はるか太古より人類の歴史と分かち難く存在し、
今なお世界中の多くの人々の行動規範ともなっている『神』。
本日ご紹介する報告書はそんな神の名を冠し、
全SCPオブジェクトの中でも
屈指の戦闘能力を誇るSCP-2845「鹿神様」です。
SCP-2845の概要
▲SCP-2845のイラスト(by SunnyClockwork's Artwork)
基本情報
それでは早速SCP-2845が
どんなオブジェクトなのかを確認していきましょう。
アイテム番号: SCP-2845
脅威レベル: Black
収容クラス: Keter
まずはお決まりの基本情報から。
アイテム番号、収容クラス(オブジェクトクラス)は説明不要として
人によってはあまり馴染みのないかもしれない
"脅威レベル"について補足しておきましょう。
脅威レベルとはもともとフランス支部が独自に考案した
オブジェクトの分類システムで、
オブジェクトが収容違反を起こした際に想定される被害の目安を色によって区分したものです。
そして脅威レベル: Blackというのは
「世界規模での被害を引き起こす可能性があり、
世界終焉シナリオを引き起こす可能性があるオブジェクト」
に適用される脅威レベルであり、
すなわちSCP-2845が人類を終焉に導く可能性を持つ
オブジェクトであるということが分かります。
特別収容プロトコル
続いて特別収容プロトコルを見ていきましょう。
手早く要点を掴めるように
特に重要と思われる点のみ箇条書きしていきます。
・SCP-2845はサイト-100に封じ込められている
・SCP-2845の封じ込めにあたって外部からの資源調達や人材の招聘が許可されている
・SCP-2845の封じ込めには5名のDクラスを含む最低48人の人員を必要とする
・SCP-2845の封じ込めの一環として定期的に特別な儀式を執り行う必要がある
これらの中でも特筆すべきなのが
収容に当たって財団外部の人員の動員を許可している点と
封じ込めのために行われる「儀式」の存在でしょう。
前者についてはSCPオブジェクトの情報漏洩を嫌う
通常の財団の態度からすると非常に珍しい例であり、
このオブジェクトが財団内部の力だけでは
手に負えない性質のものであることが予期されます。
続いて後者の儀式については
どうやらSCP-2845の封じ込めに欠かせないものであるらしく
SCP-2845が収容されているサイト-100も
この儀式を行うための特別な仕様となっています。
サイト-100は以下のような構造となっています。
サイト-100は、リングAからリングIと指定された9本の同心円状のリングで構成されています。リングCとリングD間の隙間はギャップ1と指定されます。各リングとギャップの0°、60°、120°、180°、240°、300°の6箇所にそれぞれ円形のチャンバーが設けられており、0°のチャンバーが北に位置するように設置されています。
リングIの外側、120°と240°の2箇所には追加の円形チャンバーが設置されています。
各円形チャンバーの床には鉛を用いて継ぎ目のない六芒星が描かれています。
中央チャンバーにはSCP-2845と216個体のSCP-2845-1が収容され、内部は水素96.3%、ヘリウム3.25%、アンモニア0.45%の大気で満たされています。温度は-110℃、圧力は2.3バールに保たれています。
六芒星といえばユダヤ教ではダビデの星として
同様の図形が特別視されている他、
日本でも「籠目」と呼ばれ、
古くから魔よけの力を持つ印として扱われてきた歴史があります。
ということは本オブジェクトもそれらの宗教や信仰と
なんらかの関連性があるということでしょうか。
また、特別収容プロトコルには
この儀式の詳細な手順も記載されています。
その手順には六芒星の形状にちなんで全部で6つのステップがあり、
それらは各10時間の間隔を空け各39分間を費やして実行されます。
手順410-コンスタンティン(60°)
儀式の参加者がそれぞれことなる仮面(喜び、悲しみ、怒り、無関心、恐怖、愚者)を提示し、それぞれが誤解に基づいて互いを非難し合う茶番劇(儀式コンスタンティン-A)を演じる。
儀式は最後にサイコロを用いたゲームで閉じられる。
手順420-ペリナルド:(120°)
ルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ティンパニ、バスドラムを用いて楽曲を演奏し、儀式ペリナルド-Aと指定された特定の振り付けと歌唱を行う。
演奏はその場で行われなければならず、録音の使用も認められない。
手順430-エピメテウス:(180°)
儀式の担当者間でエピメテウス-Aの朗唱を行いながら贈り物の交換を行う。
贈り物の内容はなんでもいいがその総額は4.28ドル以内でなくてはならなず、儀式を行う部屋の周囲には穀物を散布する。
手順440-カシエル:(240°)
両足を羊毛で縛った担当者が儀式カシエル-Aを朗唱しながら0.5リットルのオリーブ油を飲む。
その後、儀式カシエル-Bを朗唱しながら200キログラム以上の岩をハンマーで砕く。
手順450-カイロ:(300°)
青いマント、王冠、王笏をを着用したDクラス職員を1名用意し、そのDクラス職員の腹部に白金ベースの溶液によってシンボル1個の点を円で囲み、円の90°の位置から上向きの矢印を引く)を描く。
その後Dクラス職員を椅子に拘束して儀式カイロ-Aを朗唱し、続いて椅子に座ったそのDクラス職員に対して別の担当者が手鎌を使った去勢処置を施す。
去勢後の精巣を塩水を満たしたボウルに廃棄し、儀式カイロ-Bを朗唱する。
手順460-オムファロス:(0°)
儀式オムファロス-Aを朗唱し、生後3ヶ月以内の乳児をローストする。
続いて儀式オムファロス-Bを朗唱し、乳児を消費する。
さらに胃石の上で儀式オムファロス-Cを朗唱しつつその胃石を一旦呑み込んでから嘔吐し、その後儀式オムファロス-Dを朗唱する。
この手順が終了次第
現在の封じ込めチャンバーに近い方から一つ外側のリングに移動して新たなサイクルを開始する。
儀式についての考察
以上がSCP-2845の封じ込めに伴う儀式の内容です。
一見それぞれの内容はバラバラに独立しているように見えますが
歌や踊りを必要とし、羊毛やオリーブオイルなど
聖書に関わりの深いアイテムが登場する点などは
共通して宗教的な匂いがあります。
しかしその中でも特に猟奇性が際立っているのが
ラスト2つの手順である手順450と手順460でしょう。
これらの手順はその中にDクラス職員の去勢と
乳児のローストという非人道的な行為を含み、
かつこの儀式が延々と繰り返し行われ続けなければならない性質のものであることを考えると、
いくら財団とはいえ、この収容プロトコルの決定には
かなりの議論を要したのではないかと考えられます。
いったいなぜ、財団はこんな残酷な儀式を許可したのか。
その理由の一端は、儀式の内容説明の末尾に記された次の一文から読み取ることができます。
封じ込め違反時にはサイト-100の核弾頭が起爆され、全財団施設が封鎖された後に手順2845-XK1「あの月を打倒せよ」が執行されます。
収容違反時には核の使用も辞さないという断固とした宣言。
これはSCP-2845の収容違反が
そのまま人類終焉に直結することを意味しています。
そのため、多少非人道的な方法であっても
SCP-2845の収容のためならば背に腹は変えられないということですね。
儀式担当者からのメッセージ
続いては折りたたみ形式で掲載されている
外部から招聘された封じ込め顧問による
サイト管理者宛てのメッセージの内容を読んでいきましょう。
私は何回も封じ込め手順とその複雑さについて質問を受けてきました。この手順の全てが本当に必要なのか、削減したり簡略化したりすることはできないのか、などの質問、そして「明らかに馬鹿げている」という主張ですら少なくとも1件受け取っています。
内容を要約すると
・儀式の手順について疑問を持っている職員が多いようだが省略、変更は一切するな。
・儀式には科学的な裏付けは必要なく、それが儀式であること自体が重要である。
・SCP-2845は神であり、科学や武力ではなく儀式と信念こそが大きな力を発揮する。
・SCP-2845はその気になればいつでも脱走できる。
・SCP-2845には知性があるが人間がその思考を理解することはできない。
・SCP-2845は自然法則のようなものである。
・儀式の手順は封じ込め顧問が占いによって導き出した。
・儀式は現在の状態に維持される。
といったところ。
ここで興味深いのは財団の最大の武器である科学が
SCP-2845に対しては全く役に立たず、
逆に占いから導き出した儀式という
極めて非科学的でオカルティックな対処法のみが有効であるという点です。
これは今までの自分たちのやり方の全否定であり、
財団にとっては相当屈辱的なことかと思うのですが
しかし実際に結果を出しているのはオカルト側の方なので
財団も黙ってそれに従うしかないという状況なわけですね。
説明
続いてオブジェクトの説明セクションです。
説明: SCP-2845は肩高2.9メートル、重量815キログラムの四足歩行の実体です。首は0.5メートルほどの長さでしなやかであり、通常直立しています。首の先端にはヒトの特徴を持った顔が存在します。SCP-2845は幅4.8メートルで白黒の水玉模様の枝角を有し、これが生え変わることは観察されていません。SCP-2845は平均して長さ10センチメートルの毛に覆われていますが、顔面は無毛です。体色はパステルグリーンで、首の下から腹面にかけて乳白色の帯が走ります。
SCP-2845の頭蓋骨の後方15センチメートルの位置に、直径1.7メートル、厚さ35センチメートルの氷粒子の環が浮遊しています。環には一定間隔で、金属水素と金属ヘリウムからなる直径15センチメートルの7個の球体が挿入されています。環と球体は毎秒1.6回転の速度で時計回りに回転しています。環の回転や球体の物理的状態を維持している力は不明であり、SCP-2845の頭部が枝角の重量を支えている手法も不明です。
まずは外見の説明から。身も蓋もない言い方をすると
「人の顔をしたデカイ鹿」あるいは「シシガミ様」といったところでしょうか。
参考までにSCP-2845で画像検索した場合の検索結果はこんな感じ。
やっぱりシシガミ様じゃねーか!
SCP-2845は物質を瞬時に変換して再構築する能力を有します。この過程では物質の生成や消滅は発生しません。実体は視界内の標的に自由にこの能力を行使することが可能で、その有効射程は不明です。
ここでSCP-2845の持つ能力の一端が判明します。
どうやらSCP-2845は無から有を生み出したり
逆に有を無に変換する力があるようです。
変換された物質は周囲の環境条件にかかわらず安定した状態にあり続けます。
報告書中ではこの性質の一例として
本来なら超高圧下でのみ生成・維持できる
金属水素※や金属ヘリウムの名が上がっており
過去にSCP-2845がそれらの物質を
実際に出現させたことを示唆しています。
(※水素に非常な高圧をかけることで生成される
金属のような高い伝導性を持った水素)
また宇宙の物質の実に76%が水素、
23%がヘリウムで構成されていること、
そして現代の宇宙論では宇宙誕生の10秒後から20分後に起きた
ビッグバン元素合成によって最初に誕生したとされる
軽い元素の中にも水素、ヘリウムが含まれていたと考えられていることを踏まえると
ここで水素とヘリウムの名が出てきたのは
SCP-2845の持つ万物創造の能力に対する暗喩なのかもしれません。
SCP-2845は物理的な損傷に対して完全な耐性を持つことが証明されています。
SCP-2845を物理的な方法で倒すことはできません(断言)。
これについては
・物理的ダメージを受けた瞬間に能力で自身の肉体を復元する
・そもそも最初から全くダメージを受けない
という2つの解釈が可能ですが
全体的な文脈から判断すると後者がやや有力でしょうか。
(後に前者の説を支持する描写も出てきたりするのですが…)
SCP-2845は一般的に、直径5-7メートルで高さ60-80メートルの円柱、または底面10-30メートルで高さ100-150メートルの円錐内の物質を変換することで攻撃を行います。しかし、最大10キロメートル離れた単一の標的を攻撃することも観察されています。
SCP-2845回収中の初期観察では、実体は非戦闘員を無視し攻撃者に対する反撃に注力していることが示されました。しかしSCP-2845は非戦闘員を変換に巻き込むことを躊躇する様子はなく、後には軍と民間人の双方に対して先制攻撃を行っていたことも明らかとなりました。
SCP-2845の攻撃方法についての言及です。
攻撃対象を選んでいることから
知性があるのは間違いないようですが
かといって無関係の人間を巻き込まないような
優しさを持ち合わせているわけでもないようです。
SCP-2845による変換を受けた人間をSCP-2845-1と指定します。
SCP-2845-1は高さ2.4メートルと測定される六角柱で、ゴム状で黄緑色の皮膚を有します。
SCP-2845-1はいかなる外部感覚器官も保有しておらず、剖検では内臓も同様に存在しないことが示されました。
その脳は周囲の臓器や外部物質を取り込んで再編成され、六角柱の全体に拡大しています。
SCP-2845-1がどのように栄養を得るのか、そもそも栄養分が必要なのかは不明です。
ここでさらっと恐ろしい記述が出てきました。
SCP-2845は人間自体を別の物質に変換することもできるようです。
SCP-2845-1の脳機能イメージングでは、その脳は定常的に高度に活性化していることが示されました。
複数個体の分析からは呼びかけとそれに対する応答のパターンが見出されており、SCP-2845-1個体の間で何らかの遠隔コミュニケーションが行われていると推定されます。移動性を有するSCP-2845-1個体が報告されていますが、この個体は捕獲と研究から逃れ続けています
SCP-2845によって変換された人間は外見上もはや
人間とは呼びがたい姿になっているものの死んだわけではなく、
それどころか外部の呼びかけに反応することから
人間としての自我が残っている可能性すらあるとのこと。
SCP-2845-1にされた人間がその後
どのような行動をとるのかについては記述されていませんが
これまでに明らかになったSCP-2845の性質を鑑みると
いつSCP-2845の手駒として人類に牙をむいてもおかしくはありませんね。
補遺
それでは最後に本報告書のラストパートにあたる
「補遺」の内容を見ていきましょう。
2011年11月27日: C/2011 W3彗星1が初めて観測される。
2011年12月1日: C/2011 W3彗星がマウントジョン天文台により確認される。
2011年12月2日: C/2011 W3彗星が小惑星センターにより確認され、命名される。
2011年12月16日: C/2011 W3彗星は近日点に到達。ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー2は、彗星から光速の18パーセントの速度で分離する破片を記録する。
2011年12月17日: 破片の軌道が地球と交差することが確認され、衝突は12月21日と推定される。トート・ステーションによる阻止手順は破片の軌道変更に失敗。国連による告示が行われ避難が始まる。
2011年12月21日: 破片はアメリカ西海岸から124キロメートル離れた太平洋に衝突する。
2011年12月24日: SCP-2845はこの日に海岸に到達したと考えられている。
2011年12月25日: SCP-2845が一般の録画映像により初めて観察される。ドローンによる接触が行われ、SCP-2845は敵対的だと確認される。米軍内の財団資産は、世界オカルト連合の戦力の支援を受けて回収および封じ込めに乗り出す。近隣の財団封じ込めサイトは封鎖態勢に移行する。
2011年12月26日-29日: 初期の総合的なテストと共に、SCP-2845に対する砲撃が開始される。SCP-2845の特性が確認され、外部の封じ込め顧問に連絡が行われる。
2011年12月30日: [データ削除済]。16時間の間、SCP-2845は妨害を受けていない状態となる。
2011年12月31日: 砲撃が再開される。
2012年1月1日-14日: SCP-2845は絶え間ない砲撃によってシエラネバダ山脈を横断する経路に誘導されている。██████ ████████は初期封じ込め手順を開発中。
2012年1月15日: SCP-2845は前もって定められた封じ込めエリアに到着。初期封じ込め手順が開始される。
2012年1月18日: 初期封じ込め手順は成功に終わる。
2012年1月20日: サイト-100の建設が始まる。
2012年2月3日: 封じ込め手順の改善が進行中。
2012年2月19日: SCP-2845の封じ込めが宣言された。
この時系列表の中で特に重要だと考えられるポイントは主に2つ。
まず一つはSCP-2845が実はW3彗星※とともに
地球にやってきた地球外生命体だったという事実です。
(※W3彗星は2011年11月27日に
地球の近くを通過したことで話題となった直径500mほどの彗星で、
当時はそれを発見したアマチュア天文ファンの名前をとった
ラヴジョイ彗星の名で大きな話題となりました。)
ラヴジョイ彗星 (C/2011 W3) - Wikipedia
具体的に宇宙のどこからやってきたかを特定するまでには至りませんが
SCP-2845の正体を考察する上では非常に重要な情報ですね。
そしてもう一つ重要な点が
2011年12月17日に発生した彗星衝突と
それに伴う国連の避難指示が出された時点で
SCP-2845の存在を一般社会から隠蔽することが
非常に困難な状態に陥ったという事実です。
これは財団用語でいう「壊された虚構シナリオ」にあたり、
もしSCP-2845の存在が世間一般に知られれば
必然的にそれを封じ込めようとする財団の存在も
世間一般に知れ渡ることとなり、
今後の活動に多大な支障が生じることは必至です。
その意味で本オブジェクトは二重の意味で
財団の喉元に刃を突きつけた
かつてない強敵であると言えるでしょう。
ちょっと消化不良?
さて、本報告書の内容は
上記の補遺を持って終了となります。
しかしここまでの内容を読む限りでは
確かに脅威的な存在ではあるものの特に目立ったオチもなく
多少の消化不良感を感じないでもありません。
そこでそのもやもやを少しでも解消するために、
報告書内の描写から読み取れる
本オブジェクトの正体を考察してみることにしましょう。
考察 SCP-2845の正体を考察!
それではここからSCP-2845の正体に関する考察を進めます。
まず結論から言ってしまうと
本文中から合理的に推測できる最も有力なアイディアは
SCP-2845が土星(Saturn)およびその命名元となった
ローマ神話の神サトゥルヌス(Sāturnus)と深い関連性がある(またはサトゥルヌスそのものである)存在だとする説です。
その証拠はいくつかありますが
中でも最も分かりやすい伏線は説明セクションで言及のあった
SCP-2845の後方に位置している氷粒子の環でしょう。
これはその形状、構成要素共に土星の輪っかのそれと一致しており
SCP-2845が土星をモチーフとしていると言う見方を強く補強するものです。
また報告書中でSCP-2845が生成したとされる
ヘリウムと水素は土星の大部分を構成する分子でもあり
この点にも両者の関連性が認められます。
さらに儀式の内容に目を向けてみると
そこにはより多くの関連性を見出すことができます。
手順410-コンスタンティン
・コンスタンティンはヨーロッパ圏で用いられる名前で
東ローマ帝国の首都だった
コンスタンティノープルの語源でもある。
・本手順中の茶番劇には道化が自身を王だと宣言する場面があるが
ここからはローマ時代に行われた農耕の神サトゥルヌスを祀る祭事、サートゥルナーリア祭との類似性が見て取れる。
(サートゥルナーリア祭では祭りの期間中のみ貴族と奴隷の立場を逆転させ、例え奴隷が主人に口答えしても罰せられることがなかった)
手順430-ペリナルド
・イタリアにはペリナルドという同盟の自治体が存在している
・踊りと歌唱は祭事に欠かせないものであり、サートゥルナーリア祭を連想させる。
手順430-エピメテウス
・エピメテウスは土星の衛星の名前でもある。
・サートゥルナーリア祭にも贈り物の交換の風習があった。余談だがこのサートゥルナーリア祭が後のクリスマスの起源になったとも言われている。
・穀物の散布の描写は農耕の神サトゥルヌスを連想させる
手順440-カシエル
・カシエルは西洋のオカルト界隈で土星の天使とされているユダヤ教の天使。
・羊、オリーブ油ともにユダヤ教と関連の深いアイテムである。
手順450-カイロ
・カイロ(エジプト)は出エジプト記でユダヤ教徒が脱出した地である。
・Dクラス職員を椅子に縛り付けて去勢する場面があるが、サートゥルナーリア祭でも祭りの過程で椅子に縛り付けられた人間を生贄に捧げていたとされている。
手順460-オムファロス
・乳児を消費(食べる)描写はルーベンスの絵画で有名なサトゥルヌスの子喰らいの逸話を彷彿とさせる。
ひとまず気がついたのはこのくらいでしょうか。
素人の私が見てもこれだけ見つけられたので
古代キリスト教やユダヤ教の知識がある方ならば
もっと多くのヒントを見つけ出すことができるかもしれません。
ともあれ、少なくともこれだけあれば
本オブジェクトが土星およびサトゥルヌスと
深く関連していることの証左には十分でしょう。
そして仮にSCP-2845がサトゥルヌスの化身だとすれば
その能力は過去の存在した数多のSCPオブジェクトと比較しても
文句なしに最上に位置するものであるはずです。
なにせサトゥルヌスは古代ローマでは
ギリシャ神話の神クロノスと同一視される存在であり、
クロノスは全宇宙を統べた二番目の神々の王とされる
まさに神の中の神とも呼ぶべき存在なのですから…
taleで後日談
SCP-2845報告書の内容解説は以上で終了ですが、
実はこの報告書の末尾には同著者による
後日談的なtaleへのリンクが設定されています(※本記事の執筆時点では日本語未翻訳)。
October 15th, 2012 - SCP Foundation
その内容はSiddhi Sehgalという
O5-7を務める一人の女性が暗い物思いに耽る内容で、
そこでは財団がSCP-2845に対して何もできなかったこと、
SCP-2845の情報漏洩によって一般社会に財団の存在が認知され、
そのことによって世間からのSCP-2845への早急な対処への圧力が高まったこと、
そして財団がその圧力の末に何らかの手段を講じて
SCP-2845の殺害に成功した(であろう)ことなどが幾分婉曲な表現で記述されています。
しかし内容を読む限りそれで全てが丸く収まったわけではなく
財団の存在が周知されたことで未来の見通しは更に不透明になり、
最後の描写も公園のベンチに孤独に佇むO5-7という
非常に暗い未来を予感させる描写で終了しています。
本taleは独訳していて解釈に戸惑う部分が多々あり
これが必ず正しい内容とは断言できませんが、
仮に正しいとした場合に意外なのは
無敵と思われたSCP-2845が
最終的に財団によって倒されたと解釈できることです。※
(※本文中では「モンスター達は殺された(Monsters were killed)」とだけあり
明確にSCP-2845が倒されたとまでは言及されていません。
気になる方は原文をチェック。)
ですがこのことは元ネタであるクロノスが
神話の中で最終的にその子供であるゼウスら兄弟の手によって
倒されていることを考えると、
そのメタファーとして無くもない展開のように思えます。
またこのtaleについてもう一つ興味深かったのが
SCP-2845報告書の時点で示唆されていた
壊された虚構シナリオの発生が
このtaleではより明確に示唆されていることです。
これはシェアワールドとしてのSCP財団の設定に
深く関わる重要な問題であり、
ディスカッションではこの点に難色を示して
dawn vote(反対票)を投じているメンバーも見受けられました。
私自身は各報告書の世界はある程度
独立しているものとイメージしていたので
それほど強い違和感を感じることはありませんでしたが
厳密に考えだすと色々とまずい問題が出てくる描写なのかもしれませんね。
おわりに
以上で今度こそSCP-2845の解説を終了します。
神の名を冠するだけあって
流石にとんでもない力の持ち主でしたね。
読み物としてみると設定の面白さ一本勝負といった感があり、
好き嫌いがはっきり分かれそうな本オブジェクトですが
果たしてあなたはどうお感じになったでしょうか。
それでは、またの機会に。