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はじめに

こんにちは、daimaです。

本日は私が読んできたSCP報告書の中でも
読んでいて胸の痛くなるような切なさを味わった
悲劇的な報告書7編をご紹介します。

選出基準の都合快適な読後感はお約束しかねますが
結末が悲劇だからこそ心に響くものもあるはずです。

それではどうぞ。

SCP-451「ミスター・ロンリー」

SCP-451 - SCP財団

オブジェクトクラス: Euclid

世界中から誰もいなくなって一月が経った。
[編集済]に触るべきじゃなかった。
応援を呼ぶべきだったんだ。

そうすれば少なくとも、
人類皆殺しの責任は他の誰かさんのものになったのに。

SCP-451はかつて財団エージェントだった白人男性です。

彼はある危険なアーティファクト(=人工物)の運搬中に行方不明となり、
その1ヶ月後に再びかつての勤務先であるサイト-19に姿を現します。

しかし戻ってきたSCP-451は例のアーティファクトの影響か
周囲の現実を正しく認識できない状態にあり、
特に自分以外の人間については
その存在を認識することすらができないようでした。

これはSCP-451の視点から見れば
突如として自分以外の人間が地球上から
一人残らず消え去ったようなものであり、
かくして(周囲からはSCP-451の姿が見えているのに)
一人孤独の中で生きることを余儀なくされたSCP-451は
サイト-19にて食べ物や備品を(無断で)調達しながら
サバイバル生活を開始します。

一方でサイト-19を管理する財団側は
備品の消失や他の職員による目撃談から
ほどなくSCP-451が戻ってきたことを知ります。

しかし財団は意外にも
彼を独房に閉じ込めり鎖に繋ぐようなことはせず
2名の警備員をつけた上で彼がサイト-19の内部を
ある程度自由に移動することを黙認する方針をとりました。

一見財団らしくないこの判断ですが、
その理由は失踪前のSCP-451が
非常に優秀なエージェントであったことにありました。

財団はできることなら彼の異常を取り除いて
職場復帰させたかったのであり、
そのためにも無理に彼を拘束して
悪い刺激を与えるようなことは極力避けたかったのです。

しかし、それはあくまでも組織としての財団の考えであって
サイト-19の職員全員がそう考えていたわけではありませんでした。

SCP-451が「地球最後の男」になって2ヶ月が経過した7月8日、
具体的な自殺方法を考えるほど
精神的に追い詰められつつあった彼は
ある日サイト-19を探索中に放置されていた拳銃を発見します。

無論それはたまたまそこに置かれていたわけではありません。

恐らく徘徊老人のようになってしまった
かつての同僚を見続けるのが忍びなかったのでしょう。

サイト-19のある職員がせめてもの慈悲として
あえて彼が見つけやすい場所に放置していたものだったのです。
(SCP-451の自殺を幇助した職員は全員停職になるとの
御触れが通達されていたにも関わらず…)

かくして拳銃を手に入れたSCP-451は
孤独と罪悪感の地獄から自身を解放するため
その拳銃を自分の頭に向けて発砲します。

しかし放たれた弾丸はなぜかSCP-451をすり抜け、
運悪くその先にいた別の研究員に命中してしまったのでした。

そしてその瞬間、これもなぜか
銃撃を受けた研究員の姿がSCP-451にも見えるようになり、
久しぶりに他社の姿を見たSCP-451はその喜びに浸る間もなく
自分のせいで虫の息となった研究員を助けるために
救急器具を取りに向かいます。

しかし器具を持ってSCP-451が戻ってくると
さっきまで床に倒れていた研究員の姿はもうなく
SCP-451は再び地球最後の男に逆戻りしてしまったのでした。

また報告書中には
銃撃を受けた研究員がその後死亡しており、
また彼がSCP-451に何らかの有益な情報を
伝えることもなかったことが記されています。

かくしてSCP-451に慈悲の心を向けたある職員の行動は
SCP-451を救うことにならなかったばかりか
それが図らずも無関係の別の職員※の命を奪う結果となる
新たな悲劇を招いてしまったのでした…
(※もしかすると、この職員が拳銃を置いた可能性も…)

感想

最後まで誰も救われない、
非常にブラックな結末で終わったこの報告書。

報告書中の描写を元に
明言されていな部分を推測してみると
SCP-451の身に起きている認識異常に法則性がないこと、
そしてSCP-451の拳銃自殺未遂の際に
まるでSCP-451に見せつけるように
いきなり犠牲者の姿だけが見えるようになったことを考えると
SCP-451の身に起きた一連の事象は
悪意のある何者か※によってコントロールされていた可能性も考えられます。
(※最初に出てきたアーティファクト?)

そしてその推測が正しいとすれば
犯人はそうとうひねくれたクソ野郎だと言わざるを得ないでしょう。

ちなみに本報告書最下部には
関連taleへのリンクが設定されており、
そこでは事件後の時間軸も含めた
SCP-451の日記の内容を読むことができます。

これまでのあらすじを読んで興味を惹かれた方は
ぜひともこちらもチェックしてみてください。

SCP-321「我々の子供」

SCP-321 - SCP財団

オブジェクトクラス: Safe

SCP-321の知性は非常に低いレベルです。
日常の活動はSCP-321にとって面倒な仕事であり、SCP-321に食事用具の使い方などを教えることに数ヶ月、あるいは数年がかかります。
声帯は完全に発達していますが、会話を学習することは不可能なようであり、その代わり生後6ヶ月の乳児が発するような意味のない声を出したり泣き叫んだりします。

SCP-321は通常の人間の半分の速度で老化せず、
しかし肉体の成長速度は人並みであったために
身長3.1m、体重110kgという
常識はずれの巨体に成長してしまった人間の女性です。

SCP-321はもともと18██年7月4日に
財団職員のアダムと同じく財団所属の医療アシスタント、
エヴリンの間に死産で生まれてきた子供でした。

しかし娘の死を認められなかったアダムは
娘を生き返らせるために
SCP-590※を始めとする様々なSCPを手当たり次第に使用。
(※触れた人間の怪我や病気を治せるが、
代わりに自信が後遺症を追う能力を持った少年)

結果として娘を生き返らせることには成功したものの
生き返った娘の身には上記の老化の異常を始めとする
様々な異常が起きてしまいます。

またSCP-321に起きた異常は老化の異常の他にも
知能の遅れ、皮膚メラニンの欠乏、
想定を超えた身体の巨大化による血液循環の不全、
通常の人間の5倍もの自己治癒能力などがあり、
特に最後の自己治癒能力に対して財団が強い興味を抱き、
それを知った時点でアダムの娘をSCP-321に指定することを決定しています。

こうしてSCPオブジェクトに指定されたSCP-321は
財団施設内で物理的な拘束を受け、
血液循環の不全からくる身体の腐敗と
回復能力のテストとして財団から与えられる
様々な負傷に苦しめられつつも死ぬことすら許されない
極限の地獄を味わわされることとなったのでした。

この状況に対し、全ての元凶でありながら
それでも娘を愛する気持ちが残っていたアダムは
娘をこの地獄から救い出すためにある意外な手段を取るのだが…

というのが本報告書のおおまかなあらすじです。

アダムが具体的にどういう手段をとったのかについては
とても報告書内でとても秀逸な描写がなされていますので
ぜひとも実際の内容を読んでお確かめください。

そこで言わんとしていることに気づいた時、
思わずハッとさせられること請け合いですよ。

感想

娘を救いたいという父親の願いが
最悪の自体を招いてしまったこの報告書。

アダムの軽率な行動は責められるべきかもしれませんが
もし自分がアダムと同じ立場に立ったとしたら
絶対に同じことをしないとは言い切れないのが
何とも感想に迷うところですね…

SCP-818「放棄された研究プロジェクト」

SCP-818 - SCP財団

オブジェクトクラス: Neutralized (元Keter)

SCP-818は厳密な習慣を有する生物であることに留意すべきです。
SCP-818は、文字通り、毎日欠かすことなくある特定の規則に従って行動します。
SCP-818がこの規則に逸脱した行動をとる時刻がこの規則に組み入れています。
その時刻はSCP-818を慎重に監視する必要があります。
言うまでもないことでしょうが、SCP-818の新たに増えたいかなるすべての逸脱した行動について注意することを怠れば、破滅的な結果につながる可能性があります。

SCP-821は家主が事故死して放置されていた
とある家屋に放置されているのを発見された
深刻な自閉症の症候を示す7歳から12歳くらいの若年男性です。

財団はSCP-821に「世界をSCP-821が知覚している通りに改変する」
現実改変能力があるものと推測しており、
この推測はSCP-821の体格が頻繁に変化することや
遊び道具として支給されたクレヨンの色を変化させたこと、
あるいはSCP-821が眼閃※を実際に具現化した事例などによって補強されています。
(※明るいものを見た後に目を閉じると
まぶたの裏に閃光のようなものが見える現象。
体験してみたい人は部屋の電灯を数秒間見つめた後に目をつぶってみましょう。)

SCP-821の持つ能力の限界は未知数であり、
加えて先述した精神的な障害を抱えているために
自発的な能力の制御も困難であることから
人類終焉のリスクを内包する一種の危険因子に該当するわけですが、
しかし財団はSCP-821をすぐに終了することはせず、
逆に8年間もの間施設内に収容して研究と実験を続けていました。

ですがSCP-821の行動は時を経るにつれて
だんだんと予測不能で危険なものとなっていき、
それが教養範囲を超えた収容開始8年目のある時ついに
財団は薬物注射によるSCP-821の終了を正式決定します。

ただ、話はそれで終わりというわけではなく
本報告書にはSCP-821の終了措置決定後に行われた
とある実験とその結果が詳細に記録されています。

家族のそっくりさんを使った実験

その実験というのはSCP-821が発見された
家屋で回収された写真に写っていた3人の人物に
見た目がそっくりなDクラス職員を選び出して
SCP-821に接触させることで
SCP-821から何らかの有意義な反応を引き出そうというものでした。

そうして行われた実験のうち、
最初の2人については特に有意義な反応が得られなかったものの
SCP-821の母親と思われる人物に似た
3人目のDクラス職員(♀)がSCP-821と面会した後に
他のオブジェクトの収容違反(たぶんクソトカゲ)に巻き込まれて死亡し、
SCP-821の元に現れなくなったことで事態は急展開を見せ始めます。

きになるその結末は例によって
報告書本文を読んでお確かめ頂きたいと思うのですが
私自身の感想を述べておくと
とにかく切なくてやるせない気持ちになる内容でした。

人類の存続のリスクを考えれば
確かにああする他なかったのは分かるのですが
それにしてもあんな出来事を見せられては
もう少し他にやりようがなかったのかと
財団に対してちょっとした憤りを感じてしまいましたね…

財団の本当の目的に関する一考察

本報告書は上記の実験記録で終了となりますが
報告書の内容を改めて振り返ってみると
ひとつ大きな疑問が頭の中に残ります。

それは「危険な存在であるSCP-821を
財団側はなぜ8年間も保持し続けたのか」
という疑問です。

無論、財団はどこぞの要注意団体のように
アノマリーの破壊をその主目的としておらず、
人類の存続を脅かさない限りにおいては
その保護を行うことを最優先としています。

しかし本オブジェクトに関しては
その能力上人類終焉のリスクを含むことが明らかであり、
なおかつ財団側がその気になればいつでも簡単に
始末することはできたというのに8年もの間
そのリスクを容認し続けたというのは少々不自然に感じられます。

そして、この疑問に対して私が考える一つの回答は
「財団がSCP-821を制御方法を見つけることで
自分たちに都合の良い道具に仕立てあげようとしていた」
とする仮説です。

その後、████博士は[削除済み]を提案し、これによりSCP-818の捕獲に至りました。

上記抜粋はSCP-821回収時の様子を記した
説明部分に記載されていた文章であり、
例えばこれの[削除済み]の箇所を
「SCP-821を研究し、その能力を財団の活動の役に立てること」
と読み替えてみても自然に意味が通ります。

そしてこの仮説においてもう一つ重要なのが
「放棄された研究プロジェクト」という本報告書のタイトルです。

本報告書中に財団以外の要注意団体の影も形もないことを考えると
「プロジェクト」を「放棄」したのは財団以外に考えられず、
もしそうであるならばこのタイトルは
財団がSCP-821を私有化しようとして失敗した結果
役に立たなくなったSCP-821を無情にも放棄(=終了)したことを
指すものだったのだと解釈することができてしまうわけです。

とはいえこれはあくまでも一つの憶測に過ぎず、
例えば別の視点として終了措置決定後にも関わらず
SCP-821の実験が続けられていたことを
財団スタッフが最後までSCP-821を殺さないで済む道を
模索していたからだと好意的に解釈することもまた不可能ではありません。

つまるところ、財団を冷徹なだけの組織と見るか
それとも人間らしい温情もある組織と見るかは
最終的には読む側の判断次第、といったところでしょうか。

私的は上記の説のどちらもあり得ると考えていて、
財団上層部はSCP-821を道具としてしか見ていなかったけれど
現場の職員の中にはSCP-821に情が移って
最後まで命を助けようとしていた人も
いたんじゃないだろうかと勝手に妄想しています。

SCP-821「ディキシー・ファンランド」

SCP-821 - SCP財団

オブジェクトクラス: Safe Neutralized

ショーが開かれることはもうありません。
あなたがアーケードに向かっても、そこにあるのはひび割れたピンボール台と空っぽのUFOキャッチャーだけです。
他は全て壊れるか姿を消しました。
他の皆も変わりました。皆、余り幸せそうではなく、もっと苦々しい雰囲気です。
もしも子供が今日入ってきたら、彼らはその子を殴りつけるでしょう。

SCP-821はフロリダ州エシュビルのゴーストタウンに存在する
1950年代に建設されたと思しき激しく劣化した建造物です。

財団によるこのオブジェクトの収容は50年代の末から開始されており、
収容初期および収容以前の時期には今に見られるような劣化もなく、
SCP-821の内部ではまるで生きたように動く回転木馬や
人と会話ができるロボット人形、原材料なしで作られる食品、
高得点者を褒め称える催し物のゲームなどが存在し、
これらのメンテナンスはSCP-821-1に指定された
銅製の人間型自動人形によって行われていたことが記録されています。

また後述するtaleにはこれらの遊具が財団による収容以前は
実際に遊園地として一般客相手に稼働していたことも示唆されています。

しかし1989年4月11日に事件SCP-821-Aが発生すると
それを期に全てのSCP-821-1が破壊されるか失われるかし、
中の遊具たちは近づくものを噛み付いたり
叩いたりするなどの攻撃的な挙動を取るようになり、
SCP-821自体も急速な構造崩壊の兆候を示し始めたのです。

事件SCP-821-A

事件SCP-821-Aとは1989年4月11日に
SCP-821の入り口が何者かによって突如として封鎖され、
「廃業」の張り紙が出現した一連の現象です。

この時財団は全てのSCP-821-1が消えていることを確認し、
さらにメインフロアの中心で一通の手紙を発見しています。

友人達へ。恐れていた日がやってきてしまいました。この知らせを伝えるのを悲しく思います。みなさん知っての通り、ファンランドは長い受難の時を過ごしていました。辛い日々にもかかわらず、我々は常になんとかして乗り切ってきました。しかしもう限界です。私は巨大アミューズメント企業の遊園地やアトラクションを見てきました、我々はそんなものとは張り合えません。子供たちはここのような古い場所には興味がありません。ピンボール、大きなバルサのショー舞台、回転木馬……。こんなものには見向きもしないのです。こんなものには飽き飽きしているのです。時代は変わりました。

私はみなさんがファンランドの成功のために人生を懸けてくれたのを知っています。それは私にとって最も辛いことです。皆さんは家への帰り道で、気前のいい解雇手当を受け取るでしょう。みなさんの貢献に感謝します。

ミスター・ファンランド

以上が手紙の全文です。
このミスター・ファンランドが何者で
どういう能力を持っているのかは謎ですが
ただ一つ言える確かなことはこの手紙の内容が
胸を刺すような哀愁に満ちているということです。

おそらくミスター・ファンランドとSCP-821の遊具たちは
純粋に人を喜ばせることが好きな無害な存在だったのでしょう。

しかし彼らの遊園地はある日財団によって接収され、
昔のように一般客が訪れることはなくなり、
さらに時代が進むについれて大手資本による
もっと新しくてもっと魅力的なアミューズメント施設が次々に登場し
彼らのような伝統的なスタイルの遊園地自体が
もはや見向きもされない時代遅れの無用の長物となってしまった。

そしてそのことに気づいたミスター・ファンランドは
遊園地の閉園を宣言した上で
SCP-821-1のみを回収していずこかへと去ってしまい、
残された遊具たちは悲しみのあまり
人に危害を加える危険なアノマリーになってしまったというのが
本報告書のおおまかな顛末であったと考えられます。

tale「季節は過ぎ行く」

またこの報告書の最後には
SCP-821内部の遊具の視点で書かれた
1編のtaleへのリンクがあり、
そこではかつてたくさんの人で賑わった
素晴らしい日々への追憶と変わり果ててしまった
現在のSCP-821に対する哀しみが綴られています。

時々… 時々、僕はまだ、'56年の終わりを思い出すことがあるのです。僕たちはもう一度そこにいられるのではないかと思うのです。もう一度車たちが行き交い始め、観光という名前の生命力がこのひび割れて古ぼけた家へ流れ込む日が来るのではないかと。多分、来年ぐらいでしょう。僕はそれを感じます。

しかしこのtaleの最後には上記の一文があり、
まるでSCP-821が再びかつての栄光を取り戻す
可能性を匂わせるような締めくくり方がなされています。

その予感が実現するかは不透明ですが、
個人的には彼らに何らかの救いの手が
差し伸べられることを願ってやみません…

感想

私などは子供の頃に遊んでいた遊び場だとか
親によく連れて行ってもらったおもちゃ屋さんだとかが
潰れて別の施設に変わっていたりするのを知ると
まるで自分が昔そこで遊んだ思い出ごと
失われてしまったような錯覚を覚えることがありますが
この報告書を読んだ時もそれに近い感覚がありました。

こうした過ぎ去った時代への
ノスタルジー的な感情というのは
おそらく国や文化や時代が違っても変わらない
人類共通の感覚なのでしょうね。

ちなみに余談ですがこの報告書の本家ディスカッションでは
本報告書のミスター・ファンランドが
ワンダーテインメント博士のプロトタイプではないかという説が出ていました。

確かに「ミスター」というワードや
おもちゃ的なオブジェクトが関係しているところ、
基本的には悪意のないところなどは
確かに偶然の一致だと切り捨てるには
あまりに似通い過ぎているようにも思えますね。

果たして真相やいかに…

SCP-1357「子供のための遊園地」

SCP-1357 - SCP財団

オブジェクトクラス: Safe

Fredricks: 大事なことなんだ。ただ質問に答えてくれさえすればいい。[娘のほうを向いて]いまはダメだよ、仕事中だからね。

SCP-1357-A-4878: 仕事? なぜです、Fredricksさん!仕事なんて馬鹿げたこと、心配しなくてもいいでしょう!楽しみましょうよ!見てください、娘さんは遊んでほしがっていますよ!

SCP-821に引き続き遊園地ネタ。
まさかのネタ被りですが
内容は全くの別物なのでご安心ください。

SCP-1357はポーランドにある4㎢の敷地を持つ遊園地で
一般的な遊園地と同じようにゴーカートや
グッズ売り場などの施設を備えています。

SCP-1357内の施設の利用に対して金銭の請求が行われることはなく、
SCP-1357内部のアトラクションの種類は
SCP-1357の超常的な現象を発生させた人物のうち
最も年齢の低い対象の好みを反映させたものに変化します。

またSCP-1357がその超常性を発揮するには
以下の条件を全て満たす必要があります。

  • 最少2人、お互い恋愛関係にある人物が存在する。
  • 最少1人、18歳未満の人物で、前述の人物を保護者としている人物が存在する。
  • 全員がSCP-1357-Bの現物を所持している。

SCP-1357-BはSCP-1357の入場に必要なチケットのことで
具体的な例で言い換えると「SCP-1357-Bを所有している
子連れの夫婦」であればSCP-1357の超常性を
発揮する条件を満たしていると言えるわけですね。

加えてこの条件が満たされると
その瞬間にSCP-1357内の至る場所に
既存のキャラクターの着ぐるみや衣装を身につけた
大量の人型実体(SCP-1357-A)が出現※し、
SCP-1357の客または従業員として友好的に振る舞う事も確認されています。
(サムネイルでは大量の熊の◯ーさんが出現しています)

このように概要を見る限りでは無害そうな本オブジェクトですが
推測で物事を判断することを良しとしない財団は
財団所属のエージェントFredricksとその家族(妻、娘)に
別の人物から回収したSCP-1357-Bを持たせた上で
SCP-1357内部に入場し、SCP-1357-Aから
情報を引き出すことを目的とする実験を行うことを決定しました。

SCP-1357-Aへのインタビュー

報告書の中盤以降は
1357の取材ログと音声記録で構成されています。

内容は会話形式で読みやすい形にっているので
実際に報告書を読んでいただくのが手っ取り早いかと思いますが
時間のない人のために結論だけ書いてしまうと
「インタビューの途中でエージェントFredricksの行動が
SCP-1357-Aに営業妨害だと見なされて妻とともに強制退出させられ、
残された娘は一人拉致に近い形でSCP-1357内部に置き去りにされる」
という非常にまずい事態が発生してしまいます。

その後しばらくは娘に取り付けられていた
音声記録装置がSCP-1357-Aの一体とともに
SCP-1357内部に留まっている様子を伝えていたのですが
それも以下のログを最後に完全に途絶してしまいました。

Hailey: お父さんとお母さんのところに連れてってくれるの?

SCP-1357-A: どうして? もう楽しくなくなっちゃったのかい?

Hailey: お母さんとお父さんがいなくてずっと、ずっと寂しいの。

SCP-1357-A: でもほら、僕たちは君の家族だよ!

Hailey: 違うよ! みんなは私の友だちだよ。 欲しいのは家族なの。

SCP-1357-A: それじゃ、もう僕たちのこと嫌いになっちゃったのかい?

Hailey: もちろん好きだよ! でも家族のほうがもっと好きなの。

[長い沈黙]

SCP-1357-A: [ため息]うーん、まあこういうこともあるよね。 おいで、君の家族に会わせてあげるよ。

[5分ほど、足音が続く]

Hailey: スティーブ? スティーブ、道に迷っちゃったんじゃないの?

SCP-1357-A: 大丈夫だよ、大丈夫。

Hailey: 何あれ? なんだか怖いよ…

SCP-1357-A: 家族に会いたい、そうだねHailey? さあおいで! これに乗って君の家族のところまで行けるよ!

Hailey: ほんとに、ほんとに約束してくれる?

SCP-1357-A: もちろんだよHailey! 君にウソなんてつかないよ!

Hailey: うーん…分かった。

[摩擦音、ビープ音、回転音などがする]

SCP-1357-A: また会おう、お嬢ちゃん。

Hailey: [悲鳴]

注釈: この時点で音声送信装置は故障した。

これはひどい(本音)

もし自分がFredricksの立場でこれを聞いたら
きっといが縮こまるような気持ちになったでしょう。

そして案の定というべきか、
エージェントFredricksは上記の録音を聞いた直後に
財団の許可を得ず単身でSCP-1357への襲撃を結構します。

Fredricksは罵声を上げながら
約30体のSCP-1357-Aを殺害したものの
結局娘を取り返すことはできず、
最後にはSCP-1357-Aに背後から殴られて気絶させられてしまいます。

その後財団側から勝手な行動に対する警告を受けたFredricksは
しばらく間を置いた上で今度は正規の手続きの元
再度SCP-1357への実験に参加することが許可されます。

そしてそこでついに娘を見つけ出すことに成功するのですが
ようやく再会を果たした娘はまるで赤の他人のように
エージェントFredricksに対して何の反応も示さず、
15分の間意思疎通の努力も虚しくエージェントFredricksは
せっかく再会した娘の帰還を諦めて退場せざるを得ませんでした。

音声記録-1357-Psi

本報告書の最後には
SCP-1357-Bと共に送られてくるパンフレットに載っていた
SCP-1357の電話番号への通話を傍受した記録である
音声記録-1357-Psiの内容が掲載されています。

Hailey: こんにちは、こちらPlayland、家族に最高の楽しみを提供します!ご用件をどうぞ?

男性の声: 娘を返してくれ。

Hailey: 申し訳ございません。あなたの娘さんは私たちと一緒に居たがっています。でもいつでも来てください。お知らせしていただければ、2枚のチケットをお送りします!それでも、娘さんはここに居たがると思いますが。

Haileyが洗脳されたのか、改造されたのか
それとも音声を真似ただけで
本物のHaileyはどこかで生きているのか。

報告書はここで終わっており、
全ての真実は闇に紛れたままです。

任務に忠実だったあまりに
理不尽に娘を奪われたFredricksの境遇を思うと
Haileyが生きている可能性を信じたいものですけどね…

感想

以上がSCP-1357の内容です。

楽しげな遊園地と不気味な人さらいのギャップが素晴らしく
最後まで一気に読まされてしまいました。

映像ではなく音声ログとしたことで
読み手の想像力を掻き立てる
ホラーものとしての見せ方の工夫もナイス。

ちなみに音声ログで名前が出てきた
スティーブとは90年代にアメリカで放映されていた
子供向け番組「ブルーズ・クルーズ」の司会者を務める
お兄さんで、本家ディスカッションでは
「これを読んでしまったせいで
(ブルーズ・クルーズ)のスティーブを
もう今までと同じようには見れないよ」
といった意見もありました(笑)。

scp-1322「死滅の穴」

SCP-1322 - SCP財団

オブジェクトクラス: Keter

scp-1322は安定した楕円形の時空間異常であり、
その出口はホモ・サピエンスに類似した生命体(SCP-1322-A)が暮らす
並行宇宙へと通じています。

scp-1322は1952年8月に財団によって発見され、
さらに翌月にはscp-1322-A文明の言語で書かれた
メッセージを内封した金属製の円筒がscp-1322内部より出現しました。

財団の言語学と数学の研究員がこれを解読し、
そのメッセージの内容が友好的なものであることがわかると
財団側もこれに応える友好的なメッセージをscp-1322を通じて送信。

かくして両者の間には友好的な協力体制が敷かれ、
お互いの文化や科学技術に関する
様々な交流が活発に行われるようになりました。

scp-1322-Aの特徴

上記の交流の結果、scp-1322に関する次の事実が判明します。

  • scp-1322-A文明はホモ・サピエンスと殆ど差のない人種によって構成されている。
  • 財団にメッセージを送ったのはscp-1322世界に存在するある政治組織に属する科学的機関である。
  • scp-1322-A文明の技術および工学知識は高度に発達しており、特に数学と高エネルギー物理学は地球のそれを凌駕しているが、反面生物学の知識については地球より大きく後れを取っている。
  • scp-1322はscp-1322-A文明の研究実験で意図せず生まれた偶然の産物である。

お互いにそっくりな世界だけど、
学問の発展度合いにバラツキがあるというのが
なんだか面白いですね。

今の所友好的な関係が保てていますし、
今後さらにお互いの不得意な分野を
カバーし合うような関係を築くことができれば
財団にとって非常に心強い味方となることでしょう。

SCP-1322-Aが天体観測の詳細なログを提供し、財団が往復運動していることを示唆。財団の研究者により提供されたデータの分析の結果、我々が観測可能な宇宙空間内には、SCP-1322-Aに提供されたデータと関係づけられる位置が存在しない蓋然性が強く示唆された。

この交流では同時に天文データの交換も行われたようですが、
ここでSCP-1322-A側の提供したデータが
財団側の観測可能な宇宙の領域内の
どのデータとも合致しないことが判明しました。

財団職員は、SCP-1322-A文明へ送信するデータファイルを収集。データは、保安上の懸念により、サイト-122管理官の指示で変更を加えられた。データファイルの送信後9時間以内に、SCP-1322-A文明は偽情報を識別し、財団職員が相互の科学的・文化的発展のためにより率直になるよう提案した。提案は検討のためO-5へ転送。

これを訝しんだ財団側は
あえて部分的な改ざんを加えた天文データを送信しますが
この小細工はSCP-1322-A側に見破られてお叱りを受けてしまいます。

しかし財団側はともかくSCP-1322-A側についても
偽装した天文データを送信していないとは言い切れません。

これまで順調に行われてきた交流に
ここに来て初めてケチがついてしまった格好ですが、
果たして両文明はお互いを信じ続けることができるのでしょうか…?
(ちなみにその後財団はオリジナルの天文データを
SCP-1322-A側に送るかどうかの判断を保留しています。)

終わりの始まり

天文データの一件から10年の空白期間が空いた1972年、
SCP-1322-A側の応答時間が急速に悪化し、
財団側がその理由について質問した結果
SCP-1322-A側で悪質なウイルスが蔓延したいることが判明します。

生物学の分野でSCP-1322-Aに長じる財団側は
SCP-1322-Aの力になるためウイルスのサンプルの転送を要求。

適切な隔離処理がなされたサンプルを受け取ると、
それがインフルエンザウイルスの変種であることを明らかにし、
SCP-1322-Aに分析データを送信するとともに
ワクチンの合成および接種の実施を提案します。

そしてSCP-1322-Aはこの提案を受け入れ
世界中に財団の開発したワクチンの投与を実行。

かくしてウイルスの拡散は阻止され、
SCP-1322-Aは平和を取り戻し
両世界の間には以前にも増して強い絆が生まれたのでした。

めでたしめでたし。

…だったらよかったのにね。

第二のトラブル

財団によるウイルスの根絶から2ヶ月後の1973年12月、
SCP-1322-A側から受胎数の急激な低下が報告されます。

さらに翌年5月には出生率の劇的な低下が報告され、
SCP-1322-A側はそれらが財団の投与した
ワクチンの副作用であるとする見解を提示。

引き続き出生率の減少がSCP-1322-A側に
広範な社会不安を広げていることが示され、
これを受けて財団の提示した支援提案も
「結構。あなた方は十分にやってくれている。」
というメッセージとともに拒否されてしまいます。

そして1975年の5月、
SCP-1322-A側の機関の運営体制が変更されると
その論調は財団側に対し攻撃的なものに変化。

1975年7月には
SCP-1322-A側から一方的な
科学的・文化的交流の打ち切りが告げられ、
1975年9月にはSCP-1322-A世界の
過去2ヶ月間の世界出生数が1000人未満となったことが伝えられます。

攻撃開始

交流当初の友好的ムードが一転、
崖を転げ落ちるように悪化した両者の関係は
1975年10月にSCP-1322-A側から送られてきた
次のメッセージを持っていよいよ修復不可能なものとなってしまいます。

SCP-1322-Aからの最後の受信。通信は次のような文章であった。"貴様らは我々を殺戮した。よくもやりやがったな。貴様らの軽率と傲慢が、我々の未来を打ち砕いた。だが必ず復讐する。それが約束と誓いだ。我々最後の世代の。思い知るがいい。"

この後一切の通話記録は示されず、
記録されているものはSCP-1322-Aが
SCP-1322を系有して様々な兵器を用い、
財団世界を滅ぼそうとする試みと
それを淡々と阻止し続ける財団側の対応の繰り返しのみです。

03.1984
SCP-1322を介してSCP-1322-A側よりコヒーレント放射エネルギーの高エネルギービームを発射、続いて即座に様々な病原体が投入された。ビームによる損傷は修復され、病原体は隔離及び破壊。

01.1994
SCP-1322を介してSCP-1322-A側より、質量最低8kgの鉄の棒が、推定速度・光速単位0.000062で発射、続いて即座にナノボットが投入された。棒による損傷は修復され、ナノボットは隔離及び破壊。

11.2008
初撃に続いて注入された物質は、気体から、分子間距離が気体より広い固体へと瞬間的に相変化して室内へ高圧を及ぼし、甚大な被害を与えた。固体は急速に蒸発し、その後病原体及びナノボットが投入された。病原体及びナノボットは破壊され、施設は修復。

06.20██
SCP-1322を介してSCP-1322-A側より、複数の小型化熱核兵器を投入、爆発。続いて様々な角度で高エネルギー粒子ビームが連射された。サイト-122は広範囲に損傷を受けたが、ビーム停止後に投入された病原体及びナノボットの隔離には成功。

読んでいると結構ギリギリな描写もありますが
病原体やナノボットが毎度あっさり阻止されている点は
両者の生物学のレベル差が出た結果でしょうか。

そしてこの記録の中でもう一つ興味深いのが
財団が相手の攻撃に対して一切の反撃をしておらず
ひたすら防御だけに専念していることです。

もしかすると財団はわざわざ反撃などしなくとも
そう遠くない未来にSCP-1322-Aが完全に沈黙することを
わかっているのではないでしょうか。

そうだとするならばやはり例のワクチンは
財団側によってSCP-1322-Aに送り込まれた
「予防策」だったと考えるのが妥当なのかも…しれませんね。

感想

次元の壁を超えた研究機関同士の熱いコラボ…
と思いきやまさかの憎しみと復讐の物語となってしまった本報告書。

先ほど私が考えたように
財団側が先手を打ってSCP-1322-Aを意図的に攻撃したのか、
それとも財団は本心から相手を助けようとしたにも関わらず
計算違いでとんでもない副作用がでてしまっただけなのか。

その判断は(例によって)読者の手に委ねられています。

SCP-014-JP-EX「君のその顔が見たくて」

オブジェクトクラス: Explained

SCP-014-JP-EX - SCP財団


██博士: どうして外の世界に来たのですか。

SCP-014-JP-EX-1: 分からない、分からないんだ、皆が狂ったように笑ったあと気が付いたらあそこに立っていた。

██博士: 笑った後、とは。

SCP-014-JP-EX-1: 意味が分からない、何なんだ、面白かったよ、笑える、君のその顔が見たかった、だと、何なんだ。

SCP-014-JP-EXは精巧なコスプレ風の衣装を身に纏い
自分に特別な能力があると主張するものの
実際はなんら特別な能力を持たないという奇妙な子供たちのグループです。

最初の例は200█年に「東京都の路上にて
身元不明で国籍不明のコスプレイヤーと思しき女児が発見された」
というニュース報道がなされたコーカソイド女児で、
このニュース興味を抱いた一人の財団エージェントが
対象への調査及びインタビューを試みました。
(この女児を後にSCP-014-JP-EX-1に指定)

魔法の国の皇女さま

██博士: 翻訳機作動開始。こんにちは、あなたのことを聞かせて貰えないでしょうか。

SCP-014-JP-EX-1: 私に対する無礼な扱いは赦そう。私のいたところがどこか知るために質問に答える。

██博士: あなたはどこから来たのですか?

SCP-014-JP-EX-1: 私は"王国"第一皇女だ、私の王国以外に国はない、むしろここがどこか知りたい。別の世界のようだが…

上記は件の女児(SCP-014-JP-EX-1)に対する
インタビューログの冒頭部分です。

一見すると冗談のようにしか思えないこれらの発言ですが
財団が対象の脳活動を計測した結果
虚偽や記憶の改竄の痕跡は見つからず、
同時に統合失調症のような精神疾患が原因だとする見方も否定されています。

また、対象の身についていた衣類や杖は
単なるコスプレの域を超えた非常に精巧なものであり、
加えて発見時の対象がエスペラント語の文法をベースに
ドイツ語などの十数ヶ国の言語を組み合わせて作られた
意味不明の言語を話していたことなど
普通の人間がジョークでやるには
あまりにも手が混みすぎているという謎もありました。

SCP-014-JP-EX-1に"魔法"を使用させる。SCP-014-JP-EX-1は道具として所持していた儀杖と"魔法陣"を描くための筆記具を要求した。

SCP-014-JP-EX-1: 少し時間がかかる。火を司る神への真言を周囲に描き、中心部には炎を表す紋章を描く必要がある。描いたのは久々だが…

██博士: いつもは描いていなかったんですか。

SCP-014-JP-EX-1: 練習場に既に描かれたものがあり、そこでいつも練習していたからな。まあ問題ないだろう。

SCP-014-JP-EX-1: 大丈夫、いつもやってきたことだ、何も問題ないはずだ。

約2時間後、"魔法陣"が完成した。

SCP-014-JP-EX-1: 準備ができた、始めてもよいだろうか。

██博士: よろしくお願いします。

SCP-014-JP-EX-1: では始めよう。火と炎を司る我が友よ、今一度我に力を貸してほしい。その聖なる火を持って敵を打ち砕け、"Mein Leben war sinnlos"

魔法陣には何も生じなかった。

SCP-014-JP-EX-1: おかしい、どうして、いつもはあんなにうまくいっていたのに…Mein Leben war sinnlos! Mein Leben war sinnlos!

██博士: …あなたはその文章の意味を理解していますか。

SCP-014-JP-EX-1: 炎を生じさせる呪文だ。呪文なんだ…

██博士: 分かりました。…実験を終了します。

こちらもインタビューログからの抜粋です。

意味のない呪文を唱え続ける女児の姿には
なんともいえない切なさが感じられますが
それ以上に引っかかるのが
第一に女児の「いつもはあんなにうまくいっていたのに」という発言です。

もしこの発言が事実だとすれば
かつては本当に魔法が使えていたことになります。

彼女は本当に異世界の皇女様で、
地球にやってきたことで魔法の力を失ったとでもいうのでしょうか?

そしてもう一つ重要な点がインタビュー中に彼女が唱えている
「Mein Leben war sinnlos」というドイツ語の呪文の内容です。

これについては報告書中に説明があり、
その内容がドイツ語で「私の人生は無意味だった」という
ものであったことが明かされています。

加えて女児が実験中に唱えた他の呪文も
その意味を翻訳してみれば
「私は愚かな犬」「私はただの人間」などの
自虐的な内容のものばかり。

一体この世のどこに自分を卑下するような文言を
呪文に設定する魔法使いがいるというのでしょうか?

インタビューログを読み終えても
SCP-014-JP-EX-1に関する謎は
ますます深まっていくばかりです。

あまりも残酷な真実

ここまで謎ばかりが増えてきましたが
財団がSCP-014-JP-EX-1の供述をたどった結果
██県の廃遊園地跡にたどり着き、
さらにその中のSCP-014-JP-EX-1が魔法の練習場所としていた箇所で
特撮に用いられる火炎放射器を発見しました。

続いて廃遊園地の土地の持ち主の調査を行ったところ
SCP-014-JP-EX-1の養育者と見られる
ある資産家(SCP-014-JP-EX-A)の存在へと辿り着き、
警視庁公安部の権限を借りてこれを拘束します。

SCP-014-JP-EX-A: 一体何の権限があって私をこんなところに閉じ込めているんだね。君たちは警察か?なら早く弁護士を呼んでくれ。

██尋問官: (SCP-014-JP-EX-1の写真を見せる)この子のことを知っていますね。

SCP-014-JP-EX-A: ふん、いや全く知らないね、何だこの子は、馬鹿なんじゃないかこんな格好して。

始めは否定的な態度だったSCP-014-JP-EX-Aですが
尋問官が[編集済]をすると態度を改め、
全ての真相を白状し始めました。

SCP-014-JP-EX-A: 仲間内で面白いことをしようと色々話してたんだが、ある日新しく入ってきた奴が人間を”飼育”したら面白いんじゃないかと提案したんだ。そしてその飼育した人間に今まで飼育していたことをバラすとどんな顔をするか、とね。面白いことに飢えていた私たちはそれに飛びついたわけだ、本当に凄いこと考える奴がいるもんだと感心したよ。

そう、SCP-014-JP-EX-Aとその仲間たちは
「人間の子供に空想の話を信じ込ませて育成し、
対象が十分に空想の内容を信じきったところで
いきなり真実をバラすことでその反応を楽しむ」
という他人の人生を使った悪趣味な遊びを思いつき、
本当にそれを実行してしまったのでした。

██尋問官: どうして街中で解放したんですか、証拠が残るかもしれないのに。

SCP-014-JP-EX-A: 私に繋がる証拠は全て隠蔽した。所持品からも足が着かないようにしたし、あんなデタラメの言葉で人にワケを話せるはずもないしな、むしろお前らどうやって私まで行きついたんだ…。解放、いや"放流"したのはそうした方が滑稽で面白いと思ったからだ。必死になって"魔法"を使おうとするところを想像するだけで心が躍った。ところで私は何の罪に問われるんだ、児童虐待か何かにしかならんだろう、とっとと警察にでも引き渡してくれ。

ちなみに冒頭で説明があったように
SCP-014-JP-EXは先の女児だけではなく
財団が確認しているだけでも他に
3例のSCP-014-JP-EXの存在が確認されています。

感想

アノマリーでこそなかったけれど、
ある意味下手なアノマリー以上に悪質だった今回のケース。

被害にあった子供たちの将来を思うと
なんともやるせない気持ちになってしまいます。

とはいえ報告書中には財団が
彼らの社会復帰を手助けしようとしていることや
他のSCP-014-JP-EX発見に尽力していることが示されており、
その点ではいくらかの救いを感じないでもありません。
(ちなみにSCP-014-JP-EX-1についてはその後
社会復帰のリハビリを経て財団所属の
フィールドエージェントとなったことが記録されています。)

あと他に思ったこととしてはこのお話のコアに
俗にいう「厨二病」の概念があることですね。

そういう意味では日本支部だからこそ
書くことのできた報告書だと言えるのではないでしょうか。

おわりに

以上で今回の記事を終了します。

方向性は違えどどれも私たちの心に
ある種の切なさややるせなさを感じさせる報告書ばかりでしたね。

ちなみに最近私の身の回りで起きた一番切ない出来事は
風で荒ぶったカーテンが
育てていたサボテン(白桃扇)の耳をへし折ったことです。

それではまたの機会に。

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