私は別に英語力に自信があるわけではないのだが、
面白いSCP報告書をいち早くチェックするために
英語版の本家サイトにも定期的に目を通している。
そして、先日その本家サイトで
一つの気になる報告書を見つけた。
「SCP-#### - The sad man (悲しい男)」だ。
通常のフォーマットから外れたナンバリングに、
230というなかなかのupvote数。
しかしながら2022年7月2日現在
日本支部には未だに翻訳版が投稿されていない。
そこでdeeplの力を借りつつ
自力で翻訳しながら読み進めてみると
なるほど癖はあるが引き込まれるものがある。
そうして結局はディスカッションのコメントまで含めて
ほぼ全てを読み尽くしてしまったわけで、
それならもういっそ独自翻訳&独自解説という体で
当ブログでも紹介してしまおうということになった流れだ。
素人による拙い訳なので、
多々間違いはあるかもしれないが
それを了承の上でお楽しみいただければ幸いである。
それでは、いってみよう。
記事内容(独自翻訳版)
RAISA NOTICE
現在、ドラフトを編集中です。: SCP-####
ドラフトステータス : 未完成
RAISAは143人の著者がこの文書を以前に編集していたことをあなたに警告する必要があります。
その脚注は下記でご覧いただけますのでご承知ください。
▲(それが発見された場所。)
アイテム番号: SCP-####1
オブジェクトクラス 保留中2
特別収容プロトコル : SCP-####は、サイト433のどこかにある
標準的なヒューマノイド封じ込めセルに収容されています。
入室時には化学防護服を着用する必要があります。
SCP-####によって放出された涙は掃除機で清掃されます。
この間、アノマリーとアイコンタクトを取ることはできません。会話を行ってもいけません。
SCP-####へのインタビューは、
面接官がインタビュー予定を忘れた場合を除いて毎月実施されます。3
SCP-####から放出された涙をいじったりするな。
アノマリー用のガラクタ入れに流すだけでいい。
そうしなければSCP-##-1インスタンスになってしまうかもしれないし、
我々はそんなもの、扱いたくはないんだ。4
これが、私の考えている全てなのだろうか?
概要 : SCP-####は本当に悲しい男だ。5
でっぷりした体格に青い肌、球根みたいな鼻、身につけているのは靴だけ。
SCP-####の最も顕著な特徴のひとつは、
そこにあるようにさえ見えないということだ。
実物は落書きみたいな見た目をしている。6
その塩水で濡れたスポンジの様な肌には触れられない様にも見えるが
でも、触れるんだ7。
関心の対象にならないこと、それが主な異常だ。
半端な気持ちでSCP-###と話したり、書いたり、対話したりすることはとても難しい。
それが我々がこんな風にやっている理由だ。8
それに対する感情を、純粋な方法で表現することは本当に難しい。
こういう場合、どんな言葉を使うのが適切なのかさえわからないし、
今はとても疲れているから調べるのも嫌なんだ。(9 10 11)
SCP-####は悲しい男だからいつも泣いている。
話し方は自分の普段のアクセントを忘れた俳優が思いつくまましゃべったような感じだ。12
やつはいつも不幸と苦悩の中にいて、我々が可能な限り親切に尋ねても
その理由をうまく説明することができない13。
SCP-####がいつも泣き続けていることは、やつの涙が周囲に異常な影響を及ぼすために問題になっている。
それ(=涙)は水色で見た目は通常のそれと変わりないが14、拭き取られると光沢のあるシミを残す。
涙液の異常性は、それが皮膚に付着した場合に発揮される15。
涙が誰かの皮膚の上で流れると、その人物はSCP-####-1と呼ばれるものに変化し始めるのだが
その過程については未解明な部分が多い。なぜなら誰かがSCP-####-1になる様子は
ほとんどの人にとってあまりにも不快なものであって、誰もが目を逸らさずにはいられないからだ。16
SCP-####-1の外見はSCP-####に似ているが形状は違っていて、
感染した対象の哀れなバージョンとでもいった姿になる。
複数のSCP-####-1が存在する場合には
互いを慰め合おうとする姿がよく見られる17。
こいつらはSCP-####と同じで本当に悲しい奴らばかりだ。
全員が元は人間だったにも関わらず
奴らとまともに交流するのは困難だ18。
SCP-####はフレッド・ジョンソンの家屋で
泣いていたという報告を受けて財団に発見された。
ジョンソンの家の中には何もなかった。19
発見された SCP-####はサイト433に送られた。
フレッド・ジョンソンは行方不明となっている。
インタビュー記録 : 我々はそれと対話を試みた。
インタビュー対象: SCP-####
注:研究員21がDクラスに質問を書いたナプキンに持たせ、アレに向かって音読させた。質問は全部で4つあった。
(ログ開始)
D-1711: 窮屈なスーツだな。こんなので俺はどうやってノートを読めばいいんだ?
研究員がため息をつく。
研究員: さっさと部屋に入ってくれ、お前のグチに付き合っている暇はないんだ。
D-1711: おい、俺はお前らの頼みを聞いてやってるんだぞ!?俺はすべての...
研究員:まるで自分に選択権がある様な口ぶりだな。
D-1711: 俺は─ わかってるよ、ただ..あんたはわかっちゃいない! 違うんだ! 俺は...あんたは...
研究員: 入室してくれ
D-1711: わかったよ。
D-1711 が SCP-#### の収容室に入る。
SCP-####は顔を下に向け、胎児のような姿勢で泣いている。
床にはキラキラした涙の水たまりができている。D-1711は吐き気を催した。
D-1711: なんでここはこんなに暑いんだ?空調をつけっぱなしにしておくのを忘れたのか?
研究者: ああ ええーっと、そうだ。そうだったかもな。
D-1711: おいおい、マジかよ?
D-1711が笑う。
D-1711: 冗談だっての(笑)。もしかしたらこいつが泣いてる理由はそれかもな。
ジーザス、こいつは...床一面に涙が広がってるのか?掃除はしてないのか?
研究員 いいか、お前の仕事はナプキンに書いてあるクソッタレの質問をこいつにすることだ、わかったか?
D-1711: ジーザス… わかったよ。少しは明るくいこうぜ。
SCP-####、D-1711を見上げる。 その顔は汗と涙に塗れて湿っている。D-1711は驚いて後ずさりする。
SCP-####: どうした?
D-1711: ああ、お前に言ってるんじゃないんだ。あー、とにかく、あんたにいくつか質問があるんだ。
SCP-####: 鼻で笑う。
SCP-####: あんたにそれを手に入れることはできないよ。ここにもないんだ。
D-1711 はナプキンを顔にかざし、目を細めて質問を眺める。
D-1711: オーケー。じゃあ始めよう。質問その1、今の気分はどうだ?
SCP-####は一瞬泣き止み、困惑したような表情を浮かべる。
SCP-####:え?
D-1711: 質問を繰り返した方がいいか?
SCP-####: いや、大丈夫だ。ただ...明らかにそうだと思ったんだ...俺は...違うのか?
D-1711: あんたは悲しみを感じている。だろ?わかるよ。
SCP-####は泣き出す。D-1711は不安げに腕を前後にリズミカルに揺らす。
SCP-####:これでみんなに俺のことをわかってもらえるんだな。ここで俺は一度だけそれを望んでいた......
俺は知らない。知らない!知らないよ!そんな先の話じゃない!
SCP-##は癇癪を起こし、自分の体を収容室の壁に投げ出し、疲れ果てて床に横たわるまで継続した。
その間、D-1711はボディランゲージで不快感と恐怖を表現している。
D-1711: くそっ
SCP-####: いいから、俺をほっといてくれ。
質問をやめて出て行ってくれ!こんなことをしても無駄なんだ!
こんなことをしても何も変わりやしない。あんたはそれの根本に近づいてもいないんだ。
D-1711: わかったよ、続けるぜ。質問その2、どうしてあんたはこんな風になっちまったんだ?
SCP-####が表情をこわばらせる。
SCP-####: 俺にはわからな...
SCP-####は両手を口にあてて叫び出す。
SCP-####: 俺はこんなことしか話せないのか?俺は... 俺は、あんたにできる限り精一杯話すぞ、オーケー?オーケー!俺は俺だ、オーケー?俺は俺自身だったんだ 俺の名前はフレッド・ジョンソンだった オーケー?それで俺は自分の家にいた そこで何かしてたんだ フレッド・ジョンソンの糞みたいなことをしてたんだ。俺がやりそうなことをしてたんだ それが何であるか分からないが 俺はそれをやってた
その時感じたんだ。目に見えない何かが 俺の体をこするような。まるで紙やすりみたいだった。そいつは俺の外側と内側を擦り、引っ掻いた。そいつが俺に何をしているのか確かめる前に目を閉じたんだが、その直前に俺がいた部屋が音を立てて泡立ち、粉々に剥がれ落ちていくのが見えたんだ。
SCP-####:とても痛かった。それから、俺はフレッド・ジョンソンではなくなった。
D-1711: 何だって、それがあんたの悲しんでる理由なのか?
SCP-####は笑い、叫び、1分ほど泣きじゃくる。
SCP-####: 違う。
D-1711: オーケー、やってみるよ...俺は...あんたはしなくていいんだ...それは...ああ...
D-1711 は 24 秒間沈黙する
D-1711: 質問その3、なぜあんたの涙は人を変えてしまうんだ?
SCP-####: 俺は、それが唯一の方法だからだと思う。
D-1711: 唯一の方法って...具体的に何の方法なんだ?
SCP-##: わからない。
D-1711: なるほどね
20秒ほどの沈黙
D-1711: 次の質問だ。質問その4...
D-1711 が目が見開かれた様に見える。
D-1711: …こりゃ一体なんだ? こんなことを俺に言えってのか。どこのクソッタレが書いたんだ?
研究員が部屋のドア越しにくぐもった声で話す。
研究員 : 実験を遵守してください
D-1711: これを書いたのはお前だろ?
研究員がため息をつく。
研究者:わかってんのか?クソッタレが。こんなんじゃ何の意味もないんだよ。ドアを開けるぞ。
D-1711: くそったれ。
(ログ終了)
研究員は四番目の質問を書いたことで叱責されました22。
更新 :
私たちはフレッド・ジョンソン宅の捜索について良い仕事をしなかったと思います。
最終的にもう一度調べたら、バスルームの床にメモがありました。
どうでもいい。23
え?これで終わり?
以上がSCP-####の全てだ。
そしておそらく、この報告書を読み終えたあなたは今
消化不良感というか、何だか釈然としない思いを抱えているのではないだろうか。
・なぜ、SCP-####は悲しんでいるのか?
・なぜ、SCP-####の涙に触れたものもまたSCP-####の様になってしまうのか?
・インタビュー中にSCP-####が口にした「唯一の方法」とは?
・そして、ラストに掲載されたあの思わせぶりなメモの意味は?
これらの、多くの人が知りたいと思うであろう物語の謎が
何一つ明かされないまま報告書が終わってしまったからだ。
そして同時になぜこんな報告書が多くの読者の賛同を得ているのか
疑問に思っているのかもしれない(初読時の私がまさにそうだった)。
その理由について、一定の理解を得るためには
ディスカッションに記載された
著者コメントに目を通すことが助けになるだろう。
以下にその独自訳を掲載する。
著者コメント(独自訳)
あなたのハーモニウムが和音を奏でる。
私はそれを聞き、感じることができる
すべての時を超えて
すべての痛みを越えて
- Xiu Xiu - Archie's Fades
重要事項:この報告書内の文章はすべて意図的にそのように書かれています! 誤字脱字、不自然な口調、プレースホルダーを修正しないでください!
2021年9月23日に書き始めました。
淋しかったかな?
これは奇妙なものです。
この記事の発端は、心の琴線に触れるような短い報告書の流行に対する私の個人的な不満でした。
具体的にはただ悲しいシナリオを表示して、「これは悲しい、今すぐ泣け」と言わんばかりの記事です。
中には中身のないものもあり、描かれているシナリオもあまりおもしろくないものもあります。
そこで「このような不満を1つのアノマリーとして表現することができないだろうか?」と考え、この記事を作ることを思いついたのです。
この記事は短くて、奇妙で、おそらく一部の人にはピンとこないと思いますが、それはよくわかります。
また、普段より短い文章を書くのは初めてで、もっと上手になりたいと思っていたことでもあります。
いつも通り、「But A Dream」のカノンを舞台にした、悲しい男の奇妙な物語を楽しんでいただければ幸いです。
また、D-1711はここで再び登場します。
彼は今、私の極めて古いアートページへの参照にとどまりません......
私には彼についてのプランがあります。
また、誤字脱字を除けば(これは追加する必要はありません)、
私の他の記事よりもずっと翻訳しやすい記事になっているはずです。
[(報告書の中で)何が起きていたの?]
サッドマンが元はフレッド・ジョンソンであったことはインタビューログを見れば明らかなはずですが、なぜ彼はこうなったのでしょうか。
そしてなぜ財団は彼をこんなにも異様にぞんざいな態度で扱っていたのでしょうか?
理由はありません。
理由はどこにも書かれていません。
彼の犬が死んだのでしょうか?
ひどい別れを経験したのでしょうか?
彼は悲劇的に殺され、幽霊として戻ってきたのでしょうか?
答えは存在しないのだからどれも本当の答えではありません。
フレッド・ジョンソンの物語は未完成で拙いものです。
そのため彼の存在全体に興味を持つことは非常に困難です。
それを考慮すると、あなたが読んでいる報告書は
幾人もの研究者(正確には143人)が数年にわたって
『悲しい男』の報告書の執筆に取り組んだことを意味しているわけですが、
それでも未だにオブジェクトクラスやアイテム番号さえも把握できていないのです。
この興味を失わせる能力は、特に彼の涙の性質を踏まえるとかなり悲惨な影響を齎します。
そのために何人もがSCP-####-1のインスタンスになり、財団に不利益を与えています。
財団の職員はこのことを認識していて、このクソッタレを封じ込められたらどんなに楽になるか、誰もが嫌というほど分かりきっているのだが、とてつもなく強い興味喪失能力のせいで関心を持つこと自体が不可能に近いのです。
それはある種の拷問の様なものです。
オーケー、やってみるよ...俺は...あんたはしなくていいんだ...それは...ああ...。
いくら彼のことを対処すべきリスクだと思おうとしても、何かが喉に引っかかってしまう。
あなたはそう思うふりをすることさえ、ままならないのです。
こんなものに迷い込んでしまった人たちに同情するフリすらできない。
(インタビューログの4つ目の質問に研究者が何を書いたかを明かすことはしません。自分を十分に表現できないために激怒した男が、自分をそんな状態にした元凶に対してどんなことを書き出すかは言わなくても想像がつくと思うからです。)
ともあれ、もうひとつの質問に答えるとすれば、
悲しい男の涙はあのような異常をもたらすのだろうか?
本人も言っているように、"それが唯一の方法"なんです。
具体的には、それがあなたが彼に共感する唯一の方法なのです。
彼の靴を履いて歩け、という。
そして最悪なことに、彼は間違っていないのです。
あなたが彼のようになれば、自分がどうあるべきかという理由がないことの、言葉にならない気持ちが理解できるようになる。
最後のノートは、彼のバックストーリーを説明するためのものでした。しかし、見ての通り、誰が裏で糸を引いているにせよ、かなり長い間、それを書くのをためらっていたようです。彼らはそれに取り掛かるべきかもしれない 財団の抱えている問題を解消することができるかもしれないから...
SCP-####の考察
上記の著者コメントの内容を踏まえて、
疑問に思う人が多そうなポイントに対する私なりの考察を行ってみる。
報告書の文体がおかしかった理由は?
これについては報告書中にも著者コメントで明言されているが念の為。
本報告書中に「サイト433のどこかに収容されている」や
「今はとても疲れているから調べるのも嫌なんだ。」など
いつもの財団らしくない適当な記述が目立つ理由は
これはSCP-####の持つ自身への強烈な無関心を誘発する異常性に
報告書の執筆担当者たちが暴露してしまっていたため。
インタビューログ中の財団職員が
やたらナーバスな態度だったのも同様の理由から。
D-1711がSCP-####の影響を受けていなかった理由は?
インタビュー中のD-1711は陽気な様子で、
SCP-####の影響を明らかに受けていなかったが
その理由についてはディスカッション内の質問に返答する形で
著者が以下の様に答えている。
He was unaffected because he was wearing a hazmat suit.
(彼は化学防護服を着ていたので影響を受けませんでした。)
インタビュー中にSCP-####が口にした「唯一の方法」とは?
インタビュー中に、D-1711から
自身の涙が他人を自身と同じ状態に変えてしまう理由について問われたSCP-####は
その理由について「それが唯一の方法だからなんだと思う」と答えていた。
SCP-####: 俺は、それが唯一の方法だからなんだと思う。
D-1711: 唯一の方法って...具体的に何の方法なんだ?
SCP-####: わからない。
インタビュー中では具体的な意味が明かされなかったこの言葉だが、
著者コメントで著者自身による補足説明がなされている。
本人も言っているように、"それが唯一の方法"なんです。
具体的には、それがあなたが彼に共感する唯一の方法なのです。
彼の靴を履いて歩け、という。
そして最悪なことに、彼は間違っていないのです。
あなたが彼のようになれば、自分がどうあるべきかという理由がないことの、言葉にならない気持ちが理解できるようになる。
つまり、それは「SCP-####に共感するための」唯一の方法だったのだ。
このことは、後述するSCP-####のテーマの問題とも密接に関わってくる。
SCP-####に込められたテーマは?
優れた報告書には必ず何らかのテーマ、
表現したいものがあるものだが
ではSCP-####にとってのテーマとは何だったのだろうか?
それは、著者コメントによれば次の様なものだそうだ。
これは奇妙なものです。
この記事の発端は、心の琴線に触れるような短い報告書の流行に対する私の個人的な不満でした。
具体的にはただ悲しいシナリオを表示して、「これは悲しい、今すぐ泣け」と言わんばかりの記事です。
中には中身のないものもあり、描かれているシナリオもあまりおもしろくないものもあります。そこで「このような不満を1つのアノマリーとして表現することができないだろうか?」と考え、この記事を作ることを思いついたのです。
確かに、近年のSCP報告書を振り返ってみると
文章量が短く、強烈なパンチラインを備えたものほど高評価を受けやすい傾向がある様に思う。
また、読者の感動を誘うことで高評価を得ようとする姿勢に
あざとさや媚びの様なものを感じてしまう感覚はわからないでもない。
そして…
これはまた後述することだが、
この報告書がそうした精神から生まれたものならば、
オチがあんなふうになっていたことにも納得ができるだろう。
また、これはまた別の視点になるのだが、
ディスカッションに寄せられたコメントの中には
SCP-####はうつ病のメタファーだったのでないかと見る意見もある。
確かに、気持ちが落ち込む点、自分についてうまく説明できなくなる点、
周囲に感染する点、いきなり癇癪を起こす点、周囲をうんざりさせる点など
SCP-####の本質的な特徴はうつ病のそれに恐いほど合致している。
しかしそう考えると、報告書中の
「そんなものを扱わなきゃならなくなるのは我々としては御免なんだ。」
「中途半ばな気持ちでSCP-###と話したり、書いたり、対話したりするのはとても難しい。」
といった言葉が、現実のうつ病患者の周囲の家族や同僚の言葉を代弁するものの様に見えてきて、
何だか背筋を冷たいものが流れる様な気持ちになってくる。
最後のメモは何だったの?
この報告書最後にして最大の謎が最後のメモだ。
意味不明な落書きのような内容のメモが複数あったが
あれらは一体何を意味していたのだろうか?
あのメモに対する著者からの現状唯一の言及は次の様なものだった。
最後のノートは、彼のバックストーリーを説明するためのものでした。
しかし、見ての通り、誰が裏で糸を引いているにせよ、かなり長い間、それを書くのをためらっていたようです。
彼らはそれに取り掛かるべきかもしれない 財団の抱えている問題を解消することができるかもしれないから...
書き方からしておそらく、
メモから読み取れる意味などないのだろう。
何より、もしメモが"オチ"として機能したならば
先述した著者の目的には反してしまうことになるわけで…
終わりに
以上で、私によるSCP-####の翻訳、解説記事を終了する。
著者のメタ的な意図を理解しないといけないので
いわゆるショートショートできな、ストレートに楽しめるタイプの報告書ではないが
昨今の主流に対するカウンターとして面白い試みではあったと思う。
しかしながらこの報告書の真に白眉な点は
他者の苦しみは結局、その人と全く同じ状況に身を置くことでしか完全に理解することができないという、他者理解の究極的なジレンマをSCP報告書の体裁を借りて鮮やかに表現してみせた点にあったのではないかというのが私の意見だ。
そういう意味で「悲しい男」は極めてリアルな存在であり、
それゆえに多くの人の心に訴えかけることができたのだと思う。
ちょうど現在、SCP-7000を決めるコンテストが開催中であり、
間も無く7000番台の大台を突破する見込みのSCP財団だが、
本報告書をはじめ、いまだに新しいタイプの報告書が数多く投下され、
常に私たちに新鮮な驚きを与えてくれる。
今後とも、その動きを注視していきたい。