-1129-JP: ありゃオイラも面食らったさ。
いつも通りバルセロナの上空をフライトしてたら、急にスモッグが出てきて、晴れた時には極東だったんだぜ?
アヒージョが日本にやってきた方法について。
本人曰く、いつも通りフライトしていたら
スモッグが出てきて気づいたら日本にいたとのこと。
塚原博士: つまり君にもわからないということか。
[3秒沈黙] 次の質問にいこう。
君はどうしてそれだけの知能を持っているのですか?SCP-1129-JP: まぁ普通のカワウソはこんなめんどくさいモノの考え方はしないよな。
単純な話、教わったからさ。
トンガラシ翁、バルセロナの魔法使いにな。塚原博士: [7秒沈黙]あー、 魔法使い?
SCP-1129-JP: ああ、オイラの飼い主だ。
さっき言ったバルセロナの牧場主だよ。
トウガラシ愛好家名乗ってるくらいの辛党でさ。
魔法使いとしても、スパイスは必需品だとかなんとか言ってたっけ。
とにかくオイラはそのトンガラシ翁に育てられたんだ。
ここにきて新たに
「トンガラシ翁」なる人物が登場しました。
話の流れからするとトンガラシ翁には
アヒージョのような異常な知能を持った動物を生み出す力があり、
またアヒージョはこのトンガラシ翁に対して
一定の信頼を抱いているようにも見えます。
塚原博士は上記のやりとりの後
一度インタビューを終了する事を決定。
最後にアヒージョがSCP-1129-JP-1の状態の確認と
トンガラシ翁への状況説明を依頼して両者の会話は閉じます。
このように一見スムーズに進んだかに見えた1回目のインタビューですが
インタビュー後に財団がアヒージョから得た情報を元に調査を行ったところ
アヒージョが説明した住所に牧場は存在せず、
また「トンガラシ翁」に該当する人物も存在していないことが確認されました。
とはいえ心理テストの結果から
アヒージョが嘘をついていない事も確かであり、
1回目のインタビューは事実の解明よりむしろ
多くの謎を残す結果となりました。
SCP-1129-JPへのインタビュー(2回目)
塚原博士: SCP-1129-JP、君が教えてくれた住所以外のスペインの牧場には全て確認をとりましたが、君の言った土地の特徴を持つ場所は一つもありませんでした。
他になにか心当たりはありませんか?SCP-1129-JP: そう言ってもなぁ。
普通の牧場だぜ?
[10秒沈黙]あ、いや、普通じゃないこともあるか。
2回目のインタビューでは
財団が牧場とトンガラシ翁の所在を
確認できなかったことがアヒージョに伝えられます。
それを聞いたアヒージョは不思議がりつつも
牧場に関する非常に興味深い話を始めます。
SCP-1129-JP: いや、オイラみたいにさ、普通じゃない動物も少しいたんだよ。まぁ喋れるようなのはオイラくらいしかいなかったんだけど。
塚原博士: 覚えているだけ、教えていただけますか。
SCP-1129-JP: あー、ちょっと待ってくれ。まず、空飛ぶ金魚がいたな。パエリアって名前で、トンガラシ翁が住んでる小屋の中で泳いでた。それに、後ろ二本足で歩く小さいアルパカがいた。ここのテーブルより少し背が低いくらいのな。イシュケンベって呼ばれてた。
塚原博士: な、なるほど。彼らがどこからやって来たかはわかりますか?
SCP-1129-JP: なに? どこからやってきたか? [7秒沈黙]あー、トンガラシ翁が連れてきたと思ってるのか。
塚原博士: 違うのですか?
SCP-1129-JP: いや、やって来たって言い草が気になったからさ。そういや言ってなかったっけ。オイラも含めて、飼われてる動物はみんな生まれてすぐトンガラシ翁に牧場へ連れてこられた訳だが、そんときはみんな"普通"だ。"普通じゃなくなる"のは、トンガラシ翁に育てられてからだよ。オイラは言葉と飛行機の操縦を教わった。金魚のパエリアは手作りのエサを食って、アルパカのイシュケンベは爺さん手作りの矯正具を付けられてた。おかしな道具作りは、魔法使いの面目躍如ってとこかね。
牧場に関する新たな情報が出てきました。
動物たちは最初は普通で、牧場に連れてこられた後に
トンガラシ翁によって異常な性質を付与されるようです。
SCP-1129-JP: あぁ、そういうこと。[5秒沈黙]そうだ、一人元々変な奴がいたな。
塚原博士: 一人? 人間がいたんですか。
SCP-1129-JP: もう二、三年前の話だけどな。サンドウィッチ・ピーターって呼ばれてたんだけど、あいつは人間のくせに一言も喋らなかったし、日に日に背が縮んでいくんだよ。
塚原博士: [3秒沈黙]それは、小さくなるということでなくですか? あくまで背丈が縮んでいったと。
SCP-1129-JP: そうそう。最初はあんたらくらいあった背が、最後はイシュケンベくらいになった。んで、ピーターとトンガラシ翁はいつも家にいたんだけど、爺さんは仕事しててもピーターはボーッとしてばっかでさ。んである日急にいなくなった。オイラの時は激辛ソース投げつけるくらい激怒してたトンガラシ翁は、ピーターの仕事は終わったって、それっきりだったよ。
ここにきてとりわけ興味深い事実が明らかに。
牧場には動物だけでなく
サンドウィッチ・ピーターなる人間もいたとのこと。
しかもサンドウィッチ・ピーターは
牧場に雇われた従業員というわけでもなく、
ただぼーっとしていたかと思いきや
「日に日に背が縮んで」いき、
最後にはある日突然牧場から姿を消してしまったという不可思議さ。
新たな情報は次々と出てきているはずなのに
肝心のトンガラシ翁の正は一向に見えてきませんね。
本インタビューは上記をもって終了しており、
塚原博士は引き続きトンガラシ翁および
サンドウィッチ・ピーターの消息を追う旨を記して
2回目のインタビューを締めくくっています。
事態の急転
20██/██/██ にスペインのバルセロナ北西部で
ヒューム変動に伴う地震が起き、それによって
それまで現実改変に類する現象によって
外界から隔離されていた地下空間(SCP-1129-JP-A)が発見されます。
さらにその後の調査によって
その内部からトンガラシ翁のものと思われる
成人男性の遺体が発見され、
SCP-1129-JP-Aがアヒージョの語った「牧場」
だったことがほぼ確定したのでした。
財団からこの報せを受けたアヒージョは著しいショックを受け
3日間の間一切の食事とカウンセリングを拒否。
その後財団の医療部門による処置を受けて
一命は取り留めたものの精神的なショックは
完全には回復していないことが記録されています。
アヒージョがここまでショックを受けるということは
トンガラシ翁はよほど良い人だったのでしょう。
しかしそれだけに彼が一体何者で
牧場で何をしようとしていたのかという点が気になります。
そしてこの謎を解く鍵は続いて記載された
「SCP-1129-JP-A内部から回収された物品のリスト」にこそあります。
回収された物品 | 発見地点 | 備考 |
---|---|---|
32頭のジャージー種の乳牛(Jersey)及び800頭の牛の白骨死体 | SCP-1129-JP-Aの牧場地帯 | 死体は全て自然死によるものと見られる。放射性炭素年代測定によると、一番古い死体は死後98年経過しているとされる。 |
23点の低危険度異常物品 | SCP-1129-JP-Aの小屋 | Anomalousアイテムとして収容済み |
40点の用途不明な物品 | 同上 | 内6点はSCP-1129-JP-1の未知の部品と同様のもの |
手書きのレシピノート全722冊 | 同上 | 古今東西の魔術的観点から延命を目的とした料理がまとめられている。その内35万ページにチェックサインが確認されており、一度摂取した料理で複数回の延命効果を得ることは出来ないとされている。また全てのレシピにナンバリングがなされており、摂取する順番も指定されている模様。実際の効能について現在研究中。 |
男性の死体 | 同上 | 320年前から生存していた形跡が確認されるほか、遺体には魔術的な保護を目的とする刺青が施されている。死後一か月ほどとされ、SCP-1129-JP-A出現から遺体検査までの期間と符合することから、男性の死亡に前後したタイミングで転移が発生したと思われる。6死因は餓死。発見された時点から全身の筋肉と脂肪が収縮しており、加えて極度に乾燥、ミイラ化していた。 |
骨格に異常がみられるアルパカ(Vicugna pacos)の白骨死体 | 小屋の床下 | 死後70年、死因は不明。また腹部の骨に刃物で付けたような損傷個所アリ。 |
下半身が切断された男性の白骨死体 | 同上 | 死後102年、死因は不明。切断された下半身の骨も発見されているが、こちらは長さ数cmに切断されており、足の先から少しずつ輪切りにされたものと推測される。 |
前言撤回。
トンガラシ翁、完全なるクロでした。
これらの証拠から察するにトンガラシ翁の目的は
異常な料理によって自身の延命を図ることで、
アヒージョたちはそのための
食材として飼育されていたものと考えられます。
また報告書にはリスト中のレシピノートの一部が掲載されており、
その内容は例えば次のようなものです。
料理名: 牛乳とハリッサのドリンク
添付されていたメモ書き: 毎日欠かさず摂取すること。
備考: この料理に使用する食材を確保するために牧場を営んでいたと思われる。
ハリッサとは唐辛子を元に作られるペースト状の辛口調味料のこと。
これはまだ普通ですね。
料理名: 骨を曲げて育てた羊のイシュケンベ
添付されていたメモ書き: スペインの星の巡りと相性が悪いことから、羊からアルパカに変更。
備考: ブルガリアの原住民族に伝わる伝統料理に酷似。
骨を曲げて育てたというのは纏足のようなものでしょうか。
星の巡りに言及している点などはいかにも魔術的ですね。
料理名: 人肉の足輪切りハムサンドウィッチ
添付されていたメモ書き: 注意点、半年間にわたり同一人物の肉を食すこと。
備考: ポーランドのカルト教団における儀式からの引用とされる。
いきなりとんでもないものが出てきました。
先のリストにあった下半身が切断された男性の白骨死体は
このレシピの食材として供された人物の成れの果てだったのでしょう。
そして明言はされていませんが
「サンドウィッチ」というワードから
その死体がアヒージョの発言にあった
サンドウィッチ・ピーターのものであることはほぼ間違いありません。
「日に日に背が縮んでいった」という発言も
おぞましい話ですが
リスト中の殺害状況を読めば合点がいきますね…
料理名: [削除済み]と魚介のパエリア
添付されていたメモ書き: 食す前日に3時間の日光浴と88回の断髪を済ませること。
備考: サーキック・カルトが行う断食前の儀式との共通点が指摘されている。
同じくアヒージョの発言にあったパエリアの末路。
要注意団体であるサーキック・カルトへの言及も興味深いポイントです、
料理名: 空飛ぶ河童の香草煮
添付されていたメモ書き: 浮遊する神通力を持つ河童が用意できない場合、河童に航空機で空を飛ばせて熟成させることで代用可能。
この時、操縦は河童自身に行わせるなど、極力肉にストレスが掛からないように配慮すること。
また航空機はイタリアの████社7が1943年に製造した航空機を改造した物を与えること。
注意点、他に現存する機体の所在はわからないため代用不可。管理には注意すべし。添付されていたメモ書き2: 河童が用意できない場合、人語を解すカワウソで代用可能。
備考: 日本古来の仙道的儀式に由来すると思われる。尚、このページは大半が乱雑に破り捨てられていた。
報告書に記載された最後のレシピの内容。
読んでお分かりの通り、
これは明らかにアヒージョを指した内容です。
そう、その死を知って体調を崩すほど
トンガラシ翁を慕っていたアヒージョですが、
そんな彼もまたトンガラシ翁からすれば
自分の命を永らえるための食材のひとつに過ぎなかったのでした。
感想
長くなりましたが異常が本報告書の概要です。
可愛いカワウソの写真で油断させておいて、
実際の内容は今回ご紹介した中でも
一、二を争うえげつなさでしたね。
ちなみに本報告書にはtaleがあり、
こちらではSCP-1129-JP-Aから発見された
トンガラシ翁の日記の内容を読むことができます。
永遠の命に執着した翁の精神が
少しづつ蝕まれていく狂気の描写がなんとも秀逸な内容ですので
こちらもぜひ併せて読んでみてください。
おわりに
というわけで「動物SCP特集」でした。
結局、最初の一本を除いてほとんどエグい内容ばかりでしたね。
そもそもホラーコンテンツであるSCP財団に
癒しなど求める方が筋違いだったのでしょう(逆ギレ)。
それではまたの機会に。